激突、謎の魔物サテュガン

第52話

 五合目に到着する。


 突然、先頭のムセンが止まる。


 ムセンは犬のような唸り声をあげる。


 ポールが理由を尋ねようとして、押し黙る。


 俺ですら胸がざわつく。


 後ろを振り返ってみると、女性陣も俺と同じように不快感に表情を歪ませていた。


 花蓮に至っては吐き気を必死にこらえていた。


 「おい、花蓮、この先に何がいるんだ?」ポールが優しく彼女の背中をさすりながら聞く。


 「あいつだ……あいつがいる」震えながら声を絞り出す花蓮。


 「あいつって……」


 古びたドアが開くような不気味な音が聞こえる。


 「何の音だ……?」俺が呟くと、ポールが突然、俺を押し飛ばす。


 俺が後ろに吹き飛ばされて尻もちをつく。


 文句を言おうとすると、俺のいた場所に何かでかいものが地面に着地した音と土埃がまう。


 土埃が風で消える。


 —————ヤギの足が見える。


 俺が視線を上にあげると、二足歩行の三つ目の巨大なヤギが俺をギロリと見下ろしていた。


 ※ ※ ※


 「ポール!」ムセンが叫ぶ。


 「山岳出身の俺にもわからない、リョウキ……おい、リョウキ!」


 俺は大声にハッとして慌てて立ち上がる。


 魔物図鑑でも最後の方に記されていたからすぐに俺はそいつの情報を思い出す。


 「あれは……サテュガン……!」

 

 「なんだそれは!」ムセンが大剣を構えながら叫ぶ。


 古びたドアが開くような音は目の前にいる化け物の鳴き声だった。


 「GIEEEEEEEE!」


 カタカタと独特な歯ぎしりの音でサテュガンは様子を伺っている。


 「襲ってこない……どういうことだ」ポールが俺に問う。


 「奴は、をするんだ……」


 「品定め?」


 俺は頷く。


 「弱者を倒し、それをおもちゃにする下衆な魔物だ……かなり悪魔に近い……生態は謎に包まれているが、一つだけわかっていることがある。奴は主君と決めた生物に従い自分との実力差で敵をどうするか判断する」


 「つまり、山賊どもの番犬ってところか」ポールが剣を構えながら納得する。


 サテュガンは俺が話し終えると、醜悪な笑みを浮かべる。


 品定めが終わったらしい。


 「おい、これはどういう意味だ!」


 俺は記憶を頼りに結論を出すが、その答えに冷や汗を流す。


 「最悪だ……どうやら頑丈なおもちゃを手に入れたと奴は判断……つまり奴が一番やる気を出す実力差ということだ。決して勝算がないわけじゃないけど……」


 「くそったれが……」ムセンが即座に自身の筋肉を巨大化させる。


 

 


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