第32話
俺たちはテントの中で休みを取っているが第六層、第七層へSランク冒険者の援護をするのは少々無茶な気がしてきた。
Sランク冒険者の仕事は簡単に言えば国の危機が訪れた場合に動く。
俺はそこまで考えてふと疑問を口にする。
「Aランク級の冒険者を呼ばなくていいんですか?」
「Aランク冒険者はなんていうかだな」肉を食らっていたムセンが言葉を濁す。
シエンも視線を逸らしポールはため息を吐く。
カルナは苦虫を嚙み潰したような顔をする。
アリサが少々苛立ちながら淡々と言った。
「あいつらは腰抜けよ」
「腰抜け?」
俺はその評価に疑問を持つ。
カルナはパンを食いちぎりそれを飲み込んだ後言った。
「いいわ、この際もっと分かりやすく言ってあげる、クズよ」
「クズ……」と俺は呟く。
「おいカルナ、聞こえたらどうするんだ、アリサも……」とポールが動揺する。
「まぁなんだ、そのAランク冒険者というのは、貴族のボンボンか金で冒険者ランクを金で買ったような天下りの奴らばかりだ」とムセンはあぐらをかいて話す。
「でもそんな報告一度も……」
俺はそういった後、カルナが言う。
「そりゃそうよ。書類上は国の有力者がSランク冒険者に弟子入りしたか、ものすごく才能がある冒険者、つまりエリート魔法学校を卒業したということになっているからね。でも実際は自分たちは後方から指示ばかり出して上前だけはねているような連中なの……まぁ中には実力でB+を超える実力者がいるけど、そういう奴らは冒険者ではなく、より力の強い貴族の護衛として雇われることになるわ。Aランク冒険者の中には降格処分されたSランクもいるのだから余計に質が悪いの」
「それじゃあSランクにはどうやってなるんです?」
「ありゃ、軍のトップの連中がほとんどだ、実力も折り紙付きで人格者だ。だがどういうふうに抜擢されているかは知らん、考えたくもない」とムセンは言う。
「どちらにせよ、Aランク冒険者がこんな後始末任務に来ることなんてないわよ、Sランクでもこんな任務に来るとしたら聖人として有名なあのマレットさんくらいね」とカルナは付け足す。
「そうなんだ……」
俺はどこの世界にも形骸化した伝統とその背後にある権力があるのだと思った。
十分な休息がとれたので俺たちは第六層へと向かった。
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