第158話 ギルドランク昇格試験 ④
薬草の採取を終えて、二束の薬草を手に入れた俺達。これでEランク試験の一つをクリアした訳だ。
残る試験内容は、毒消し草の採取。これがちょいとばかし厄介である。
というのも、毒消し草が自生している場所は、この森の奥まで行かないとならないからだ。
四人でそれぞれ皮の水筒の水を飲み、喉を潤す。小休憩しつつ今後の行動方針を決める為に話し合う。
「さて、薬草はなんとかなった。後は毒消し草だが、ガーネット、確かこの森の奥だったよね?」
「ええ、そうよ。毒消し草はもうちょっと奥に行かないと自生していないわ。」
「当然、モンスターとのエンカウントもするだろうな。まあ、その時はラット君の試験でもあるビックボアの討伐が出来れば、一石二鳥だがな。」
ラット君は辺りを警戒しつつ、水を飲みながら話に加わって来た。
「いよいよか、ジャズさん、もしビックボアを発見、もしくは遭遇した場合、俺に任せてくれませんか。Dランクの試験は俺が一人で大猪に対処しなければならんのですよ。」
「解った、その時になったらお願いするよ。だけど俺達はパーティーを組んでいるから、一人で無茶しちゃ駄目だよ、頼るときは頼っていいんだ。」
俺が言うと、姐御からこんな意見が出た。
「ちょっと待ってジャズ、確かに私達は一党を組んでいるけど、Dランクの試験は一人でこなす事で、より一層Dランク試験をパスしやすくなるのよ。だから、大猪に遭遇したらラットに任せてみるのもいいんじゃない?」
ふーむ、そう言う事か。それならビックボアと遭遇した場合、俺とガーネットは見物を決め込むか。
「では、そうします。」
よし、休憩も済んだし、そろそろ行こうか。
「皆、準備はいいかい?」
「「「 いいよ。 」」」
うむ、では、先へと進むか。ここはまだ比較的浅い場所だ。遭遇したモンスターもゴブリンが二匹だったし、これからが本番ってところか。
ここから先は森が深くなる、モンスターとのエンカウント率も跳ね上がるだろう。
慎重に行動するに越した事は無いな。隊列を組み、警戒しつつ前進する。
ラット君が草を分けつつ、先へと進み、俺とガーネットが辺りを警戒してゆっくりペースで進む。
小動物との遭遇もあり、なかなかアドベンチャーな冒険だ。緊張しつつ奥へと分け入り、毒消し草が自生している場所へ目指す。
木々が乱立しているので、視界は悪いが動くものの気配は察知出来なくはない。
丁度、開けた場所へ来たが、特に問題は無い。辺りには花が咲いている。冬なのに咲く花もあるという事だな。
特に気にならなかったので、歩みを進ませる。
と、そこでラット君がなにやら片手を上げ、一党を制止させた。
「どうした?」
「居るっす。大猪。」
何!? ビックボアか! こちらに気付いているのか?
一旦進行を止め、その場で止まり、この先にビックボアが居る事に緊張が走る。
「いけそう? ラット。」
ガーネットが心配そうに声を掛ける。ラット君は振り向き、親指を立ててサムズアップした。
「大丈夫、いける。」
ふむ、いけそうか。なら。
「ラット君、ここは君に任せた。一人で大猪に対処してきて。いざとなれば俺達も動くから。」
「了解っす。じゃ、行って来ます。」
「気を付けて。」
姐御の声を聞いたラット君は、ゆっくりと俺達から離れて、ビックボアが居る方へ進んで行った。
大猪、ビックボアは体長2メートル程のデカい猪だ。
野生の猪と違って攻撃的、
ラット君が少しづつモンスターに近づき、鉄の剣を抜いた。
更に進み、攻撃可能範囲まで接近した時、流石にビックボアも気づき、ラット君の方を向き前足を蹴り威嚇した。
やばい! 気付かれてた。ラット君、まずは相手の動きをよく見るんだ。決して楽な相手じゃないが、油断せずに行けば大丈夫な筈だ。
俺の心の声が聞こえたのか、ラット君は慎重に相手の動きを観察し始め、それに対処しようと身構えた。
よし、いいぞ。その調子。
しかし、ビックボアは唐突にダッシュをかまし、ラット君目掛けて突進攻撃を仕掛けてきた。
「うわっ!? 来た!!」
ラット君の焦りが伝わったのか、ビックボアは容赦なく突っ込んで来た。
「うわわ、ちょっとまったあああああー------!!!」
なんと、あろう事か、ラット君は俺達が待機しているこちらへ向けて、逃げてきた。
「おいおい! こっちに来たら!!」
「ちょっとラット!! 何やってんのよ!!」
「不味いわ! 私達も逃げるわよ!!」
大猪に追いかけられて、ラット君だけでなく、俺達まで逃げる羽目になった。
「うおおおおー----!! 逃げろー-----!!」
直ぐ後ろにビックボアが迫り、ラット君は一心不乱に走っていた。
俺達も、全速力で逃げる。
「なんでこっちに逃げて来るのよ!!」
「わかんねえ! 気付いたらこうなってた!」
「ラットのアホー------!!」
不味いぜ、こいつは、大猪は真っ直ぐに突っ込んで来る。俺達はジグザグに走りながら、何とか逃げている。
ビックボアは突進しかしてこない、そこが弱点でもあるが、上手くその習性を利用出来んもんかな。
「ラット君! 木にぶつけさせるんだ!!」
「わ、わかったっす! 何とかやってみるっす。」
ラット君の直ぐ後ろに迫っているビックボアを何とか誘導して、やがて一本の大木の前まで来た。
そして、ラット君はそのままの勢いで横っ飛びし、直角にダイブした。
ビックボアの勢いは止まらず、そのままの速度で大木にぶつかり、ドシーーンと派手な音を響かせた。
「や、やったっす!!」
「まだだ! とどめを!!」
俺の声に反応したラット君は剣を構え、ビックボアの頭部目掛けて剣を突き入れた。
ピギーーッという断末魔の咆哮を上げたビックボアは、やがて力尽き、ドサリと倒れた。
「はあ、はあ、はあ、や、やった、のかな?」
立っていたのは、ラット君だった。
「おお、やるなあラット君。ビックボアを倒したじゃないか。」
「まったく、一時はどうなるかと思ったわよ。」
「だけど、しっかりと一人で大猪を討伐出来たみたいね。お疲れ様ラット。」
姐御に労わられ、ラット君は笑顔で飛び跳ねた。
「やっっったああー-------!!! 遂にやったぞおー------!!!」
ラット君はその場で喜びを露わにし、俺達はそれを労った。
「お疲れさん、よくやったよラット君。」
「ふーん、やるようになったじゃない、ラット。」
「パーティーを危険に晒したのは減点だけど、兎も角、これでラットの昇格試験は無事に終わったわね、しかも一人で対処したんだから、これはもう試験をパスしたわね。」
「うう、ありがとうみんな! 俺、遂にやったよ。」
うむうむ、こうして若者は成長していくんだな。結構な事だ。
さて、喜んでばかりもいられない、今度は俺とガーネットの試験内容である、毒消し草の採取である。
ここまで森を歩いて来たから、もうそろそろ毒消し草が自生しているところに到着していると有難いんだが。
「なあ、ガーネット。毒消し草ってどの辺りにありそうだと思う?」
「うーん、多分この辺りで間違いないと思うんだけど。ちょっと探してみましょうか。」
ラット君が喜んでいる傍らで、俺とガーネットは地面に生えている草と睨めっこしている。
毒消し草を探さなくては、ラット君に続くぞ。
くまなく探していると、あった! 毒消し草だ。
「ガーネット! あったよ。毒消し草だ。」
「こっちにもあったわ! 毒消し草は一つで良かったのよね?」
「ああ、そう聞いている。」
よーしよし、これで俺達もEランク試験をパスしそうだぞ。やったね。
三人で喜んでいると、姐御がこちらへと近づき、労いの言葉を言ってくれた。
「お疲れ様、みんなよくやったわ。さあ、帰りも油断せず帰りましょう。町まで警戒は緩めちゃ駄目よ。」
「「「 は~~い。 」」」
よっしゃ! 何とかなったな。ふうーやれやれ、これで試験は終了か。
無事にこなせてよかったよかった。
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