第35話 ミコちゃんの相談に乗ってみました(プリモ視点)



 なんやかんやあって、ミコちゃんの相談に乗ることになりました。


「あ、あたしさ、竜王ニーズヘッグの件で、マティーにいろいろ助けられたじゃない?」


「はい」


「もしマティーがいなかったら、あたしもこの国もどうなってたかわからないし……あいつの前だと恥ずかしくて言えないけど、本当にすごく感謝してるの。だから、このまま恩を返さないのも気持ち悪くて……それで、なにかお礼がしたいと思ったんだけど」


 ミコちゃんがそう言ったとき。


 ――がさっ。

 

 と、近くから物音が聞こえてきました。


「……?」


 音のしたほうを見てみますが、なにもありません。

 気のせいだったようです。


「でも、ミコちゃんはお礼言ってませんでしたっけ?」


「いや、言葉ではしたけど……それとは別に、プレゼントとかね」


「なるほど。これは、“男に貢ぐ”というやつですね! わたし、知ってます!」


「うん、ちょっと違うかな」


 まあ、お礼といっても、主様としては別にミコちゃんを助けようとしたわけでもない気もしますが。主様が遊んでいたら結果的にミコちゃんが助けられた、というだけというお話です。


「それで思ったんだけど……あたしって、マティーのこと全然知らないのよ。あいつってなんか秘密主義というか、深いところにまでは踏み込ませてくれないところもあるし。それで、なにをあげればいいのか悩んでて」


「主様なら、カマキリとかあげれば喜びますよ」


「うん、それは喜ぶと思うけど……もしかしたら、それが最適解じゃないかと思えてきたけど、そういうのじゃなくてね」


「はい」


「ほら、お礼の印なんだから、もっとちゃんとしたものをあげたいじゃない?」


「ちゃんとしたカマキリですか?」


「いや、そうでもなく……なんというか、気持ちのこもったものよ」


「気持ちのこもったカマキリですか?」


「うん、いったんカマキリから離れましょう」


 喜ぶならいいと思うのですが……。

 人間はよく難しいことを言います。

 というより、簡単なこともいろいろ難しく考えすぎている気もします。


「主様に欲しいものを直接聞いてみるのはどうでしょうか」


「それじゃ、意味ないわ」


「……?」


「ほら、サプライズのほうがあいつ喜びそうでしょ」


「あ、納得です! 昔、サプライズで雲に穴をあけて『ハッピーバースデー!』って書いたら、とても喜んでくれました」


「うん……そんな圧倒的スケールでお贈りするつもりはないんだけどね」


「はい」


「で、マティーが好きなものとか知らない?」


「主様は、かっこいいものと、もふもふが好きですね」


「かっこいいものは、わかるけど……もふもふ?」


「毛がふさふさした魔物とかです」


「ああ……たしかに、よくあの謎犬撫でてるわよね。なにが楽しいんだかわからないけど」


 ――ぐるる……。


 ふと、どこかから、可愛いワンちゃんのうなり声が聞こえてきました。

 声のほうを見てみますが、なにもありません。

 気のせいだったようです。


「あと主様が好きなものといえば、なんといっても楽しいことですね」


「楽しいこと……アバウトね」


「たとえば、ミコちゃんが爆笑必至の一発芸をすれば喜ぶと思いますよ」


「いや、一発芸なんてやったことないんだけど……」


「え? 前にやってたじゃないですか。あの、『ミコりんミコりん☆ドリ~ミン』とかいう……」


「あれは持ちネタとかじゃないからね!?」


「そうなのですか?」


「……まあいいわ。マティーへのお礼はひとまず置いといて……」


 と、ミコちゃんは仕切り直すように前置きしてから。



「プリモちゃんにもお礼しなくちゃね」



 と言いました。


「わたしにですか?」


「ほら、ニーズヘッグが来たときは、いろいろ助けられちゃったし」


「わたしは主様のご命令通りに動いただけですが」


「それでも助かったのは事実だから。ちゃんとお礼はするわ」



「では、感謝の『ミコりんミコりん☆ドリ~ミン』が見たいです」



「うん、却下ね」


 却下されてしまいました。


「うーん、プリモちゃんは好きなものとかある?」


「主様が好きです」


「え、いや……そ、そういうのじゃなくて」


「あと、ミコちゃんのことも好きです」



「よ……よせやい……!」



 照れました。


「いや、そうでもなくて……人以外で好きなものはない?」


「それなら、“壊しても壊れないもの”が好きです」


「……え、なに? 知性を試されてるの、あたし?」


「ちなみに、ミコちゃんは壊したら壊れるタイプですか?」


「うん、なんかヤバそうな流れになってきたから、話題変えるわね」


「はい」


「じゃあ、好きなものじゃなくて、欲しいものはない?」


「欲しいものですか」


「遠慮しないでなんでも言ってね。あたし、これでも王族なんだから」


「王族だとなんでも用意できるのですか」


「ふふん、王族パワーをなめないことね」


「お、王族すごいです……パないです……」


 わたしは少し考えてみます。

 そういえば、あまり自分の欲しい物を考えたことはありませんでした。主様との平和な時間が続くようにと、それだけを考えて生きてきた気がします。

 でも、もしも手に入るのならば。


「そうですね……では、ひとつだけ」


 わたしは決めました。



「――争いのない、平和な世界が欲しいです」



「ごめん。王族でも無理だった」


 断られてしまいました。

 でも、他に欲しいものもありません。


「ちなみに、ミコちゃんは欲しいものありますか?」


「え、あたし?」


 自分に振られると思ってなかったのか、ミコちゃんがきょとんとします。


「うーん……欲しいものは、あいつに全部もらっちゃったしね」


 それから、ミコちゃんは少し考え込んで。



「……今は、“強さ”が欲しいかな」



 と、呟きました。


「ニーズヘッグとの戦いで、自分の弱さを痛感したから。ママみたいな立派な女王になって、これからも世界樹を守っていくためにも……今はマティーみたいに強くなりたいって思うわ」


 ミコちゃんがそう答えたときでした。



「――話は聞かせてもらった!」



 突然、虚空から主様が現れました。犬のグーちゃんも一緒です。

 どうやら、グーちゃんの【透明化】スキルで近くに隠れていたようです。

 ……全然、気づきませんでした。


「え、あれ……? あんた、なんでそこに……」


「俺のいる場所は、俺が決める」


「い、いつからそこに……? もしかして……今の話聞いてた?」


「ああ。話は聞かせてもらったと言っただろう?」


「な……なな……」


 ミコちゃんが顔を真っ赤にします。



「――というわけで、今からミコりん強化計画を開始する!」



「どういうわけよ!?」


 そんな感じで、ミコちゃん強化計画が始まりました。

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