第74話

 アリサに距離を詰めるローガ。


 彼女の身体能力は魔法によって強化されている。


 ギリギリの攻防が奴とアリサによって数秒行われる。


 シエスタがムセンのいる方向に弓を放つ。


 ムセンとローガの位置が入れ替わるが、奴はあっさりとシエスタの矢を弾き返す。


 シエスタに今度は向かうローガ。


 だが、アリサとシエスタの位置が入れ替わり、ローガはアリサの攻撃をガードする。


 その拳の威力は奴を後方へと飛ばす。


 土埃をあげて後ろへと飛ばされた奴の顔が苦痛に歪む。


「なんだ……ガードしたのにこの威力……」


 その後も、位置替えとアリサの格闘技に翻弄される。


 アリサがシエスタに目線を合わせる。シエスタが頷く。


 ローガが咆哮をあげる。


 咆哮をあげたが、奴は動きを止める。


「チャンスよ!」


「待て、今先走るのは危険だ!」


 その間に先走ってナイフで攻撃しようとするシエスタをムセンは羽交い絞めにする。


「離して!」


 ローガは今しびれを切らし、頭が回っていない。


「なんだなんだ?仲間割れか?」奴はそう言う。


 アリサがシエスタの方へと向かう。


 ムセンの筋肉が肥大化する。


 そしてそのまま彼は一度手を叩く。


 シエスタとローガの位置が入れ替わり、シエスタが土魔法を発動させ、ローガの足元にある地面が、まるで奴の足を飲み込むように盛り上げる。


 「しまっ……」奴は身動きが取れなくなる。


 アリサが魔法陣を拳に発生させると同時に、ムセンの後ろに巨大な魔法陣が三つ、青、黄、赤の順に並んで発生する。


 「ごめん……ムセン」


 アリサの拳が奴の横腹に突き刺さり、鎧を破壊する鈍い音と共に、ローガはムセンごと、吹き飛ばす。


 シエスタは弓の狙いを定める。

 

 放たれた矢がローガに当たった瞬間に閃光と共にそれは弾け、爆発音が鳴る。


 あたり一面の草木がはじけ飛び、地面の茶色だけが映る。


 それでも吹き飛ばされたローガは止まらず、三つの魔法陣のうち、青い魔法陣の中央を通過する。


 その瞬間、魔法陣と同じサイズの氷塊魔法が、黄色い魔法陣を通過した時には、光の玉の魔法が、赤い魔法陣を通過した時には赤い火の玉の魔法がローガに向けて放たれる。

 

 三つの爆風と爆音、爆発が生じる。


 そして爆発の後、力尽きる直前のムセンによって地面へと叩きつけられたローガはシエスタの土魔法によって倒れた場所の地面を盛り上げられ、その盛り上げられた土がやがて奴の四肢を固定する。


 奴の胴体と頭だけが見える。


 「ムセンさん……」シエスタが仰向けに倒れたムセンを見やる。


 「大丈夫よ、魔法抵抗をあげる薬を戦いの前に飲んであるし、筋肉肥大化した獣人化で物理ダメージも半減されているから死んではいないわ……それでも気絶してしばらくは起き上がれないでしょうけど……S級……それも元一位にはこれくらいしないとね……これで少しは時間を稼げるでしょう」


 アリサに付与された魔法が全て解ける。


 彼女は両膝をついて、わき腹を抑える。


 「アリサ!」シエスタが叫ぶ。


 「大丈夫、ちょっとしたかすり傷よ」油汗をかき、血のにじんだわき腹を気にせず強がりゆえの笑みを浮かべる。


 「待っていて、今治療を……」


 「ありがとう……」


 シエスタに包帯を巻かれて、安堵の笑みを浮かべるアリサ。


 「やったのか……?」


 俺はなんとかそこで目を覚ます。


 「えぇ……なんとかね……まだ油断はできないけど」


 俺は、シエスタとアリサがボロボロになって魔力が底をついたことを理解する。


 呼吸しているだけで全身が痛い。


 だが弱音を俺だけ言うわけにはいかない。


 数秒の静寂。


 そして、奴が意識を取り戻し高笑いする。


 「まさか、俺様がここまでB級にやられるとはな……まぁいい」


 「もう意識を取り戻したのか……」俺が呟く。


 「化け物ね……」シエスタが言う。


 「まぁ、すぐに抜け出すことはできないでしょうね」


  アリサはそういう。


 「そうだな、俺様も少々久しぶりに強い奴がきて、子分以外と会話していなかったからな……ついついはしゃいじまった…………少し話をしようじゃねぇか」


 「お前と話すようなことなんて」シエスタが激昂する。


 「そういうなよ、こんな土くれから脱出するのはたやすい。冥途の土産に耳かっぽじってよく聴けよ」


 そうして俺たちは、逃げる気力もアイテムもなく、マレットさんが来るまでの間、奴と会話する。


 


 


 

 


 

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