第222話 銀影の場合 ①



 おおっと!?


 あの戦いの後、俺は何処かへと強制転移させられてしまった。


 と言っても、自分の装備していたマジックアイテム「テレポートリング」が壊れたせいなのだが。


 一瞬の浮遊感を感じ、すぐさま重力を感じた時にはもう見慣れぬ景色だった。


 「うをっ!? 空中に投げ出されてる?」


 落下している事を感じ、俺は直ぐに態勢を立て直す。


 高度が高ければ危ないところだが、地面は直ぐ下に見えた。


 そのままドシンッと背中から落ち、何とか事なきを得た。


 「いたたたたたたっ!!?」


 幸い怪我などはしていないようだ、壁の中に転移してたら大変だった。


 「いたい! いたい! いたい!」


 まぁ何にしても無事でなによりだな。


 「ちょっと!? どきなさいよ!!」


 ステータスチェック、うむ、ダメージは無い。着地に失敗した程度のようだ。


 「聞こえてんの!? どきなさいよ!!」


 それにしても、ここは一体何処だろう?


 「どきなさいってば!!」


 何かさっきからうるさいな、誰だ?


 「ど・き・な・さ・い・つーの!!!」


 「な、なんだ!?」


 俺は一瞬背中がもぞもぞするのを感じて、すぐさま飛び退いた。


 「なんだじゃないわよ! 人を地面に挟んで踏みつけにしてくれちゃって!」


 「ぬ、ぬいぐるみが、喋ってるううう!?」


 「失礼しちゃうわね! 私のどこがぬいぐるみよ! まぁ確かに、ぬいぐるみみたいに可愛いってのは認めるけどさ。」


 俺の目の前には、体長30センチくらいの小さな人型の生き物が居た。


 背中からの蝶々のような半透明の羽がある。


 「なによあんた! いきなり人の上から降って来て、踏み付けにしてくれちゃって! 危うく潰れるところだったわよ!」


 てゆうか、どう見てもぬいぐるみっぽいよな? これは一体?


 「なあ、お前さんは一体何者なんだ?」


 俺が尋ねると、ぬいぐるみはぷんすかぷんっといった様子で答える。


 「見て解らないの? 妖精よ、ようせい! フェアリーとかピクシーとか色々言われるけど、妖精のフィリーちゃんとは私の事よ!」


 「妖精~~? うっそだー。妖精ってのはもっとこう、神秘的で口数が少なくて、体形も細身で可愛らしい見た目で、兎に角お前みたいなぬいぐるみみたいな奴じゃないんだよ。お前どっからどう見ても只のぬいぐるみにしか見えないぞ。」


 「し、失礼しちゃうわね~~! 私はフィリーって名乗ったんだからあんたも名乗りなさいよ!」


 「ああ、すまん。俺は………………。」


 ふーむ、このまま名乗って大丈夫か? 


 ここが何処かも解らない以上、迂闊に情報を開示しない方がいいかもな。 

 

 「どうしたの? あんた、見た目は変な恰好してるし、銀の仮面なんか着けちゃって。」


 「銀の仮面? ああ、これか。」


 そうか、あの時の忍び装束のままの装備か。だったら。


 「俺の名は銀影、忍者だ。」


 「ぎんかげ? 変わった名前ね、そう言えばファーイースト国にそういう名前の人が多いって聞いた事があったわね。」


 ファーイースト国だって!? じゃあここは。


 「なあ、ここは正方世界なのか?」


 「そうよ、今更何言ってるの?」


 そうか、じゃあここは俺が知っているゲーム「ラングサーガ」の世界って事か。


 良かった、どこか別の異世界に飛ばされたとかじゃなかった訳か。


 ふーやれやれ。何とかなりそうだな。


 「なあ、どこか近くに人里はあるか? ここは何処だ?」


 「フィリーちゃんよ! フィリーちゃん! ここは集いの森よ。色んな種族が集まる聖域なんだからね。」


 「集いの森?」


 聞いたことが無い、俺の知らない情報か?


 はたまた別のゲーム世界とごっちゃになっているのか?


 「で、ここを西に行くとプロマロックの港町よ。北へ行くと巡礼街道へ出るわ。更に西へ行くとレダ王国へいけるわよ。」


 なるほどなるほど、大体分かった。ここはセコンド大陸の南部だな。


 「じゃあ、東へ行けばカナン王国へ行ける訳だな。」


 「そうだけど、東へは行かない方がいいわよ。」


 「なんでだ?」


 「今、カナン王国とレダ王国の間で戦争やってんのよ。行き来がメンドクサイったらないわ。検問だなんだと。ホント人間って余計な事するよね。」


 ふーむ、戦状態か、カナン王国とレダ王国の戦争は確か、ラングサーガのイベントにもあったよな。


 うろ覚えだが、確かにあった筈だ。そこを避ける為には。


 「よっしゃ! じゃあまずはプロマロックの港町へ行ってみようかな。」


 俺がこれからの行動を決めた矢先、妖精のフィリーが周りを飛び回った。


 「しょうがないわね~、私が案内してあげるわよ。」


 「おいフィリー、お前ここに居なくても良いのか?」


 「妖精は自由なんだもん、私の勝手気ままに行動あるのみよ。」


 「気楽な事で、フィリーは良いな~。」


 「その代わり、案内の駄賃に町に着いたらさくらんぼのブランデー漬けをご馳走してちょうだいね。」


 「まったく、ちゃっかりしてんな。フィリーは。」


 こうして、俺の冒険の旅は再会したのだったが。


 さて、これからどう・あい・なり・ます・やらだな。


 旅のお供は妖精のフィリーという女の子の道連れ、口やかましい妖精だ。


 取り敢えず、今は自分の無事を確認できただけでも良しとしとこう。


 これからだな、何かが起こるのは。じゃなきゃこんな所へ飛ばされない。


 「やれやれ、先行き不安しかないよ。」


 「大丈夫よ、私に任せなさいな。フィリーちゃんはこう見えて魔法が使えるのです。」


 「マジか!?どんな魔法だ?」


 「明日の天気を知る魔法とか。」


 「なんだ、お前何の役にも立たないじゃないか。」


 「し、失礼しちゃうわね!!」




 




 


 


 


 


 



 




 


 

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