第51話 夢渡りの来訪者◆三度目 ②


「……最近は良く来るのですね。

もう朝ですよ。夢渡りの魔法の効果も切れる頃です。

そろそろ帰る時間では?」


「何を怒っているの?

私のものを勝手に使われて、怒りたいのは私なのに」


彼女は茶化した様子で口の端を上げました。


「……あなたのこと、ようやくわかりました。

アライス殿下の妃、エルザ妃殿下ですね。

あなたが私を知っていたのも納得です。まだあなたがお元気だったころ、何度か式典で同席しましたね」


「あら、ようやくわかったの?

それにしても忌々しいわ。

私に姿があったなら、あなたからその腕輪を取り返すのに。

それはとっても大事なものだから」


「そんなに大事なものなんだったら、ちゃんと手元に置いておいたらいいじゃないですか」


「そんなこと、私の立場ではできないのよ。万が一夫に見つかれば、大変なことになるでしょうしね」


彼女は肩をすくめました。


「あなたは恐れ多くも王の兄、アライス殿下の妃です。でも、ルカを、その……愛してるってこと、ですよね? それって、どういう……」


言いかけた私の言葉にかぶせるように、彼女は微笑みました。


「さあ、どういうことでしょうね?

それはあとでゆっくり考えてちょうだい、聖女様。

ただ、今はそんなこと話してる場合じゃないの。私、あなたに大事なことを伝えに来たのよ。昨日は具合が悪くて、伝えそびれちゃったから。

それにしても、あなたがかえって来るまで、ずーっと待たされたせいで、何度か夢から覚めちゃって、ここに戻ってくるのが大変だったわ」


彼女ははぁ、と面倒そうにため息をつきました。


「よくきいて。

あなたのこと、オズワルドが必死に探してる。血眼になって居所を突き止めようとしているわ。あれは意外といい嗅覚をしているから、遠からずあなたを見つけてしまうかもしれない。ちょっと前に耳にしたの、魔術局の誰かが、あなたの手がかりを得たかもしれないっていう話をね」


私は息をのみました。


証拠……。何が見つかったのだろう、と私は考えを巡らせました。

私にたどり着く手掛かりは、そう多くはないはずです。物で言えば私の飛ばした伝書バトくらい、人で言えばアルド、そして目の前の彼女、エルザ妃殿下くらいしか、私がここにいることをしりません。

一体どうやって手がかりをつかんだのでしょう。


ルカが、言っていたこと……私がリディス王国の王と兄妹なのであれば、王に命じられたオズワルドに見つかることは、私の身の危険を意味します。


「そんな深刻な顔しないで。まだ噂で、確定じゃない。

でもなんにせよ、もしあなたが見つかったら、今の王とオズワルドは、きっとあなたにひどいことするわ。

だから、そうなる前に、ルカと二人で、私の館へいらっしゃい。かくまってあげる。ルカはもちろん、あなたも歓迎する。どうせ私の館には、私一人が療養しているだけよ。あなたたちがいるって、ばれることはないわ」


「どうして……?

あなたに何の得があって、そんな話を……」


「あなたが私の切り札ジョーカーになると思ってるから」


彼女は、その美しい相貌でにっこりと笑いました。


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