第83話
服屋で服を仕立ててもらい、村人のような格好をする。
引き受けた介護の仕事の前払い金で服の代金と馬車代を用意できた。
俺は一人、馬車を使って山の前に到着し、そこから徒歩で森の中を歩き、茂みをかき分け、ぽつんと建つ一軒家の前に立つ。
現代にもありそうなごく普通の木造住宅。
庭には薬草が生い茂り、玄関の前には花壇がある。
小鳥のさえずりが聞こえる。
川のせせらぎの音。
ドアにノックを二回する。
ガチャリとドアが開き、質素な服装の老婆が出迎える。
老婆の声はしわがれていた。
彼女は猫背で頬は痩せこけている。
だが、介護を頼んだのはこの老婆のはず。
なぜドアの前に彼女自身が迎えに来たのだろう。
俺はそんな疑問を頭の中に浮かべながら、「どうぞ、中へ……こんな山奥にようこそ来てくださいました」
そういう老婆の案内の元、俺は家の中へと案内される。
※ ※ ※
老婆は温かい紅茶と茶菓子を用意しゆっくりと俺の前にある椅子を引く。
慣れた動作だ。
「どうぞ、こんな田舎菓子でよければ召し上がってください」
俺は貴重なお菓子を一口食べる。
カステラのような味と食感でなかなかにうまい。
俺がお茶を一気に飲み干し、お代わりを言葉もなく次いでくれる老婆に俺は尋ねようとする。
「あの……」
「えぇ……おっしゃりたいことはわかります、介護される人間がもてなすのは変ということでしょう」
彼女は家の窓の方を見つめながらゆっくりと口を開く。
「実は……介護してほしいのは、私ではなく娘なのです」
「娘さん……ですか?」
「えぇ……まだほんの子供ですよ」
「そうですか」俺は曖昧に頷き、ティーカップに口をつける。
「どうぞ……こちらへ……あの娘はちょうどお昼寝の時間です」
俺は老婆に案内され、その娘に会いに行く。
※ ※ ※
ベッドで眠っていたのは水色のボブカットヘアーの幼い子供だった。
身長は俺の半分くらいだろう。
すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てる女の子
石鹸の匂いがする。
服装は白いワンピース。
老婆が声をかける。
「ランセリア……起きてください」
その声にゆっくりと彼女は起き上がる。
「おはよう、おばあちゃん」
彼女の見開いたその瞳に光はなかった。
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