第131話 サスライガー伯爵の正体 ⑥
サスライガー伯爵の正体は、クインクレインのメンバーだった。
シャイニングナイツ等の後方支援組織という事で、もし、その存在が明るみに出た場合、闇の勢力にその命を狙われる傾向があるそうな。
だから秘密にしておかなければならなかった、という事も解って来た。
その伯爵の貴族同士の繋がりがあって、ナナ少尉の実家も上手く世の中を渡って行かなければならなかったのだろう。
だから、ナナ少尉の行動も理解できる。
確かに、軍や国にクインクレインの事を説明していたのでは、何処から情報が洩れるかわかったもんじゃない。
ふーむ、ナナ少尉の行動理由は解った、ちゃんと理由があった事に、正直安堵した。
これで、サキ隊長やコジマ司令に報告できる。まあ、秘密にしなければならない事は、省くが。
あと、聞きたい事は、金鉱脈についてだな。
「伯爵様、もう一つお聞きしたいのですが。」
俺は静かに問いかける。
「何かね?」
サスライガー伯爵は、余裕を持って反応した。
「貴方が隠してきた金鉱脈の件ですが、どれ程の金を使ってきたのでしょう? また、何故今になってその存在が露見したのですか?」
この質問に、伯爵は特に気にも留めていない素振りをして、答えた。
「まず、私の名誉の為に誓って言うが、私は鉱脈から出た金を自分の懐に入れて着服した事は無い。金貨一枚たりともね。」
ふむ、じゃあ、金は全てシャイニングナイツとかへ渡っていったという事か。
中々莫大な量だぞ、それって。一体幾ら位の資金提供があったんだろうか?
考えるのも恐ろしい。世界規模で活躍するシャイニングナイツだからこそ、って奴だな。
「では、何故今になって金鉱脈の存在が?」
「うむ、その件については、私の不徳の致すところだったと言わざるを得ない。」
「と、仰いますと?」
「うむ、実はな、我が方に山賊に内通していた者が居たのだ。そこから情報が洩れ、山賊の頭目であるメルヘンに情報が渡って、私がその件で脅しを受けていたのだ。山賊如き、暗殺ギルドに渡りを付けて始末しようと思ったのだがな………。」
「失敗したのですね。」
「そうだ、そして、その後の展開は君も知る事になってしまい、金鉱脈の事が明るみに出てしまったのだ。」
ふーむ、そうだったのか、内通者ね。
「その内通者は、今は?」
「山賊の所へ泳がせたが、君達軍人と、そこの私の戦闘奴隷が、結果的に始末してくれた。と言ったところだ。」
なんと、あの時の場に居たのか。じゃあもう死んでいるだろうな。山賊は全滅させたし。
話が一段落したところで、サスライガー伯爵が紅茶を口に含み、一泊置いて尋ねてきた。
「ところで義勇軍よ、君は人々を救う事をどう思っているのかね? 私はそこが君に訊きたい。」
「人々を救う、でありますか。うーん、そうですね、きちんと考えた事が無かったので、上手く説明出来ませんが、力無き人の剣となり、盾となる事だと思っております。この答えでは駄目でしょうか?」
俺の答えに、サスライガー伯爵は体をわなわなと震わせ、目頭が熱くなっているのか、目から涙が頬を伝っていた。
(え!? 何? 何で泣く?)
「素晴らしい! 実に素晴らしい答えだ! その通り、人々の剣となり盾となる! そう言う答えを望んでいたのだよ。私は!」
「は、はあ。そうですか。」
「私はね、ジャズ君! 今でも勇者に成りたかったのだよ! いや、まだ諦めていないがね!」
「は、はあ。」
「そんな訳で! 私の様に正義の志のある者たちが集まり! 物資や資金が集まり! シャイニングナイツの様に活躍したいのだよ! 我等クインクレインのメンバーは!」
「は、はあ。」
「クインクレインのメンバーは、誰もが正義の心に溢れていて、熱血漢ばかりなのだよ! いいじゃないか! 一般人でも志のある者達が正義や平和の事を語っても!」
「は、はあ。」
「だが! だが悲しいかな! 私や他の者達は力や戦闘力が無い! 実に悔しい! だからなのだよ! こうしてクインクレインは世界中で活躍しているシャイニングナイツや、今は影が薄い義勇軍へ、資金や物資を提供しているのだよ! 解るね!!」
「は、はあ。」
何だ何だ? 急に熱く語り始めちゃったよこの人。
「実に! 実に熱い展開じゃないか! クインクレインが人々を守る者達を支えている。熱い!! そうは思わんかね? ジャズ君!」
「は、はあ。」
この人、もしかして中二病を患ってらっしゃるのかな? 何か中二っぽい事言い始めちゃったよ。この人。
ここで、ナナ少尉が伯爵をなだめた。
「落ち着いて下さいまし。伯爵様。」
「燃える! 燃えるじゃないか! なあみんな!」
マーテルさんや姐御は顔の眉根を下げつつ、笑顔のままだ。ナナ少尉は眉間に皺がよって、更に言葉を選んだ。
「落ち着けと言っているじゃありませんか! もう、一度火が付くといつもこうなんですから。困った人ですわね。」
び、びっくりした。サスライガー伯爵は心根の熱い人だったのか。どこか中二っぽいけど、まあ悪い人じゃなさそうだからいいけど。
「やはり! やはりジャズ君をこの会合へ招待したのは正解だった! 実に良い時間を使った!」
「は、はあ。」
「ジャズ君! 私はね、今でも勇者に憧れているのだよ! 解るね!」
「は、はあ。」
「いい加減にして下さいまし! 伯爵様! もっと貴族らしくなさって下さいまし!」
「何を言っておるナナ! ここに同志が居るのだぞ! これが燃えずにいられようか! 否! ここは漢の出る幕なのだよ! そうは思わんかね? ジャズ君!」
「は、はあ。あのう、少し落ち着かれてはいかがでしょうか。」
「何だ、連れないなあジャズ君は。こうして同志が集っておるというのに。」
(いや、勝手に同志にしてほしくないんですけど。)
俺が義勇軍になったのだって、コジマ司令に頼まれての事だったし。好き好んでなった訳じゃないんだよね。
勇者なんて、柄でもないし。俺はこのまま只の兵士とかで十分なんだよね。
勇者なんてやらされた日には、忙しくて忙殺されるに決まっている。俺はスローライフを目指して金を貯めているんだよね。
「お話は解りました。クインクレインが大切な存在である事も理解しました。」
「おお! 解ってくれるかね。流石ジャズ君だ。義勇軍は伊達ではないな。わっはっは。」
もういいやこの人、ほかっておこう。
俺はナナ少尉の方を向き、これからどうするのかを問う。
「ナナ少尉、基地に戻ってコジマ司令やサキ隊長への報告はどうされますか?」
「わたくしは、秘密にしなければならない事は話さず、上手く説明して、司令からの沙汰を待とうと思います。」
「そうですか、俺の方からも、サキ隊長にそれとなく説明して、お二人の仲を取り持とうと思っています。迷惑でしょうが、自分がそうしたいのであります。」
「………ありがとう、ジャズ曹長。そのお気持ちは嬉しく思います。」
ふうーやれやれ、これでサキ隊長に報告出来るな。ナナ少尉の顔も幾分か和らいでいるし、このまま基地へ戻っても良さそうだな。
しかし、まだ伯爵の身の振り方をどうすべきかを、考えなくてはな。
女王の前での証言は必須だろう。それでなくても誤解を生んでいる筈である。
王城の方で、なにかしらの事を話し合っている可能性もあるだろうし。
よーし、ここは一つ、ジャズー王子殿下に相談してみようかな?
「伯爵様、実は自分はジャズー王子殿下と知人なのですが、ジャズー王子にはこの事をそれとなくお伝えして、伯爵の王城での証言や風当たりをやんわりとしたモノにする為に、相談しようと考えますが、如何でしょうか?」
「なに!? するとやはり、君はジャズー王子殿下と繋がりがあるのかね? 是非君に頼みたい。宜しく頼む。」
「はい、最善を尽くします。」
俺の聞きたい事は聞いた。後はちびっ子が伯爵に恩を返したいという事と、ドニからの盗賊ギルドの情報をどう生かすかの話し合いだろう。
ここで伯爵は、ドニの方を向き、質問した。
「では次に、盗賊ギルドからの情報と報告を聞こうか。」
「はい、ではまず、
「ほう、そうか。奴らめ、この大陸から撤退したか。と、言う事は、次に奴らが活動するのはセコンド大陸かミニッツ大陸かのどちらかという事か。」
なんとまあ、そこまで調べがついているとは、流石盗賊ギルド。情報戦は後れを取らないようだ。
ドニが得意満々に顔を緩ませていると、気を引き締めた顔のナナ少尉が、ドニを睨んだ。
「流石の情報収集能力ですわね、盗賊ギルドのお陰で、こちらも助かっていますわ。」
「はい、ありがとうございます。」
「他に隠している事を除けば、ですけどね。」
うん? ドニの奴、何かもったいぶっているのか?
「おいドニ、何かあるのなら言えよ。金貰ってんだろう。」
俺が訊くと、ドニは困った様な顔をして、即答はしなかった。
「う、うーん。そうだな、まあ、あるっちゃあるが。」
「何だよ、言えよ。」
俺が催促すると、ドニはこう言った。
「うーん、この国の事じゃないんだがな、ゴップ王国で何やら不穏な空気が流れているらしい。ゴップ王は妾の女に夢中で、正常な判断が出来ない状態らしい。で、アリシアに戦を仕掛けようとしているって訳だ。」
………………へ?
………
「マジか?」
「マジだ。」
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