第161話 ギルドランク昇格試験 ⑦
砦内部へと侵入したが、思いのほかモンスターが蔓延っていた。
角部屋から入り込んだのだが、ここから皆が待機している入り口まで通路を進む。
その途中にある牢部屋から、なんとも耳障りな嬌声が聞こえる。
今は何も出来ない、そのままスルーし、閂の解除を優先した。
途中、ゴブリンと遭遇。通路の角で出合頭で接触し、ショートソードを抜き有無も言わさず突き刺す。
(ふうー、危なかった。慎重に行動していてもこれか。)
他に気配は無い。静かなものだ、そのまま皆が待機している入り口まで進む。
何とか入り口までたどり着いた、やはり閂が掛けられている。
「こいつを外さなくては。」
俺はドアの閂を横にずらし、外す。
しかし、次の瞬間。カランカランという木管が鳴り響き、辺りが騒然となった。
「しまった!? トラップのアラームか!!」
なんてこった! この俺がこんな手に引っ掛かるとは。やはりシーフかスカウトをパーティーに一人くらいは欲しいところだったな。
まあ、後の祭りだが。
兎に角、一刻も早く皆と合流しなくては、ドアを開け、外との繋がる場所を確保した。
「どうしたの?」
ガーネットが慌てて聞いて来た。
「すまん! トラップに引っ掛かった。モンスターが押し寄せて来るぞ。」
「まあ、こうなったら仕方ないわね。ここからは派手にいきましょう!」
「了解っす! こういうのは得意っすよ、俺。」
皆やる気だ、そして、続々とゴブリンがこの場に集結しだす。
「囲まれると厄介だ。みんな! 各個撃破でいこう!」
「解ったわ! 兎に角、目についた奴から叩けばいいのね!」
「よっしゃ! いこう! みんな!」
隊列は、先頭に姐御、俺、後衛にガーネットとラット君。これで砦の奥を目指す。
「はあっ!!」
裂ぱくの勢いで、姐御が剣を振るう。流石姐御、一撃でモンスターを倒してどんどん先へと進む。
後ろからやって来るゴブリンは、ラット君が対処していた。
「こなくそ!」
ラット君の剣は、まだまだ粗削りだが、それでも確実にゴブリンを捕らえ、ほぼ一撃で倒していた。
「残りの矢が少ないわ! 慎重に使わないとね!」
ガーネットは弓に矢を番えて、そのままの状態でいつでも狙える様に準備している。
俺は姐御の隣で剣を振るい、特に脇からやってくるモンスターに対処した。
この砦には一体、どれ程のモンスターが巣くっているのか?
ここはやはり、目指す場所は大広間だろうな。そこまで行けば何とか全体像を把握出来る筈だ。
「兎に角、大広間を目指そう! このままじゃこっちが疲れるだけだ!」
「「「 わかった! 」」」
戦い続けて、皆がそれぞれ役割分担をし、何とか大広間までやって来た。
「はあ、はあ、はあ。」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ。」
皆よく戦ったよ。ここまでかなりのゴブリンを倒してきた。だが、ここまでで結構だ。
大広間には、ざっと見積もって50匹程のゴブリンが控えていた。
その一角には、一際目立つ奴が居た。
「あれはゴブリンの上位種、ホブゴブリンだな。」
どうやら、あのホブゴブリンがこの群れを率いているらしい。
「うわあ………、こんな数、相手に出来ないっすよ………。」
ラット君が辟易としている、まあ疲れている事だろう。
「まあ、そうだね、だからまあ、俺が何とかするよ。」
姉御がこちらを向き、不思議そうに聞いて来た。
「どうするの? ジャズ。」
「ん? ああ、まあ任せて。」
曖昧に返事をしておく。
こんなの一々相手にしたくない。俺は早速精神コマンドの「大激怒」を使用。
敵全体に2500の固定ダメージを与える。
そして、次々と倒れるゴブリン共。実際あっという間である。
気が付くと、この大広間に立っているのは俺達四人と、ホブゴブリンだけだった。
「あの個体は強力だ、みんな、油断せずいこう。」
ここで姐御が面食らった様な声を出した。
「ちょ、ちょっと待ってジャズ! あなた今何したの?」
「私も聞きたい。」
「い、一体何が、どうなって?」
まあ、無理も無い、しかし、説明している暇はない。
「そんな事より、相手のホブゴブリンはもはやグロッキーですよ。今のうちに倒してしまいましょう。」
「え? ええ、そうね。」
姐御はすんなり理解している、とは言い難いが、それでもやる事は一緒なので応戦する。
「みんな、相手はホブゴブリン一匹、ここで畳みかけよう。」
「「「 わ、わかった。 」」」
皆どこか納得していない様子ではあったが、目の前のモンスターを倒さなければならないという事は解っているみたいだ。
「よ、よし! いくぜ!」
ラット君が先制攻撃を仕掛ける。剣を水平に構えモンスターに接近し、そのまま水平切りをかます。
「私も続くわ!」
お次はガーネットだ、その場から狙撃スキルを使ったのだろう。遠距離からの狙い撃ちだ。
弓矢は見事にホブゴブリンの胴体に直撃し、相手が怯んだ隙を見逃さず。間髪入れずに姐御が接近。
俺はナイフを投擲、ホブゴブリンの頭部に突き刺さる。これでかなりのダメージを与えた。
「いくわよ! 兜割り!!!」
お! 姐御の必殺技。「兜割り」が炸裂した。上段からの振り下ろし。こいつは効くぜ。
案の定、ホブゴブリンは姐御の攻撃をまともに喰らって、体が縦に二つに別れ、倒れた。
ホブゴブリンの反応は無い、どうやら倒したみたいだ。
「や、やったのかしら?」
ガーネットが呟き、周りを見て警戒心を緩めた様だ。
辺りには静寂が漂っていた。
「これで、終わったのかしら? ジャズ?」
「いえ、まだです姐御。この砦には牢部屋があります。そこに恐らく女性が捕らわれている可能性があります。急ぎ、救助しに行きましょう。」
「そ、そうなんだ。解ったわ。その牢部屋へ行きましょう。」
そうして、牢部屋から無事に救出した女の子たちを保護し、砦を脱出。みんな無事に外へと出た。
ふーむ、やはり人質が居たか。苗床にされていたのだろう。ゴブリンのやりそうな事だ。
兎も角、俺達は無事に森を抜け、街道までやって来た。ここまで来ればもう安心だな。
途中の村へ立ち寄り、捕まっていた村娘たちを村まで送って、その後に俺達もクラッチへと帰還した。
やれやれ、とんだ試験になっちまったな。流石に疲れたよ。
クラッチの町 冒険者ギルド――――
サーシャは冒険者ギルドのドアを開け、ずかずかと入り込み、ドカっとカウンター席に座った。
ギルドと併設されている酒場のカウンター席から、各冒険者たちの事が一望できる。
「ふーん、中々居ないわねえ、勇者候補ってのも。」
サーシャにとって、他の冒険者たちはほぼ眼中に無かった。だが。
「ん?」
そんな中で、一際目立つ存在があった。テーブルの奥の方に鎮座していたその存在は、何故か異様な雰囲気を醸し出していた。
その存在は、筋肉ムキムキ。スキンヘッド、更にブーメランパンツ一丁という出で立ち。
「駄目駄目、ああいうのに関わっちゃ駄目。」
しかし、悲しいかな。サーシャとその存在は目が合ってしまった。
「うっ!?」
サーシャは直ぐに目を反らしたが、その存在はテーブルから立ち上がり、ゆっくりとした歩みでサーシャに近づいて行く。
「何でこっちに来る訳?」
サーシャは戸惑い、俯く。だが、その存在は無遠慮に近づき、そして、こう切り出した。
「ふっふっふ、エルフのお嬢さん。」
本当は相手にしたくなかったサーシャだが、話しかけられたので、仕方なく相手をした。
「な、なにか?」
そこで、その存在は、これでもかと言わんばかりに接近し、こう言い出した。
「どうやら、気付いてしまったようだね。」
「な、なににですか?」
そこで、その存在はこれでもかと筋肉をアピールしはじめた。
「このわしの、………筋肉に!!!!」
その存在は筋肉をアピールし、ことさらにポージングをかましてきた。
サーシャは、俯いたまま、思った。間違いない、こいつが例の勇者候補だと。
「お構いなく。」
それが、精一杯だった。その存在はどこか異様な威圧感を放っており、即座に逃げられなかった。
「ふっふっふ、エルフのお嬢さん、わしに何か用ですかな?」
「ええーっと、ですねえ。実は………。」
観念したサーシャは、こうしてここまでやって来た本題に入るのであった。
ここに、伝説が幕を開けた。
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