8話「暁の子」ー前編
(前回のあらすじ)
"若松物産"のポスター案の打ち合わせに行っていた辰実と怜子であったが、味元の"怜子が写っている写真を載せたい"という提案を受け、突然怜子に影が差した事で辰実は回答を引き延ばした。…その後の怜子が泣いていた様子を察して、彼女は早々に仕事を引き上げる。
彼女を恫喝していた月島。その時の記憶と共に怜子は、"何もしていないのに何故、自分だけが酷い目をみなければならなかったのか?"と泣き叫ぶ。
しかし感情を一挙に吐露した後、冷静になった怜子は"スケベなニワトリ"と共に辰実が"箝口令"と言って隠していた内容が"怜子に関わる事"と、怜子の契約解除に月島が関わっている可能性を推測したのであった。
*
怜子が帰宅する前に、時間は遡る…。
『あれは間違いねえ、確実にナンパだ!』
言い張る屋良さんであるが、"人は噂話が好きだからな"と思いながら辰実は送信された写真データを確認する。確かに、怜子に言い寄る若い男の写真であった。
「…見てくれは"ナンパ"ですね。それで、あの子はホイホイとついて行ったとかじゃ無いでしょうね?」
『いいや、怒って走って行ったぞ』
怜子の心配が現れたのか語気を強めてしまった辰実に、少しだけ焦った様子で屋良さんは答える。
『そんな子じゃねえだろうよ』
「まあ、そうですね。…もしまた、この男が何かしているようであればお手数なんですが、すぐ俺に伝えて頂いても構いませんか?」
『分かった。すぐ伝えるよ。』
"ありがとうございます"と辰実が答えると電話は切れた。…送られてきた写真に写っていた"防犯カメラによく映っていた"男を眺めている辰実が、いつもより険しい顔をしていた。
(何なんだ、ただ"尾行する"だけじゃ無かったのか?)
懸念であった。"怜子がナンパを断った"となれば、その先断られた男はどうなるのか?"プライドを折られた人間"がストーカー化する(現時点でも十分にストーカーであるのだが)と、最悪のパターンも考えれば"怜子の生命"に関する問題にも発展する。それが"殺人"になるのか"魂の殺人"になるのかに関わらず、彼女を雇った側の人間としては避けなければならない事であった。
*
眠りに落ちて、怜子が目を覚ましたのは午後5時を過ぎる前であった。
"スケベなニワトリ"の手も借りながら推測を重ね、辿り着いた結論と言うのは、"求められるならその声に答えたい"という気持ち。一通りの整理がつき、その事を辰実には伝えておかなければならなかった。
…それなのに寝てしまった訳であるが、終業前には何とか間に合った訳である。
慌てて携帯電話を手に取り、辰実に連絡を入れると2コールで彼は電話に出た。
『どうした、…もう落ち着いたのか?』
「遅くなってすみません、もう大丈夫です。」
『ひとまず落ち着いたようで良かった。"若松物産"との話については次また何時やるか未定だ、いちおう味元さんとは"今週中に"とだけ話はしてある。…とりあえず、どういう案にするかは白紙にして話し合おう。』
「その事ですが黒沢さん、味元さんが言ってました"私をモデルに"という話なんですけど…。"やりたい"と言ったらダメですか?」
『…駄目だ、と言う事は無いが。君が良いのであれば俺は一向に構わない。』
「でしたら、やらせて下さい」
電話越しではあるが、怜子の声には"決意"のような感情が聞こえた。データでしかない、"電話越し"の音声のやり取りであって生の声を聞いたという訳では無いにも関わらず、本当に見たような感情が伝わってきたという事であれば問題は無いのであろう。
『分かった。味元さんには俺から伝えておくよ。』
「ありがとうございます。」
『あとそうだ、この場で伝えておこう。…昨日、"若松物産"に行く時に話をしたアクセサリーの件だが、うちでは明後日からキックオフする事になった。君に任せたいのはアイデア出しや造形スケッチになるが、"サポート"という扱いでは無くしっかりと意見を出してくれれば取り入れていきたいと思っている。』
怜子を除いて"アヌビスアーツ"の面々は男性しかいない。この事が"女性用のアクセサリーをデザインする"上では致命的な問題であった。…それだけに怜子の存在が重要となってくると言う事は、辰実から伝えていなくても怜子には分かっていた事である。
「分かりました、よろしくお願いします」
『じゃあ、また明日』
それだけ伝え、辰実との電話は終わった。
*
(さて、帰るか)
辺りを見回してみれば、"Tシャツ3人組"も伊達も、帰り支度をしている。おおよそ終業前にやる事が終わると言うのはホワイトな職場なのだろう。
怜子から電話が来た後、"モデルを引き受けたい"という話をすぐに味元へと辰実は伝えた。"はい、味玉です"とか言って先制攻撃を仕掛けてきたせいで咳き込んでしまい、最初は話す内容を忘れてしまったのは内緒にしておきたい。
"明日、また打ち合わせをさせて頂いてもいいですか?"と話をしたのは、味元が爆弾を仕掛けてきた所為では無い。"怜子をモデルにする方の案"が勢いよく進むためには、"当日まで伏せておく"方が良いと思っただけなのはここでは内緒である。
「よし、帰ろう皆。これからは俺達自身の時間だ!」
急かすように熊谷、栗栖、マイケル、そして伊達を事務所から帰宅させた後、辰実は事務所のセキュリティを設定した後に退勤した。
夕焼けの商店街は、やけに肩が軽かった。
(家に帰る前に甘いものが食べたい)
少しだけの寄り道をしようと思った辰実は、"Bobby's Sweets"へと足を運ぶ。甘いものが食べたくはあったが、人と話もしたいという気まぐれが、気の置けない友人の所を勝手に指名する。
「いらっしゃい」
「マリトッツォを2つ頼む」
ダーク系の木材を壁にあしらい、その壁にアサルトライフルが立て掛けられた物騒な店内に入るや否や、店番をしていたボビーに挨拶をされる。それに被せるように辰実が注文したのは、"苦難の道を往くマリトッツォ"、店主のボビーが"開発に最も時間と労力をかけた"と言っていたエピソードに、ネーミングが由来するとか。
「どうした嫁に買って帰るのか?」
「いや、これからいく所に少し」
「アレか、馬場ちゃんだろ?え?」
「…そうとも言える」
「そうとも言える、とは何だ。馬場ちゃんじゃねえか。」
「客にいらん事を言ってないでちゃんと店番をするんだ。」
「はいよはいよ」
拳大のマリトッツォを紙箱に入れながら、ボビーと辰実は気の置けない会話を続ける。
「そう言えば最近ずっと店番をしてるが」
「お前が来る時に限って俺が店番の時間なんだよ」
「じゃあ次はジュディに店番をしてもらっててくれ」
余談ではあるが、ボビーの本名は"秋山剛(あきやまつよし)"と言って、普通に日本人である。そして先程辰実が言っていた"ジュディ"が、ボビーの妻の名前である。こちらはボビーとは違い、アメリカ人の女性であるのだ。
そんな雑談をしていると、暖簾で隠れたレジの裏側から背の高い碧眼ブロンドの女性が現れる。愛結とはまた違う、南国の海に潜った景色を思い起こさせるつぶらな瞳の輝きが美しかった。
ジュディは辰実に笑顔で手を振ると、すぐに暖簾の奥に消えていく。
「忙しそうだな」
「おかげ様でな。最近は"口コミでやって来た"なんて話をよく聞くぞ。…やっと時代が俺に追いついたな!」
「店のインテリアも、スイーツのネーミングはお世辞にもアレだが、確かにスイーツは美味しい。」
「お前褒めてんのか貶してんのかハッキリしろよ」
「褒めてるからこうやって足しげく買いに来てるんだよ」
「そうかそうか、ありがとうよ」
箱に詰められたマリトッツォを受け取ると、辰実は千円札をトレイに置いて渡す。慣れた手つきでボビーはそれを回収すると、慣れた手つきでレジの引き出しを開け、100円玉3枚と10円玉、1円玉が混じった塊を手に取り、辰実に手渡した。
「毎度あり」
店を出ようとする時に、またジュディが暖簾から身を乗り出し、辰実に手を振った。振り返してくれたその手に、辰実はボビーとジュディに手を振って店を出ていった。
(さて、馬場ちゃんのとこに顔出すか)
*
"ダイニングあずさ"
使い古された引き戸が、ガラガラと音を立てる。
「馬場ちゃん邪魔するぞー」
「邪魔するなら帰って下さい」
"じゃあ帰る―"と言って、ガラガラと引き戸を閉めるふりをした辰実だが、"用があるから来たんだよ"と引き戸を前回にして店に入る。6時開店で、準備をしていると思われるのだが店主の梓はカウンターで雑誌を読みながら寛いでいた。
「ボビーの店でマリトッツォを買ってきた」
「ありがとうございます。前から気にはなってたんですよ!」
"食べていいんですか?"と聞かれ、"どうぞ"と辰実は答える。
「はなひたひことでもわるんでふか?」
「はべながらはなひをふるんひゃない」
お互いに行儀が悪い。拳大のマリトッツォをクリームごと頬張りながら喋るも、喋りにくすぎて2人は行儀よく互いに食べ終わるのを待って話を始める。
小麦の香ばしい味がするブリオッシュ生地に、牛乳のまろみが強いクリームがよく合っていた。
「怜子ちゃんの事でしょう?」
「どうして分かった!?」
いつもの仏頂面がほんの少しだけ崩れる。面食らった様子の辰実を見て、梓は声を殺して笑っていた。
「分かりやすいですよ、黒沢さんは」
辰実が基本、"何かを話す"となれば愛結に話す。…しかし、"怜子の事"は愛結には話をしにくいだろう。そんな時に"誰かに話をしたい事がある"となれば梓の所に行くのは見えていた。
「まあいいや。…ところで馬場ちゃん、君は"Lucifer(ルシファー)"ってブランドは聞いた事ある?」
「商店街で新しく立ち上げるブランドですよね?…知ってるも何も、新しくデザインするアクセサリーがあって、そのモデルの1人が何故か"私"だって聞かされてるんですけど。」
「何だって!?」
20代前半
20代後半
30代前半
この3層をターゲットに、ブランド展開していくと言うのは辰実には知らされていた事だった("わわわ"と共同開発するというのは商店街にある老舗の宝飾店)。"20代前半"、"30代前半"のモデルについては誰なのか聞いてはいたが、"20代後半"については"打診中"と聞いていたが、梓に決まった事に驚く。
「そうか、"打診中"とは聞いていたが馬場ちゃんに決まったんだな」
"わわわ"と、大元の言い出しっぺの"宝飾店"、そして宝飾品のデザインを担当する"アヌビスアーツ"。3組のうち2組が若松商店街に店を置いている。…"わわわ"という巨大な組織に優勢を取らせないための方策と言ってもいいが、"商店街の振興"も念頭に置いての事だろう。
基本的に三者三様に理がある。
「私でいいんでしょうか、本当に?」
「商店街発信のモノを"わわわ"と連携するという事は、"わわわ"の発信力を買っての事だろうが、モデル3人が全員を"わわわ"にお任せするにはいかないだろう。」
T島県において、大企業クラス、またはそれ以上に発信力のあるメディアと言われれば、地方または全国のTV放送局か"わわわ"ぐらいではあった。
「"30代前半"は愛結で確定として、馬場ちゃんは可愛いから、グラビアやモデルと並んでも一般人だとは分からないよ」
「そんな事を言ってくれるのは黒沢さんだけですよ」
「世間は見る目が無いんだな」
実際、"梓ちゃんは美人ですか?"と聞かれれば迷う事なく答えられる。
「そうそう黒沢さん、"20代前半"のモデルの子って誰なんですか?」
「…"わわわ"の、モデルの子らしい」
"わわわ"と聞いた瞬間、梓が少し引きつった様子。モデルに一般人がオセロされるのだ、そうなる気持ちも分からなくはない。
「が、俺の見立てでは"ひっくり返る"と思う。」
「ひっくり返るって、誰に?」
「暁の子」
「何ですか、"暁の子"って?」
「明けの明星」
「またまた何ですか、"明けの明星"って?」
「占いで言えば、"不確定要素"というモノなんだが。…今回は"不確定要素"と言うには予想がしやす過ぎる。」
「まさか、怜子ちゃんをモデルに…?」
「本人が"やりたい"と言うなら、だが。…正直、"20代前半"の方なら今のモデルよりも元々"モデルだった"彼女が戻ってきて欲しいと思ってる。」
怜子が"嵌められた"事は、梓も知っていた。以前にどのような経緯があって怜子が"アヌビスアーツ"に採用されるまでに至ったかと言うのも、辰実から話を聞いている。
「あの子は、それでいいと思うのでしょうか…?」
「それでいいかと言うも何も、もしあの子が"自分が嵌められた真実を知りたい"と思うのであれば、この話は絶対に避けて通れない道になる。」
「前にも言ったかもしれませんが、そうなると私が心配になるのは"アヌビスアーツ"を離れる事になりそうだと思うんですよ。」
もし"モデルをやる"となって、真実が明らかになっていく。そうなると元々"グラビアを続けていく"予定だった怜子が元の鞘に戻る可能性が考えられる。
梓がそこまで考えているのだから、梓の"元上司"であった辰実は更にその先を考えているに違いない。"ビジネス"、もしくは"商売"という括りで考えるのであれば、何か利益があるから怜子を採用している節は本人も考えている事はあるのだろうが、本当の所で彼が"情に篤い"所為で思い悩む所が出ている。
「そうかな?…もし"グラビアに戻れる"として、自分を嵌めた"わわわ"に戻りたいと思うか?」
「普通に考えれば戻りたくはないですが、向こうには愛結さんもいます。それに"嵌めた人達"が更迭されるか何かで、しっかりと"禊ぎがなされた"となるなら、怜子ちゃんが"わわわ"に戻る事も考えられると思います。」
「それでもあの子は優しいから、"アヌビスアーツ"にいようとするだろうな。」
酒でも入ったかのような話だった。未だ開店前なのに、閉店前にするような話をしている感覚。愛結には"話す事ができない"事を話したくて仕方ない、そんな感情を分かっていたから梓は受け止めた。
「…だからと言って、俺が考えた通りに彼女が動いていく事を俺は想像したくない。結局のところ、最終的には"わわわ"に戻ってもいいと思っている。今の"アヌビスアーツ"にあの子が必要だし、これからも必要な1人だという事が"分かってるのに"だ。」
「…………………」
グラスに入れていた氷が、カランと音を立てる。
「そう言えば、黒沢さんも以前に似たような事を経験されてましたね」
「そうだ。自分の歩んできた道程が、"本当は他人のモノだった"と気づいた時程、俺は絶望した事は無い。」
"本当に好きな女性だったからこそ、本当の事を知った時に絶望した"
いつか、辰実がそんな事を言っていたのを梓は思い出した。
「だけど、あの子は俺とは違う。もし自分が仮にグラビアに戻れたとして、それが俺の計画した事だったとしても、彼女は絶対に俺と違う事を考える。思っている事を絶対に"押し殺して"笑うんだ。その時の"ありがとう"は絶対に本音じゃない。」
それが耐えられる事なのかと聞かれれば、"良心"が少しでもあれば耐えられる事では無い。"自分が経験した悲しい出来事"を、彼女にさせたくないという気持ちの、全てを理解する事は出来ないが、それでもこうやって受け止める事は出来る。
ストレートに下した、梓の黒い紙が揺れる。険しい顔をして話をしていた辰実とは真逆に、彼女が口角を上げたまま正対していた。
「…黒沢さんがどう思うかは分かりませんが、少なくとも怜子ちゃんは"悲しむ事は無い"と思います。それでも怜子ちゃんの事を考えて考え抜ける黒沢さんは、優しい人ですよ?」
「さあ、どうだろうか?」
"どうだろうか?"。そうやって自分自身にアイロニーを向ける辰実の様子を見て梓は首をかしげる。
「あの子を嵌めた奴等にも、それなりの理由があっての事だ。自分が得するという前提があって、その上で行動している。…俺だってそうだ、あの子の存在が"アヌビスアーツ"にとって利益になるから採用したんだ。」
「誰だって、損得勘定はありますよ。…だから私は、そんな黒沢さんの"優しい所"を信じたいです。」
*
時間が経って翌日である。
(昨日、あんな風になってたから今日は緊張するなー。でも頑張って行かないと!)
昨日に商談を中止にし、挙句に泣きわめいた事を考えれば恥ずかしくなる。背負っているリュックの中身が重い訳では無い(化粧品や文具数点なのだから絶対に重くない)が、背中は丸まっていく。…たまたますれ違った野良猫も一緒に背中を丸めていた。
足取りは重いが、確実に進んではいる。
辰実も、いつも以上に険しい顔をしているのではないか?そんな事を考えている怜子の足元に、何か軟らかいものが当たった気がする。
「こらこらゴンちゃん」
服を着た柴犬であった。リードに繋がれた赤柴は、フェルト製の甲冑に身を包んでいた。そんな犬を連れているのが、姿勢の良い老婆であった。
「可愛いですね」
尻尾を振って怜子を見上げる、甲冑姿の柴犬とできるだけ目線を併せようと、座り込んだ怜子にお辞儀をするように、柴犬もお座りをして迎えてくれる。
「どうぞ、触ってもいいですよ」
「いいんですか?」
お座りをした柴犬の頭を撫でると、掌の動きに合わせて上がった両耳を畳んで嬉しそうな顔をする。さわさわとした、気持ちの良い手触りの毛並みが逆に掌を撫でていた。
さっきまで落ち込んでいたのが、いつの間にか忘れてしまっている。
(そろそろ、事務所に行かないと)
柴犬とお婆さんに一礼をして、また"アヌビスアーツ"の方向へと歩いて行く怜子の足取りに、先程までの重さはもう無い。気づけばものの数分も経たぬうちに事務所のドアを開けていた。
「おはようございます!」
元気よく挨拶をすると、デスクを拭いていた伊達が"おはようございます"と落ち着いた様子で返してくれる。奥の席で座っていた辰実が雑誌を読んでいたが、顔を上げて怜子の顔を遠目に覗き込む。
「どうした元気だな?"昨日アレでしたし…"とか言って、若干沈んだ状態で来ると思ってたんだが。」
「ワンちゃんのお陰です。」
"ワンちゃん"と聞いて、眉をひそめた辰実には思い当たる節があるようだった。
「ああ、"ショー婆さん"のとこのゴンちゃんか。」
「"ショー婆さん"?」
「さっき会ったって言うのは、服を着た柴犬と"姿勢の良い"婆さんじゃ無かったか?」
「そうですそうです。…もしかして、商店街では有名人なんですか?」
「まあ、そうだな。」
"ショー婆さん"。本名は加藤ハルヱと言うのだが、彼女もまた商店街の住人である。主人を亡くした所を、県外にいる家族の計らいで柴犬を飼う事になったのだが、趣味の裁縫が講じ子供の着ていた服を加工し犬の服にし散歩しているという。
その様子がさながら"歩くファッションショー"を彷彿としている事から、そのような通称で呼ばれているという。
「あの柴犬は良い柴犬だ。」
「そうです。…と言うか、柴犬は皆可愛いです。」
「奇遇だがうちの実家でも柴犬を飼ってるんだ。同じぐらいの時期に、猫も飼い始めたんだが。」
「大きい猫ちゃんは、私大好きです。」
「お、そうか。実家で飼ってるのはブリティッシュショートヘアなんだが、うちで飼ってるのはラグドールなんだよ。」
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