第15話 怪盗になってみた


 スネール王国の都には、豪華な城がそびえ立っていた。

 夜闇の中でも目立つほど、きらびやかな城――。


 ――スネール城だ。


 そんなスネール城のバルコニーにて。

 スネール王と宰相が、かつん、とワイングラスを交わしていた。


「……しかし、予想外にうまくいきましたな」


「ああ」


 二人はにたにたと薄汚く笑い合う。


「まさか、革命軍とやらに金を出してやっただけで、これほどのリターンが得られるとはな」


 スネール王は、王都を横目で見下ろした。

 王都は夜だというのに光一つ灯っておらず、薄汚れた暗がりに沈んでいる。

 ……この国はもはや、しぼりカスだ。

 後先考えずに税をしぼり取ったために、この国からはもう利益がほとんど得られない。

 だから、スネール王は、お隣のノア帝国に目をつけた。


 革命が成功したのは、うれしい誤算だった。

 さらに幸運は重なり……近頃、ノア帝国の宝物庫から大金貨が根こそぎ奪われたらしい。

 戦争は、金と金の殴り合いだ。

 金がなければ傭兵も物資も調達できず、まともに戦争することはできない。戦場でどれだけ負けが続こうと、最後には金があるほうが勝つのだ。

 もはや、ノア帝国など恐るるに足らず。


「この好機に、ノア帝国を我らのものにしてやりましょう」


「ああ。そこから、たんまり税をしぼりとって、スネール城をさらにグレードアップしてやるわ」


「はっはっは、愚民どもにも餌をやらねば不満が出ますよ」


「なーに……魔帝メナスやノア帝国のせいと言えば、ころっと騙されてくれるさ」


「ふふ、こんなことを聞かれたら大変ですな」


「どうせ、誰も聞いておらんよ……」


 スネール王がそう言って、優雅にワイングラスを傾けたときだった。




「――――ふーっははははははははっ!」




 夜空に、不吉な高笑いが響きわたった。

 スネール王が、ぶふっと口からワインを吹き出す。

 とっさに辺りを見回すが、どこにも人はいない。

 しかし、笑い声だけが聞こえてくる。


「だ、誰だ!? どこにいる!」


 スネール王が声のする方向――夜空のほうへと顔を向ける。

 そこには、なにもなかった。

 いや……なにもなかった、はずだった。

 しかし。


「お前のものは俺のもの、俺のものも俺のもの――」


 夜空の闇から、じわ……と影がしみ出てきた。

 魔物かと思ったが、違う。人間だ。

 いつの間にか、刃のような三日月を背景に、奇怪な仮面をつけた男が浮かんでいた。




「――――怪盗ネメシス、ここに参上!」




 黒いマントを翼のようにはためかせながら、男が高らかに告げる。


「無垢の民から金を取り上げ、私服を肥やす……のは、まあいいとして、それを魔帝メナスのせいにするとは許せん!」


 怪盗ネメシスは、スネール王にびしっと指先を向けた。



「――悪の風上にも置けぬやつらめ、この怪盗ネメシスが成敗してやろう! というか……絶対に泣かす!」

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