第172話 策略
「なんでロゼさんを次の参謀にしたの?僕にはロゼさんよりも指揮を執るのに向いている人がいるんじゃないかと思うんだけど……」
夕食後、委員長を呼び出して2人で話をする。
「クオン君はロゼさんの何がダメだと思って、そんなことを言ってるの?」
「精神力かな。あとは、自信。天性の才というのもあるとは思うけど、経験を積むことで誰でも成長はしていくと思う。将来的な話をすれば、ロゼさんが指揮官に適した人になるかもしれない。ただ、委員長は帰還方法が見つかった後、いつまでこの世界にいるつもりなの?年単位の長期スパンで育てるつもりならロゼさんでいいと思うけど、違うなら他のベテランの騎士の中から選んだ方がいいよ。仲間の命を預かる参謀という立場を、入ったばかりの見習いがやること自体がおかしいと思うんだよね。もちろん、ロゼさんが成長したいと思っているのを疑っているわけではないよ。本気でロゼさんは委員長の後を継ぐつもりだと思う」
「……クオン君の言っていることは私にもわかるわ。団長に帰還方法が見つかったら退団することを話した翌日に、ロゼさんを次の参謀にするよう教育してくれって頼まれたのよ。1番近くで見ていたから適任だろうって」
「アルマロスさんの指示だったんだね。委員長が自由に選ぶことが可能だったなら、ロゼさんを選んだ?」
「……選んでないと思う。選んだとしても、ロゼさんとは別にもう1人ベテランの人を付けたとは思うわ。クオン君の言う通り、入ったばかりの見習い騎士がやることではないから。そもそも、私自身だって適任だなんて思ってないわ。生きる為、みんなを探す為、帰る方法を探す為……色々と考えた結果、自分の中で折り合いをつけて引き受けただけだもの」
委員長はこう言ったけど、委員長は指揮官に向いていると思う。
狩谷君……実際には僕だけど、自分の集めた同級生を殺されても、悲しみに暮れるわけでもなく、狂気に取り憑かれるわけでもなく、こうして立ち直り、今出来ることに集中して前を向けているのだから。
「それはアルマロスさんに言ったの?」
「他の人をつけて欲しいとは言ったけど、今の役割を変えることが出来る人はいないって言われたわ。ロゼさんを次の参謀にすることは決定事項だって」
「アルマロスさんは委員長を手放す気がないんじゃないかな?少なくとも、当分の間は」
「……そうかもしれないわね。でも、団長の言うことは絶対よ。だから、私はロゼさんが失敗して後悔することがないように、私の持っている知識を全て詰め込んで、その知識を自身の手足のように扱えるようになってもらえるようにやり方を教えているの。ロゼさんの思考は凝り固まっていなくて、柔軟よ。戦況を見極める目もあるし、先を見て指示を出すことも出来るわ。能力としては申し分ないと思う」
「失敗しない人なんていないよ。例え失敗しなくても、ロゼさんは誰かを見捨てる判断が出来るかな?敗走する時、要人を守る時、状況は色々あると思うけど、少数を見捨てて、被害を最小にする判断をしないといけない時がいつか必ずくるよ。最適な指示を出したとしても、後悔して塞ぎ込んだりしないかな……」
「それは……わかってるわ。見ないフリをしてロゼさんにやり方だけを教えているのは私自身でわかってる」
「一度その経験をさせてみるのがいいと僕は思うよ。その上で今後も参謀としてやっていけるのか、ロゼさん自身に決めてもらうのがいいと思う。スカルタに着くまでにはまだ時間があるから、何か考えておくよ。ダメそうなら、僕がアルマロスさんに考え直すように言うことにする。そうじゃないと、いつまでも委員長が騎士団を辞めることが出来ないから」
「……わかったわ。クオン君は騎士団長を辞められるの?」
「いつでも辞めることが出来るよ。元々、レイハルトさんには、禁書庫に入りたいっていう自己都合だけで騎士団長になるって話しはしてあるし、レイハルトさんが団長になってもいいと思わせることも終わってる。今はレイハルトさんの意向もあって騎士団長を続けているけど、帰還方法が見つかる、見つからないは関係なく、後数ヶ月で騎士団を辞めるという話になってるよ。退団した後もレイハルトさんに禁書庫に入れてもらえるように頼んであるし、何も心配はないかな」
「そうなんだね。クオン君はやっぱりちゃんとしてるのね……」
「まあね。とりあえず、何か考えておくから、今日はもう寝ようか。おやすみ」
「近くの森の中の湖で水龍が暴れているそうです。この街の人が困っているので討伐しに行きます。ちょうどいいので、ロゼさんの指揮官としての能力を見させてもらいます。何が起きても僕は口を出さないので、全て自分で考えて指示を出して下さい。委員長がいると、本当のロゼさんの力量がわからなくなるかも知れません。なので委員長はこの街に待機です。僕達はこれからロゼさんの指揮下に入ります。ロゼさんの指示は僕の指示と同義としますので、必ず従って下さい」
スカルタまでの道中にある街で、ちょうどAランク指定魔物が出たという話を聞いたので、ロゼさんのことをちゃんと知る為にも利用することにする。
「はっ!」
「わ、わかりました」
ロゼさんが緊張した様子で返事をする。
「出発は明後日にします。必要なことがあれば、それまでに済ませておいてください。では、解散!」
「これから少し付き合ってもらっていいですか?」
ロゼさんには明後日の準備をしに行ってもらい、離れたところでエドガードさんに話をする。
「もちろんです。どちらに行かれますか?」
「水龍を倒しにです。移動ばかりでは体が鈍るでしょう?」
「明後日、討伐に行くのではなかったのですか?」
「明後日のことは向かいながら話をします。とりあえず倒しましょう」
「かしこまりました」
エドガードさんはとりあえず話を聞いてくれるので、いつも助かる。
エドガードさんと湖に行き、エドガードさんが準備運動でもしているかのようにサクッと倒す。
「思ったより手応えがなかったね」
あれなら1人でも問題なかったな。
「ミズチならあんなものです。水の中という人間には不利な環境に住んでいるからAランクなだけで、魔物自身の能力はBランクでしょう。水に住む魔物は同じ理由で大体指定ランクが高いです」
カリュブディスもそんなだったなと、昔のことを思い出す。
「とりあえず、やることは終わったので帰りましょう。野宿をさせてしまったお詫びに、お昼は美味しいものをご馳走します」
「役得です。ご馳走になります」
「楽しみにしていてください」
街に戻り、冒険者ギルドへと入る。
「ミズチの討伐が無事に終わりました。報酬は第1騎士団に入れておいて下さい」
個室にて、ギルマスに話をする。
「ありがとうございました。遠方から高ランク冒険者を呼ぶ手間が省けました」
「騎士として当然の行いをしたまでです。一つお願いがあるのですが聞いてもらえますか?」
「お伺いします」
「ミズチ討伐の件ですが、3日程公にするのは待ってください。新人の騎士の教育の為です。受けたい冒険者の方がいましたら、その人にだけ教えて断って下さい。お願いします」
「かしこまりました」
「では失礼します」
これで前準備は終わりだ。
さて、ロゼさんはどうするかな
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