第86話

 ひとしきり泣いた後、彼女は言った。


 「ありがとう……なんだかすっきりしたわ」


 「これくらいしか思いつかなくて……悪い」


 「謝らなくてもいいわよ」


 そういって彼女はくすっとわらう。


 「ランセリア……」


 「なに?」


 「君の目が見えないのは生まれた時からか?」


 「いや、違うわ……魔物のせいよ」


 「魔物?」


 「そうよ、私がもっと幼い頃に魔物に襲われて視力を奪われたのよ」


 「そんなことが……」


 「まぁ、別に目が見えない生活にもだいぶ慣れたしね……寂しいけど」


 「そっか」


 「その魔物がどんな感じの奴か覚えているか?」


 「今更、そんなことあなたに話してなんになるのよ」


 「俺は一応冒険者だし、もしかしたらその魔物を退治したら君の視力が戻るかもしれない」


 「そうなの……でも……」


 彼女は言い淀む。


 「お金の事なら心配するな、俺が払うよ」


 「いいの?でもどうして……私にそこまで……」


 「俺の個人的なわがままだよ……そうわがままさ」


 俺の無力さを変えたいという俺自身のわがままだ。


 彼女は何かに手を伸ばそうとして俺はその手を握る。


 彼女はゆっくりと微笑む。


 「ありがとう」

 

 「まだ、お礼を言うには早いぞ」


 「ううん、でも……ありがとう」


 俺は微笑みで返事するのだった。


 ※ ※ ※


 ランセリアから教えてもらった特徴をメモして俺は宿屋で図鑑を眺める。


 「おそらく、この見た目からだと悪魔の一種だと思うが……」


 そして数分後、俺はその特徴と合致する魔物を発見する。


 「メデューサか……ランクはBマイナス」

 

 とてもじゃないが、俺のランクでは討伐できないし、ムセン達を雇うほど財布に余裕があるわけでもない。


 だが冒険者のルールでは、道中に自分のランク以上の魔物と遭遇してそれを討伐しても問題はないことを俺はしっかりと覚えていた。


 そのルールがあるのは、魔物が都合よく出現しないからだ。


 もちろん、自信で積極的にそれを討伐しに行くような状況的証拠があり、それによってそれまでの業務がおろそかになればかなりの減点処分になる。

 

 今回のランセリアのケースで言うと、物心つかない少女がうっかり足を踏み入れてしまうような、沼とか湖とかそこらへんに生息している可能性が高い。


 だったら、俺が薬草収集のクエストを受けて、その道中で遭遇して、それをなんとか倒したという形にすれば、問題がないどころか、一気にランクアップできるかもしれない。


 俺は、日頃からポールから教えてもらった素振りなど、筋トレをしていて体の方はかなり、ムキムキになっている。


 実戦も少なからず経験した。


 あとは、より教え方が上手い人に教えてもらう必要がある。


 俺は八百屋のガウェインに剣の達人が山奥にいないかと半ば冗談半分で言ったら、意外な情報を彼は話してくれた。


 「たぶんだが、そのお嬢さんの家からさらに歩けば、かつて剣聖と呼ばれた老人が住んでいるといううわさがあったような……なかったような」


 「本当ですか?」

 

 「あくまでも噂だぜ?」


 「ありがとう」


 「おうよ」


 俺はチップ代わりに果物を購入し早速、その老人の元へ行く準備をする。


 「あっでも……その爺さん、かなり気難しいぜ!」


 俺は手を振って応える。


 

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