第52話 七魔王にパワハラしてみた


 メルモの手をつかんだついでに、聞きたかったことを聞いてみた。



「……お前、これから裏切る予定とかあるか?」



「……っ!?」


 そう、メルモは魔帝メナス討伐の立役者のひとり。

 ゲーム内において、俺を裏切ったキャラなのだ。

 メルモがさりげなく離れようとするが逃さない。


「や、やだなぁ……私がマスターを裏切るわけないじゃないですかぁ?」


「そうか」


 よかった。裏切るわけないらしい。


「あ、信じてもらえた……いえ、まー、本当に今さら裏切る理由もないわけですが」


「今まではあったのか」


「きひゃひゃ♪ それは、ご想像にお任せしま」


「言え」


「……な、ないですよぅ。私は、マスターの笑顔のお届け人ですよぅ? マスターを心から敬愛するこの私にかぎって、まさかそんな、ねぇ……?」


「そうか」


 敬愛されているなら大丈夫だろう。

 俺はメルモの手を解放する。

 メルモは嘘つきだが、嘘をつくときほど真実を語っているように見えるから逆にわかりやすい。

 それに、メルモの行動原理は、あくまで“みんなを笑顔にすること”だ。

 そのためならば手段を選ばないクレイジーさはあるものの、俺がゲームのときのように世界から笑顔を奪うような真似をしなければ裏切ることもないだろう。


「まー、それに……」


 と、それから。

 メルモは一瞬だけ、憂いを帯びた顔をする。



「……私の物語はもう、終演しましたからねぇ」



「む……それはどういう意味だ?」


「きひゃひゃ♪ ご想像にお任せします。ではでは、私はこの辺で~」


 その言葉を最後に、メルモは蝶羽をはためかせて空へと飛び去っ――。



「――逃がすか」



 飛び去る前に、がしっと足をつかんだ。


「えっ、ちょ……」


「そういう意味深なセリフは、今後の重要な伏線になると相場が決まってるんだ。俺が見逃すとでも思ったか?」


「い、いやぁ、なんのことで……」


「いったい、なにを隠してる? クライマックスで明かされる衝撃の事実か? それとも、自分を主人公にした過去編でもやろうと企んでるのか? なんでもいいから、とっととセリフの真意を吐け。さもなくば……」


「さ、さもなくば?」


「今から、お前の好きなところを100個言う」


「ひ、ひぃぃっ!? なんてむごい!? 私、死んじゃいますよぅ!?」


「では、まずはひとつ目……」


「お、お慈悲を! ちょっと意味深なセリフを言ってみたかっただけですから!」


「……ひとつ目。実はファッションセンスがいいところ」



「あばばばば……っ」



 メルモが耳まで真っ赤にしながら、顔を覆って地面をごろごろ転がりだす。

 ……めちゃくちゃダメージを受けていた。

 黒歴史がフラッシュバックした思春期の夜みたいになっている。

 そこまで褒められるのが嫌なのか。


「ぱ、パワハラ! パワハラ反対!」


「なんの話だ? 俺はただ……部下を褒めているだけだが?」


 七魔王の職場は、明るく楽しくいつもホワイトなのだ。


「ふむ、これでもしゃべらないか。では、ふたつ目……」


「まっ、お待ちを!」


「待たない。ふたつ目……」



「ひぃぃっ!? あぁ、もぅ――メルモ☆イリュ~ジョン♪」



「……む」


 メルモの体が、ばらばらとほどけるように虹色の蝶へと変化した。

 これは手品というより、逃走用のスキルか。

 蝶たちはまたたく間に空へと飛び立ち、俺は市庁舎の屋根の上にひとり残される。


「ちっ、逃げられたか」


 あいかわらず、謎めいたやつだ。

 メルモはスキル所持数が異様に多いし、スキルの使い方も異様にうまい。さらにスキルに手品や曲芸のテクニックを混ぜてくるため、俺ですら惑わされてしまう。

 正体不明。変幻自在。777変化。

 七魔王の第2席というのはダテではないということだ。


「まあいい……欲しい情報は手に入った」


 これで、理想の結末エンディングへの道筋も導き出せた。

 少し寄り道してしまったが、俺のやることは変わらない。

 今から聖王をゲームオーバーにするだけだ。

 と、そこで。



「……こ、こんなところにいましたか!」



 ぜぇぜぇ息を切らしたラフリーゼが、屋根をよじのぼってやって来た。

 ……こいつ、何気にストーキングスキルが高いよな。


「よくここがわかったな」


「……予知した未来の中に、この場所が映っていたので」


「そうか」


 まあ、どのみちラフリーゼとは合流しようと思っていたところだ。

 探す手間が省けたな。


「では、さっそく行こうか」


「え? 行くって……私もですか?」


「そうだ。俺とお前には行くべき場所があるだろう?」


「私たちの行くべき場所……? あっ!」


 ラフリーゼが俺の言わんとすることを察したのか。

 はっとしたように手を叩いた。


「そうですね! 勇者誕生パレードに……」



「――そう、破滅の未来を変えにいくんだ」



 さあ……聖王ボス戦の始まりだ。




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◆天命王メルモ Lv100


■種族:エフェクトバタフライ(SSランク)

……世界の運命を管理する蝶の妖精。気分によって変化する羽の模様には、人々の運命が描かれている。歴史の転換点に現れては、英傑を影から導く。


■ステータス

HP:7万7777 MP:7777

攻撃:B 防御:B 魔力:S 速度:S

知力:S 器用:SS 魅力:S 幸運:SS


■ボス戦時の使用技(イベント戦)

○パッシブなど

【バタフライエフェクト】:メルモにとってプラスになる効果の場合、確率倍増。マイナスになる効果の場合、確率が半減になるが効果が倍増

【777変化】:毎ターン、引いたカードに応じたフィールドに変化

【蟲の知らせ】:回避率+50%。致命ダメージ確定回避


○通常時

【笑う】:なにもしない。

【カード】:単体、斬撃攻撃。

【ダイスロール】:敵味方全体、サイコロの目に応じたダメージ

【消失マジック】:単体、武器消失

【胡蝶ドリーム】:全体、睡眠&混乱

【カラフル蝶吹雪】:全体、命中率ダウン


○HP5割以下で追加

【ジョーカーフェイス】:全体、笑い状態(1ターン行動不能)

【ノルカ・ソルカ】:敵全体or自身に大ダメージ

【運命の赤い糸】:単体、魅了(性別・耐性無視)

【メタモルーレット】:敵味方全体、見た目シャッフル

【バレットルーレット】:フィールド上の誰かにダメージ(自分含む)


○HP3割以下

【天涯蠱毒】:フィールドを【蠱壺】にする。全体混乱・猛毒状態。毎ターン蟲によるダメージ

【死のルーレット】:敵味方ランダム単体、即死。

【羽蝶天】:全体、風属性魔法。全ステータスバフ。


○HP1割以下orメルモ敗北時

【運命操作】:メルモの勝利が確定する

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