第30話 聖女は戻って来いって言われても


「で、実はですね。お嬢さんが聖女さんであってるなら、伝えるべきことがあると思っていまして」


「何なんだ?」


ルカがそれをきいて怪訝な顔をしました。


「お嬢さん王都で探されてますよ。行方不明の聖女として。

でも、戻ったら何か危なそうな感じっす。というわけで間違っても戻ったらだめっすよ?」


「それは……どういう」


「えーと、そうっすね、どこから説明したものか。

まず、聖女さんが王の不興をかって、王命で王都を追い出されたって話は町の皆が知ってたっすけど。

聖女さんが追い出されたあと、新しい聖女がたったらしいです。

新聖女サラ。でもまー神殿はいまだに聖女じゃなくて聖女代理だって言ってますけど、その辺はどっちだっていいでしょう。

ともかく、その新しいサラって聖女、ぜんぜん力がなくって聖女の結界がはれなかったんすよね」


「じゃあ魔物たちが国に入っているんじゃないか?」


「そうっすね」


「なんてこと……

じゃあ私、戻らなきゃ皆が……」


危ない、とまで言いかけた私の言葉を、アルドがさえぎりました。


「そう、そこっすよ」


アルドは私をじっと見ました。


「俺が言いたいのは、お嬢さん、今は国に戻らないほうがいいってことっす。

今になって、魔術局と騎士局、そして神殿が、王命によって行方不明の聖女ルチルを探しているそうです。

情報提供すれば少なくない謝礼も支払われるって。

聖女ルチルを追い出したのはオズワルドだって噂になってましたが、今回聖女ルチルの捜索隊を筆頭で率いてるのが魔術局の第一魔術師のオズワルドだって話っす。

噂になってますよ。表向きは捜索とかいってますけど、オズワルドはルチル様を捕まえて、良からぬことをするつもりだって、だからルチル様のいた神殿が非協力的で、筆頭で探さないんだって」


それに……とアルドは迷うように口にしました。


「……俺の考えが正しければ、お嬢さんすごく危ないっす。

もしかしたら、殺されちゃうかもしれない」


「殺される……? それは、どういう……?」


「いや、それはその……。ほら、オズワルドは自分に敵対した人間には容赦しないって有名じゃないっすか。

ともかく、お嬢さんがこの森にいることは知られていないようですが、気を付けることっす。国が心配でも、戻っちゃいけないし、見つからないようにしないと」


「見つかる、ということで言えば、心配はないだろう。

この森に入ってくる人間はまずいない。

ここは、入れば狼に殺される呪われた死の森だと言われている場所だ」


「はは、そうっすね。いやあ、お嬢さん、この森に逃げたのは得策でしたね」


「そう、ですね……」


私はうなずきました。

その先は、食べていたご飯の味が、なんだかあまりわかりませんでした。



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