第32話 神祖の大聖女の力 ②


私は吹き出しました。


「まさか! 聖女が死者をよみがえらせる?

そんな奇跡の技を私が持っていたなら、魔術局のオズワルドに国を追放されることもなかったでしょう」


「えー、でも物語とかでは昔の聖女様がそういう奇跡をおこなったってあるじゃないですか」


「それは建国の物語なんかに出てくる、女神から直接祝福された最初の聖女、神祖の大聖女が行ったとされる聖蹟せいせきのことですね。

そんな技ははるか昔に失われて久しく、聖女と言えども、私なんかが使えるものではないんです」


「じゃあ手足の再生も無理なのか?」


「ええ、残念ながら」


ルカの言葉に私が頷くと、アルドが残念そうに笑いました。


「へー。聖女ルチル様に頼んで、俺の右手を復活!とか一瞬思ったんすけどね。やっぱだめかー」


「あっ、はい……大変申し訳ないです……」


私は少し申し訳なく思いながら、樹上のアルドの右手を見ました。


「ああっ、違うっす、冗談っす、そんな真面目に深刻にならないでくださいっす」


といいながら、アルドは義手の右手は使わずに、左手だけで、器用にスターシアを次々にもいでいきます。


「その……聖女だったといっても、私にできることは、そんなに多くはなかったですし、それほどすごいこともできなかったんです。

人々を守るために、結界を張ること。悪しきものを浄化すること。

そのくらいのことしかできないんですよ」


ルカが微笑みました。


「立派なことじゃないか。

そのおかげで、このリディスの国の人間は、これまで魔物に襲われることもなく、平和に穏やかに、何事もなく暮らしてこれたのだから」


「そう、かもしれませんね」


ルカの言葉に、私はまた、自分の国のことを思いました。

神殿の新しい聖女が、結界をはれないなら、今頃私の国はどうなっているのでしょうか。それに、神殿のララや神官長さま、馴染みの巫女たちはどうなったのでしょう……。

魔物が出れば最前線で戦わせられる騎士局の騎士たち、魔術局の魔術師たちだって、ただですんでいるはずがない……。


「それにしても先輩、運がよかったっすよね、

聖女さんって何かすごくいい人だし、聖女さんのおかげで人間に戻れてるし。

女運の悪い先輩にしては良い人に出会えたと思うっすよ、俺」


言いながらアルドがおかしそうに笑いました。


「お前はスターシアをもぐよりもおしゃべりが多いな」


少しむっとしたように、ルカがいじわるな声音でいいました。


「なぁルチル? このはしごを降ろして、もう俺たちは帰ろうか。

アルドはこのままにして」


「えー、どうしましょう」


「ああ~ひどいっ、置き去りにしないでくださいっす~!

俺は今までルカ先輩のために色々働いてきたじゃないですか」


「冗談だ。

さ、そろそろアルドのかごもいっぱいになっただろう。早く降りてこい、アルド。

戻るぞ」


そうして、私達3人は、スターシアでいっぱいになったかごを担ぐと、ルカの家へと戻ったのでした。

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