第219話 聖戦 ⑤
軸足を失い、よたよたとした足取りでこの場を去ろうとしているボストロール。
それを、ゆっくりとした歩みで詰める俺。
辺りは静寂となり、戦いの音は止み、この戦いを見ている者ばかりが集まった。
シャイニングナイツ、予備隊、義勇軍、サキ隊長やナナ小隊達、姐御たち冒険者の面々、更にはモンスターまでもが立ち止まり、この戦いの決着の行く末を見ていた。
「お前達! 何をぼけっとしておるか! さっさとこの人間を殺せ!」
ボストロールが喚いているが、魔物たちは誰も言う事を聞かない様子だった。
「認めん! 認めんぞ儂は! こんな! こんなところで終わる訳が無いのだ!」
そして更に逃げ延びようと俺から離れるボストロール。
そして、その行動を邪魔する者が立ち塞がる。
「何してんのさ? あんたの相手はあっちだよ。」
ちびっこだ、船の錨型ハンマーを担ぎ、仁王立ちしてボストロールの進路を妨害した。
「いいタイミングで現れるじゃないか、ちびっこ。」
「まあね。」
「あ………あうぅ………………。」
ちびっこが俺の方を指差し、ボストロールを見据える。
「あんたの相手はあっち。」
ボストロールは俺の方を向き、恐れおののきながら後ずさる。
「こんな筈では! こんな筈では無かったのだ! 儂は、儂はここで終わらんのだ!」
「そうかい。」
「認めん! 認めんぞ儂は! ここで終わるなぞ!」
「そうだな。」
ボストロールは恐怖に顔を歪め、唯一の武器である棍棒をこちらへ向けて投げて来た。
「うわああああああああーーーーーーーーー!!!!?」
棍棒は飛んできたが、避けるのもめんどくさい。
それに、「不屈」を使っているので、ダメージは1で済む。
ゴチンッ、という鈍い音がしただけで、まったく痛くない。不屈様々だな。
しかし、何かが割れる様な音が聞こえたが、気にしない。
眼の前に棍棒が落ち、俺の視界を遮る形となった。
「ふ、ふふふ、いいぞ。儂は逃げねばならんのだ! 逃げて逃げ延びて、もう一度チャンスを掴み、女を殺し、犯し、負の想念を蓄え、今一度カオス様を復活させるのだ!」
「………………。」
この場に居る全員が、この戦いの趨勢を見届けようとしていた。
フィラがボストロールの投げた棍棒を持ち上げ、横へ放る。
「どうぞ、ジャズ様、お決めくださいませ。」
「うむ、手間かけるね、フィラ。」
俺とボストロールの間を遮るモノは………無い。視界が開けた。
「終わらん! 終わらんのだよ儂は! こんな、こんなところで人間風情に!!」
「さっきも聞いたよ。」
聖剣を持つ手に力を宿す。
上段に構え、ボストロールを見据える。
「気合。」
思えば遠くへ来たもんだ。
「気合。」
これで気力は上限のプラス70。
「魂。」
まさかこの俺が、まさかな。不完全とはいえ混沌の王を倒すのか?
まさかな。俺は只の雑魚キャラだぞ。
「ひ、ひいいいいいいーーーー!!??」
精神コマンドは使い切った、聖剣サクシードもこの手にした。
ボストロールはまたしても後ろを向き、この場から逃げようと藻掻いた。
「フィラ、下がっていなさい。」
「はい、ジャズ様。」
フィラは俺から後ろへ一歩下がり、この戦いを見つめている。
フィラが見ている前で、無様は出来んな。
俺のスキル、コンボプラス1の効果で、更に必殺技を仕掛ける。
「聖剣の力を借りて! 今必殺の!」
上段から振り下ろし、次いで横薙ぎに剣を振るう。
「十文字斬りいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
真空の刃が二つ、十文字に重なり、ボストロール目掛けて飛ぶ。
音速を越える速さで飛翔した刃は、そのまま勢いを殺さずボストロールの身体を通り過ぎる。
「!!!!????」
ボストロールは声にならない断末魔を上げ、その身体を四つに引き裂かれた。
そして、ボストロールの体内にあった筈の黒い石は、四つに別れ、砂へと変わった。
これでカオスの元になっていた黒い石は、完全に消え去っただろう。やれやれ。
辺りには、静寂の時が流れ、モンスター達は一様に砂の塊へと変え、地面へと崩れた。
「勝負、ありだ。あばよカオス。そしてボストロール。」
天を仰ぎ見て、項垂れる。
ああ、やっと終わったか。
「目的達成、これより帰還します。」
「「「「「「「「「「「「「「「 うわああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」」」」」」」」」」」」」」
大歓声、耳をつんざく様な大歓声が聞こえ、辺りを震わせた。
{キャンペーンシナリオをクリアしました}
{経験点100000点獲得しました}
{ショップポイント3000000ポイント獲得}
{称号「世界を救いし者」を獲得しました}
おやおや、いつもの様に頭の中で女性の声とファンファーレが聞こえたよ。
どうやらシナリオをクリアしたらしい、やったね。
あ~~、ちかれた。
「ジャズ様ーーー!!」
フィラがことらへと駆け寄り、俺に抱き着こうとダッシュしてきた。
だが、次の瞬間。
俺の指に嵌まっていた指輪、テレポートリングが光り輝き、俺を包み込む。
「こ、これは?」
指輪を見ると、魔法石の部分に亀裂が入っていて、そこから何かが溢れていた。
「む? これはちょっと不味いかも?」
次の瞬間、俺は重力を感じなくなり、いずこかへと転移してしまった。
「へ?! ジャズ様!? どこですか? ジャズ様!?」
辺りは歓声と、戦いに勝利した喜びと、生き残った者達の嬉しそうな声で溢れ返り、フィラの声はかき消されていた。
「ジャズ様! ジャズ様! 私を! 私を一人にしないでください………………。」
フィラの瞳から、大粒の涙が零れ落ち、フィラはその場で崩れ落ち、泣き崩れたのだった。
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