第220話 その後の後日談
クラッチ駐屯地 司令室――――
「では、ジャズ君は行方不明なんだね? サキ君。」
「はい、方々捜索しましたが、戦闘中行方不明としか………。」
「うーむ、そうか。」
「それと、あの戦いにおいて混沌の王カオスを討伐したのは、やはり銀影様………………コホン、銀影を名乗る殿方だそうです。」
「そうか。これでこの世界も少しは穏やかになるといいね。いや、ご苦労。今はゆっくりと休みたまえ。」
「は、それでは失礼致します。コジマ司令官閣下。」
「ああ、待ちたまえ。サキ少尉、君とナナ少尉に辞令が届いているよ。」
「辞令でありますか?」
「うむ、王都からだ。中尉への昇進と金一封、それとしばらくの休暇だよ。」
「は、ありがとうございます。司令。」
「おめでとう、君達のような優秀な部下を持って私は幸運だよ。」
「いえ、勿体なきお言葉。恐縮です。」
「そう言えば、今日だったね。ニール君とリップ君の結婚式は。」
「はい、二人共幸せそうでありました。」
「ジャズ君が居れば、きっと彼等を祝福しているだろう。しかし、何処に居るんだろうね? ジャズ君は………………我が軍にとっての損失だよ。早く戻って来て欲しいところだね。」
「はい、フィラさんの話では、突然姿が消えたそうなのですが。」
「うーむ、私はそういう類の事は疎くてね。しかし、ジャズ君の事だ、きっと何処かで生きていると思うよ。」
「はい、私もジャズ少尉が死んだとは思っておりません。」
「まあ、気長に待とうじゃないか。そのうちひょっこり顔を出すだろう。」
クラッチ駐屯地 兵舎――――
「ちょっとニール! 急ぎなさいよ!」
「分かってるよ! そう急かすなってリップ。」
「あんた、私の両親に会ったらちゃんと挨拶しなさいよ!」
「だから分かってるって! 大体、同じ村の出身だろうが! 今更挨拶とか。」
「こういうのはキチンとして欲しいのよ! 私もあんたの両親に会ったら挨拶するから!」
「それにしてもリップ、その指輪………………。」
「ああこれ? ジャズから貰ったブロックリングがどうかした?」
「いや、特に気にしてねえけどさ。」
「そう言やあ、あんたの腰のベルト。それ、大剣ベルトよね。」
「ああ、ジャズから貰った、な。」
「………………不思議ね、私達、ジャズから貰ったマジックアイテムのお陰であの戦いを生き残ったような気がするのよね。」
「違いない、ジャズに感謝だな。」
「ジャズ、何処に居るのかしら?」
「さあな、けど、俺はあいつは今も何処かで生きてると思うぜ。ジャズが簡単にくたばる筈ないからな。」
「そうね、そうよね! じゃあ私、先に女神教会へ行ってるから。遅れるんじゃないわよ! いいわね!」
「おう! 女は準備に手間取るって言ってたしな。なあリップ。」
「何よ!」
「幸せにしてやるからな。」
「………………もう奴隷買うんじゃないわよ!」
「それを言うなって!」
クラッチの町 冒険者ギルド――――
「二人共、Dランクへの昇格おめでとう。」
「ありがとう姐御。」
「へっへっへ、遂に俺も一人前の仲間入りだぜ。」
「ラット、浮かれないの! 足元掬われるわよ。」
「了解っす、姐御。」
「そう言えば姐御はAランクに昇格したんですよね?」
「いい!? マジっすか?」
「ええ、けど私はまだまだ立ち止まらないわよ。目指すはSSSランクなんだから。」
「スリーS!? 流石姐御っすね。」
「今でも十分強いと思いますけど、何が姉御をそこまで?」
「兎に角私は強くならないといけないのよ。あの女に勝つ為に、ね。」
「ああ、あのダークガードの女ですよね?」
「おっぱいの大きいって言ってた人っすよね? 姐御とその女はいい勝負だと思うんすけどね。」
「ラット、あんた………………どこ見て言ってんのよ。」
「ラット、これから模擬戦をやります。練習場に来なさい。」
「え!? 今からっすか?」
「急ぎなさい!!」
「は、はいいいいい!」
「ラット、そういうところは変わらないのね。あ~あ、ジャズは今何処に居るのかしら? また一緒に冒険依頼をこなしたいわね。」
アリシア王国 王城 謁見の間――――
「報告は以上になります。」
「ご苦労、下がりなさい。」
「は! では、失礼致します。」
「まさか、混沌の王が復活し、それを倒すとは。その銀影とやらは何者であろうか?」
「心配しなくても大丈夫よ、ダイサーク叔父様。お兄ちゃんの話では、多分ジャズ殿かもしれないって事のようだから。」
「なんと! そうなのか? ジャズー。」
「ええ、ほぼ間違いなく。ジャズでしょうね。」
「あら? そうなの? アリシアの英雄として倒してくれれば、国民にも活気が満ちて沸き上がったでしょうに。」
「母上、ジャズは恥ずかしがり屋なのですよ。だから素性を隠していたのだと思いますよ。」
「残念ねえ、レイチェルの婿にと思っていたのに。英雄なら問題無いでしょうし。」
「お母さん、私はまだ結婚なんて。」
「そうだぞ姉上、女王はまだ成人しておらんではないか。」
「じゃあ、ジャズーと結婚するの?」
「ちょ、ちょっと!? 何でそんな話が!?」
「そうですよ母上、兄妹で結婚など。」
「いや、ジャズーよ、古今兄妹で婚姻をしたのはそう珍しくないぞ。」
「だだだだだ、だって、お兄ちゃんだって、好きな人ぐらい………。」
「いや、レイチェル。そういう事ではなく、例のあの話があるからね。」
「おお、そう言えばそうだな。ユニコーン王国からの立っての願い。ジャズーを旧ゴップ王国へ代官として納めて欲しいという話であったな。で、どうするのだ?」
「その話、お受けしようと思います。ゴップ国で代官を務め、実績を積んで、そうすればレイチェルとの事だって、キチンと周りが納得してくれると思うから。」
「うむ、そうであるな。」
「ととと、という事は、おおお、お兄ちゃんは私と、けけけ、結婚を考えて?」
「嫌かい?」
「いいい、嫌じゃ、無い、けど、うん。嫌じゃ、無い。」
「あらあらまあまあ、うふふ、決まりね。」
「これで良いのだろう? 姉上。まったく、姉上には頭が下がるわい。」
アリシア王国 王都 女神神殿――――
「ただいま戻りました、サナリー様。」
「まあ、マーテル。早かったのですね。正直心細かったですよ。」
「申し訳ありません、サナリー様。手続きに時間を取られまして、しかし、これで私は正式にサナリー様の護衛騎士になりました。」
「よかった、貴女はわたくしにとって一番の良き理解者であり、友人でもありますから。」
「その御言葉、嬉しく思います。私もサナリー様の事を友人として慕っておりますので。」
「ともかく、ご苦労様でした。エストールでの戦いは熾烈を極めたそうですね。気が気ではありませんでした。」
「ご心労をお掛けしました、しかし、混沌の王は倒され、平和を手にしました。これもジャズ殿と銀影殿のお陰だと思います。」
「お二人共、行方知れずと聞きました。心配ですね。」
「はい、ですがお二人共、おそらくは無事かと思われます。きっといずこかで生きておられるかと。」
「そうですか、お二人もですけど、貴女も無事で良かったと思っていますよ。」
「ありがとう存じます、サナリー様。」
「さあ、大聖堂の掃除をしなくては。今日も忙しくなりそうですね。」
「日々の生活が送れる、これもまた、幸せという事ですね。」
セコンド大陸 エストール大神殿 祈りの間――――
「結局、解った事は、このエストールの防御力は薄いという事ね。」
「それだけではないぞい、巫女にパワーを付けねばならん。」
「それはいいから! アドンさん、あなた何時までここに居るつもりですか?」
「巫女が心配なんじゃ、わしが居る以上、巫女の護衛は心配せんでええ。」
「それは有難いですけど、妙な事を教えないで下さいね。」
「妙な事とはなんじゃ! 鍛錬は大事じゃぞ!」
「まあまあお二人共、わたくしは別に構いませんよ。鍛錬は楽しいですし。」
「ほら見て! 巫女様がおかしな事を口走っちゃったじゃない!」
「わしの所為ではないぞい! 寧ろ喜ぶべきじゃろうが!」
「何が喜ばしいのよ! ああ、頭痛くなってきた。兎に角、アドンさんはここを出禁ね。」
「な!?」
「鍛錬は余所でやって下さい。」
「なんじゃとおおおおーーーーーーー!!??」
「巫女様に筋肉は必要ありません。いいですね。」
「そんな殺生なああああーーーーー!!!???」
エストール大神殿 門前――――
「行くのか? フィラ。」
「ええ、お世話になりました。リア。」
「なあ、もう少しここで修行をしていっても良いんじゃないのかい?」
「いえ、時間が惜しいのです。早くジャズ様を探さないと。」
「気持ちは解らなくはないけど、当てはあるの?」
「ありません、ですが、必ず見つけます。ジャズ様を。」
「気を付けてな、フィラ。あんまり無茶すんなよ。」
「はい、では、リアもお元気で。」
こうして、フィラは新たな一歩を踏み出した。ジャズを探す旅に。
(ご主人様、必ず探してみせます。ですからどうか、生きて、生きていてください。)
冬の厳しさから、春のうららかさへと、季節が移ろいで来た、そんな日和。
フィラの歩みは軽く、道に咲く野花は色とりどりに風に揺れていた。
力強く踏みしめた大地に、フィラの足跡が残り、蒼穹の空は旅人を癒す。
今、一人の若者が旅立っていったのだった。
******************************************************
第4部 完
おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。
完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます