第54話 宣戦布告してみた


 聖王の地下神殿アジトに乗り込んだ俺とラフリーゼ。

 そこで神弓兵器アガナ・ベレアが製造中だったので壊してみた。

 呆然としている聖王に向かって、俺はおどけたように肩をすくめながら告げる。



「――あれ、俺なにかやっちゃいました?」



「……ぐ……ぐぬっ!?」


 その言葉で、聖王は我に返ったのか。

 こめかみに青筋を浮かべてこちらを睨んでくる。



「――き……貴様らぁぁッ!」



「えっ、私もですか!?」


「自分がなにをしたかわかっているのか……! この神弓兵器アガナ・ベレアを造るのに、どれだけの時間がかかると思っている……!」


「40日間」


「…………せ、正解」


 どうやら、メルモ情報は正確なようだ。


「ふん……失望したな。貴様はもっと賢いと思っていたのだが……」


 聖王が忌々しげに吐き捨てる。



「よもや反逆するとはな、聖女ラフリーゼ……ッ!」



「えっ、私ですか!?」


「こんなことをして、ただで済むと思ったか!?」


「え……いえ、あの……私が首謀者というわけでは……むしろ止めに入った立場でして……その辺りの責任の所在は明確にしておきたいかなぁ、と……」


「ぶっちゃけ、ただで済むんじゃね? と、こいつが言っているぞ」


「えっ!?」



「言うではないか、小娘ぇ……ッ!」



「言ってませんよ!?」


「だが……甘いな。完成した神弓兵器アガナ・ベレアを聖都内に保管すると思ったか。たとえ製造中のものを壊したところで、神弓兵器アガナ・ベレアはすでに各地に配置してあ……」


「知ってる」


「……そ、そう。このようなリスクを考え、都市周辺の各要塞に分散して配置してあ……」


「知ってる」


「…………」


「…………」



「――聖女ラフリーゼぇぇッ!」



「なんで、私に来るんですか!?」


「ここまで私をコケにするとはな……! 貴様は今まで道具としてよくやったが、もう許さん!」


「だいぶ八つ当たり入ってません!?」


 聖王は懐から手鐘を取り出すと、ちりんちりんと鳴らした。

 すると、地下神殿の暗がりから、金属がこすれ合う音とともに人影が現れた。

 純白の全身鎧でくまなく身を固めた騎士たちだ。


「せ……聖城十二騎士!?」


「……そうとも。こんなこともあろうかと、最強を誇る聖城騎士の中でも、さらに選りすぐりの者たちを側に置いていたのだよ。ハイデリク卿がいないのが残念だが……貴様ら、偽物の相手をするには充分すぎる役者だろう」


 聖王が演説するような身振りで、ばっと両腕を広げる。



「――さあ、我が審判を受けるがいい! “聖王に反逆する者は、地獄に堕ちねばならない”!」



 そう言い放った瞬間――。


「……“聖王に反逆する者は、地獄に堕ちねばならない”」「……“聖王に反逆する者は、地獄に堕ちねばならない”」「……“聖王に反逆する者は、地獄に堕ちねばならない”」「……“聖王に反逆する者は、地獄に堕ちねばならない”」「……“聖王に反逆する者は、地獄に堕ちねばならない”」


 聖城騎士たちが“噂”を復唱しながら、一斉に踊りかかってきた。

 こいつらも、噂漬けにされるいたのだろう。

 機械じみた完璧な連携で、またたく間に俺を取り囲む。

 どうやら、最初の狙いは俺らしい。

 穴のない包囲で逃げ場を奪ったまま、聖城騎士たちが一糸乱れぬ動きで大剣や斧槍を突き出してくる。


「マティーさん!?」


 ラフリーゼの悲鳴を上げるが。

 この程度のザコにやられると思われているなんて……心外だ。



「槌術Lv7――【大震撃】」


 かついでいた聖剣の台座を、思いっきり床に叩きつけた。

 石張りの床が爆散――その衝撃で聖城騎士たちが吹き飛ぶ。

 この【大震撃】は全体ノックバック&気絶効果のある攻撃だ。

 聖城騎士たちは側にあった柱に激突し、そのままずるずると床に崩れ落ちる。

 全員、意識を失ったらしい。


 ――戦闘終了だ。



「あ、あれ……?」


「…………な、に……?」


 ラフリーゼと聖王が呆然とする。


「ば、バカな……いったいなにが……聖城十二騎士が、破れたとでもいうのか……?」


 ラフリーゼと聖王が呆然とする中。

 俺はふたたび、おどけたように肩をすくめてみせた。



「――あれ、また俺なにかやっちゃいました?」



「ぐ……ぐぬぬぅぅ……! ぬぅぅうぅおお……!」


 聖王が顔をしわくちゃにしながら、わなわな震えだす。

 めちゃくちゃ悔しがっていた。

 そうだ、その顔が見たかったのだ。

 まあ、それはいいのだが。

 なぜか、聖王がいつまで経っても次のアクションに出てこない。


「む……まさか、これでバトル終了なのか? 一応、クライマックスのボス戦だと思うのだが、もっとこう……ないのか? まだ変身を3回残してるとか……」


「……な、なにを言ってるんだ、貴様は」


 これでは、あっさり終わりすぎて盛り上がらない。

 聖王国編のハイライトが、さっきの聖王の変顔になってしまう。


「だが……これで、終わりだと思わないことだ!」


「……っ! まさか、お前、第二形態に……」


「残念だが……私を殺そうが、戦乱の未来は終わらんのだよ!」


「…………あー」


「すでに、我が聖王軍はノア帝国に攻め入っている! それも、大量の神弓兵器アガナ・ベレアとともにな……!」


「そ、そんな……!」


 ラフリーゼが絶望顔になる。

 そういえば、ラフリーゼに伝えるの忘れてた。

 まあいいか。聖王が丁寧に説明してくれたし。


「聞いて驚け! その軍の総大将は……聖城騎士・序列1位のハイデリク卿だ。次代の勇者と称されたやつの力は、ここにいる聖城十二騎士とは次元が違う!」


「……っ!? ……こ、ここまで来て、未来は変えられないというのですか……!」



「――かかかかかかッ! “私がここで死のうが、聖王国は世界の覇者となる”! “その暁に、私は神話となって語り継がれるであろう”! “もはや、この神話は誰にも止められはしない”!」



 自分に酔ったように叫ぶ聖王。

 ショックを受けるラフリーゼ。

 祈りを捧げていた信徒たちが、ぶつぶつと聖王の言葉をくり返す。

 そんな異様な空気の中――。


「くくく……これは逸材だ」


 俺は思わず笑ってしまった。


「……いいぞ、身のほどを知るな。もっと思い上がれ。慢心し、天狗になるがいい。お前の鼻っ面が高ければ高いほど、へし折るのが気持ちよくなるからな」


「……貴様、なにを」


 さっきは、あっさりバトルが終わってテンションが下がっていたが……。

 まだまだ、この聖王おもちゃで遊べそうだ。

 聖王にはただでなくても、ずっと鬱陶しい思いをさせられてきたからな。

 ここで壊してしまうのはもったいない。

 ぜひとも、俺がこれから創り出す“理想の結末エンディング”へと招待してやらねばな。


「この神話は止めらない、だったか? では、俺が止めてやろう」


「…………は?」


「ご自慢の聖王軍の侵攻も止める。神弓兵器も止める。お前の野望の全てを止める。お前の、地位も、名誉も、夢も、希望も、祈りも……全てを奪い尽くし、この俺が手づから最高の絶望ゲームオーバーをくれてやろう」


 そして、俺は宣告する。



「――さあ、ゲームスタートだ」


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