第90話 行方不明 【シエスタ視点】

 私は宿屋で窓から月を眺める。


 この数か月、私は退屈しなかった。


 いろんなことがあったなぁと呟きながら私はお気に入りのグラスに口をつける。


 私は浅井良樹という異世界人の冒険者と出会った。


 最初に会った時のあいつは、魂の抜けた感じで心ここにあらずな感じだった。

 

 それがシエン達、B級+ランクの冒険者の迷宮探索を手伝い、あいつが言う空想の世界のなかであいつ自身に厳しい現実が突きつけられて、最終的に山賊退治にあいつも参加して、なんだか不安だったから私も参加したんだっけ。


 その後のあいつは何か吹っ切れた感じで冒険者になるっていった。


 あいつの人生にとやかく言うつもりはないけれど、別に楽な道を生きたっていいと思う。


 人間の一生はとても短いのだから。


 私が山賊退治に出たのは、今振り返ってもなぜだかわからなかった。


 あいつといると退屈しないし、あいつは真顔でおかしな話をする。


 そういう何気ない日常が一気に崩れ去る不安だったのかなぁと私は思う。


 私はポケットから古ぼけた白黒写真を手に取る。


 そこには、私のかつての仲間と私。


 仲間たちは全員、あっという間に年老いていった。


 そしてあっという間に先立たれ、私だけが生き残った。


 私が仲間の葬式で涙を流さなかったことを周りは非難した。


 私にとってはあまりにも突然だったから、いくら何でも泣くほどの余裕がなかった。


 いろいろと考えを巡らせていると、あっという間にグラスが空になり、私はお気に入りのお酒をグラスに次ぐ。


 お酒に月が映り、どこからともなくやってきた桃色の花びらがグラスに入り、とても風情がある。


 私はそれを一気に飲んだ後、眠ろうとベッドで横になり毛布を掛ける。


 —————それから私の意識はまどろみの中に消えた。


 だが、私が宿屋で目を覚ますことはなかった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る