第91話

 なんだかんだ、俺はバレインというかつての剣聖の弟子になった。


 ギルドでバレインという人物が剣聖であるということも念のため聞いておいた。


 結局弟子として俺はバレインの世話を一日中やっている。


 薪の調達、薪割り、農作業、お風呂の準備、料理。


 都合よく利用されている気がする。


 ランセリアの世話もしているし、俺は老人と盲目な少女の世話に掛かり切りという日々を過ごしていた。

 

 その間、俺は一秒でも宿屋で長く寝るため、冒険者ギルドに行って情報収集をすることをおろそかにしていた。


 どうせ、今の弱いままの俺では解決できないからだ。


 そんなことを考えながら一か月が過ぎた。


 世話と薪割りがかなり上達した。


 だからどうだこうだ言うわけじゃないが。


 「そろそろ……一ヶ月だが、料理と薪割りの腕が随分と上がったな」


 「まぁそうですね」


 「素振りと腕立ては毎日欠かしていないようだしな」


 「見ていたんですか?」

  

 「まぁ、一応な」


 「そうですか」


 「体の基礎はだいぶできてきたし……次の段階へと進むぞ」


 「お願いします」


 バレインがなにやらぶつぶつと呟き、俺の胸の前で指で円を描く。


 すると、俺の胸のところに紫色の魔法陣が出現する。


 魔法陣が出現した直後に俺は呼吸が苦しくなる。


 「お前の周囲だけ、体調が悪くならない程度に酸素を薄くしておいた」


 俺は激しくジョギングした後のような呼吸をする。


 「苦しいだろうが、時期に慣れる……今度はその状態で素振り百回と薪割りをやるぞ……そして実践だ」


 俺は頷く。


 素振りと作業を終えて、俺は木刀をバレインから渡される。


 俺は一日中ぜぇはぁと必死に呼吸する。


 だが、不思議なもので、時間が経つと自然と呼吸法が改善され前ほど苦しくない。

 

 「お前にはこの人形と闘ってもらう」

 

 紫色の魔法陣でまた俺は呼吸が苦しくなる。


 俺の目の前にバレインの出した黒い魔法陣が出現する。


 黒い魔法陣から木でできた人型のデッサン人形、それも俺と同じくらいの大きさのものがでてくる。 


 「この人形の実力はお前と同じ年齢の頃の俺と同じようにしてある。今の俺でも勝つのは少してこずる。お前にはこの人形が繰り出す一撃をひたすら受け流してもらう……安心しろ、気絶か出血、骨折すれば攻撃が止むようにしてある」


 俺は剣を構えるとその人形がゆっくりと立ち上がる。


 「対象を認識……これより戦闘を開始する」


 その人形が突進する。

 

 俺は対応できずに顎に重い一撃を食らい気絶する。


 そして目を覚ます。


 「辛かったらいつでも田舎に帰ってもいいんだぞ」


 冷淡な声で言うバレイン。

 

 「冗談!」


 俺はそういって立ち上がる。


 俺は一日中気絶、出血、骨折してはバレインに回復される地獄の数時間を過ごした。


 


  


 

 

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