第138話 ゴップ王国潜入任務 ⑤


 ゴップ王国の王城の階段を登り、俺達はゴップ王に会う為に玉座の間を目指す。


途中、ゴップ兵や騎士が居たが、先のグラードル将軍との戦いで疲れているみたいで、こちらに気を回す余裕は無いみたいだ。


皆その場で座り込み、各々休憩を取っている。


これはチャンスだ。一気に階段を駆け上がり、何の妨害も無くすんなりと上に上がれた。


というより、俺達は只の冒険者に見えるだけかもな。


一々アリシア軍でもない奴に、構っていられないのだろう。


やはり見た目は大事という事だな、冒険者装備を持ってきて正解だった。


「急ぐぞ、ちびっ子。この上の玉座の間に、おそらくゴップ王は居る筈だ!」


「あいよ! ゴップ王様の顔でも拝もうじゃないか。」


 俺達は階段を駆け上がり、玉座の間の前まで到着した。


 目の前には豪奢な扉がある、両脇に衛兵が立っているのが当たり前だが、今は戦時という事なのだろう。扉の横には誰も居なかった。


ノックをしてもいいが、一応自分は相手にとって敵なので、容赦なく扉を開け放つ。


「失礼しますよー。」


「おじゃましまーす。」


二人でそう言って、扉を開けた時、目の前の光景に、一瞬目を瞬かせた。


なんと、玉座の間の中央で、一人の男が、周りの複数の近衛騎士らしき者たちに、槍を刺し貫かれている現場に遭遇したのだった。


「ぐっ!? 何故ですか? …………父上………。」


刺し貫かれていた男は、玉座に座っている人物の事を「父上」と呼んでいた。


つまり、今槍を刺されている人こそ、アリシアの女王レイチェルの父君。おやじさんという事らしい。


どうなってんの? この状況。


「あの~、すいません。どなたか状況を教えてくれませんか?」


俺が飄々ひょうひょうと質問すると、帰って来た返事は、玉座の隣に立っている女のべっぴんさんが答えた。


「誰ですか? この玉座の間に土足で上がって来た愚か者は。」


「いえね、只の通りすがりの冒険者なのですが、この状況は一体?」


「簡単な事です。そこのリード王子が、王都防衛に失敗し、処分されただけでしてよ。」


何!? するとやはり、この人が女王レイチェル様の父君か!?


俺は急ぎリード王子の元まで駆け寄り、近衛騎士たちをどかす。


「リードさん!」


俺が声を掛けるのと同時に、近衛騎士たちが槍を引き抜き、元の位置であろう壁際へ移動した。


その場で倒れるリード王子を、俺は腕でしっかりと受け止め、意識を確認する。


「リード殿! しっかり!」


「うう………君は誰だ………。」


「アリシアの者です。リード殿、何故王子の貴方がこの様な仕打ちを?」


俺の質問に、リード王子は諦めの様な表情をし、ぽつりと零す。


「もう、………この国は駄目かもしれんな。…………伝言を頼む。妻と娘に「幸せならばそれで良い。」と伝えてくれ。頼む………………。」


「解りました。必ず伝えます。」


俺の答えを聞き、リード王子は穏やかな顔で力を無くし、項垂れた。


どうやら、リード王子も亡くなったようだ。


「…………親が、子を殺す。そこまでやるのか? ゴップ王よ!」


俺が睨むと、ゴップ王の横に控えていた女が喋り始めた。


「例え父子でも、敗軍の将は潔くね。それを貴方方の様な者にとやかく言われたくはないわ。」


「俺はゴップ王と話しているのだが? 貴女は何者ですか? 見た所、ゴップ王の側近の様に振舞っているようですが?」


俺の言葉に、女はフフフと笑みを湛え、体をくねらせながら答える。


「わたくしはシーマ。ゴップ王陛下の愛妾ですわ。」


愛妾? 妾の女か。ゴップ王は女に狂っているという事かな?


如何にもな感じで、シーマは近衛騎士に指示を出している。


まるで、自分が偉い人物だとでも言う様な態度だ。只の妾だろう? 何、指示だしてんのこの人。


「ゴップ王よ、一つ聞きたい。何故戦争を仕掛ける様な真似を? 貴方が兵を国境線沿いに集結させなければ、戦は始まらなかったと思うが、如何お考えか?」


俺はゴップ王に対して質問したが、それに答えたのはシーマだった。


「陛下は下賤の輩と話す舌は持ち合わせてはいませんの。わたくしが代弁いたしますわ。」


そう言って、シーマはこちらを値踏みする様に見ていた。


「只の冒険者に話す事でもありませんが、これ以上、アリシアに力を付けて欲しくなかったからですわ。強兵に金の鉱脈、豊かな大地。我がゴップ王国との差は開くばかり。ならばいっその事、アリシアから出た金を横取りしたくなるものですわ。ですので、その様に仕掛けたのです。」


そんな…………そんな事の為に、この戦を始めたってのか?


「この戦で、何人死んだと思っている! 王の息子だって、今正に!!」


「ウフフ、民など、幾ら切ってもまた生えてくる雑草の様なものでしてよ。」


「何だと! それが公の見解なら!」


ちびっ子が続く。


「この戦いは無意味だとでも言うの? 冗談じゃないよ! 何人死んだと思ってんのさ! 表を見てみなよ! 皆あんた等の為に必死になって戦った人達だよ! それを何さ!! 雑草って!!!」


シーマは余裕のある態度で、こちらを睥睨しつつ、更に言葉を続けた。


「我が国は、金も食料も乏しいですからね、生き残る者は選ばせてもらいましてよ。それに、丁度口減らしになって良いではありませんか。民は切ってもまた生えてくる、しかし、貴族は生き延びさせなくては金が手に入らないのです。お解かり?」


こいつ! いけしゃあしゃあと! 


それに、こいつがゴップ王の代わりに務めているのだとすると、ゴップ王はシーマの言いなりっぽいな。


これは、流石に、駄目だろう。こんな女の言う事を聞きながら政をするなど、常軌を逸しているとしか思えない。


「みんな死んだんだぞ。それを、………………人の命を、何だと思ってやがる!!!」


「静かにして下さらないかしら。貴方方、少し目障りですわ。近衛騎士、この下賤な者達を殺しなさい。」


おっと!? 出たよ、如何にもな悪役セリフ。お疲れさん、アンタは悪者確定だ。


俺達の周りに、近衛騎士たちが取り囲みつつある。そんな時、突然俺の指に嵌まっていた指輪が光を放ち出した。


「うわっ!? 眩しい。何だよ、この輝きは!?」


突然の事で、一瞬何が起こったのか理解が追い付いてこなかったが、辺り一面を眩い光が輝きだし、強い光が玉座の間全体を激しく照らす。


余りの眩しさに、瞼を半分閉じた状態になる。しかし、それでも尚、白い光の奔流が、より激しさを増し、俺の周りを強烈な光が発する。


「この指輪は確か。」


そうだ! この輝く指輪は、シャイニングナイツのシャルロット隊長さんから頂いた、戦友ともの証。「フレンドリング」だ!


そのフレンドリングが、俺達を守る様に、より一層輝きを増した。


「ギャアアアアアア、目がああああああ!! 目があああああああああああああああ!!!」


突然大声で叫び出したのは、玉座の隣に居る女、シーマからのものだった。


暫く光が続いたが、少しずつ光の力が弱まって来たので、目を開き、辺りの様子を見る。すると。


「おのれえええ! 忌々しい光めえええ!!」


そこに居た女は、シーマではなかった。いや、シーマだったモノだ。


体は一回り大きくなって、体の色はグレーになっており、頭から二本の角があり、背中からは、まるでコウモリを思わせる様な羽が生えていた。


「何だと!? アークデーモンだと!!」


間違いない、ゲーム「ラングサーガ」にも出てきたボスモンスターの上級悪魔。アークデーモンだ。


手強いぞ、こいつは。しかし、真実を明るみに出す効果があるとは、流石シャイニングナイツから貰った指輪だ。きっとマジックアイテムなのだろう。


「ほーう、馬脚を現したって事かな? シーマ。」


「おのれえ! 見られたからには生かして帰さん! お前達! いつまで人間のフリをしている!」


シーマが怒声を浴びせると、近衛騎士と思っていた奴らは、みるみるうちに体が変化し、体色が赤黒くなった「レッサーデーモン」へと、その姿を変えた。


「ちょっとちょっと兵隊さん!! どうなってんのこれ!!」


「見ての通りだちびっ子! こいつ等化けてやがったって訳だ!」


俺達をレッサーデーモンが取り囲み、その玉座の壇上にはアークデーモンが鎮座していた。


こんな状況だというのに、ゴップ王は微動だにしない。肝が据わっているのだろうか。


「さーて! 面白くなってきやがった!」


俺は腰ベルトに差したナイフを引き抜き、構える。


相手が悪魔なら遠慮はいらん。全力でやらせて貰う。


「初っ端からエンジン全開でいくぜ!! ちびっ子!!!」


「オッケー! こういうのが相手なら、やってやろうじゃん!!」


さて、絶対に負けられない戦いというのがある。今まさにそうだ。


ここまで来て、負けられんな!!!









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