第169話 自殺
桜井君には借りていたゲームを返しにきたということにしてもらい、僕が学校に行かなくなる前に借りてそのまま忘れていたという口裏を合わせてから帰る。
一応、その頃に発売されていたゲームでオススメのやつを桜井君には渡しておいた。
プレゼントするからやっていいよと。
今日は自宅で休み、翌日にヨツバとイロハと3人でいるはずのない2人を探す。
委員長にも話はしたけど、仕事が山のように溜まっているようだったので、一緒に探すと言っていたけど止めた。
「クオンがやったの?」
ヨツバにコソッと聞かれる。
「そうだよ。他に話があるから夜に寮の方に1人で来てくれる?そこで詳しく説明するよ」
「……わかった」
ヨツバとの約束を取りつける。
その後も探し続けたけど、2人が見つかるはずはなく、夜にヨツバが来るのを待っていたら、何故かイロハも一緒に来た。
「どうしたの?」
僕はイロハに聞く。
「ヨツバちゃんが隠れて部屋を出て行こうとしてたから、どこに行くのか問い詰めたらクオン君の所に行くって言ったんだよ。理由を話してくれないから、心配で私も来たの」
「僕がヨツバを呼んだから、ヨツバは呼ばれた理由は知らないよ。前にイロハに話したと思うけど、僕が隠し事をしていて、ヨツバに黙ってもらっているって。その話だから、イロハには内緒で1人で来て欲しいって頼んだんだよ」
「……そうなんだ。それって私は知ったらダメなの?」
「そうだね。元々誰にも話すつもりはなかったことだから、イロハに言うつもりはないよ。ヨツバには僕の不手際でバレてしまったから、たまにこうやって相談に乗ってもらってるだけ」
「そうなの?」
イロハがヨツバに聞く。
「うん」
「それなら私がここにいたらマズいね。先に戻ってるね」
「ごめんね。夜道は危ないから騎士を付けるよ。ヨツバは僕が送り届けるから」
僕は外にいた騎士を捕まえて護衛を頼み、イロハを宿に送らせる。
イロハの疑いはさらに増した事だろう。
「それじゃあ話をしようか。とりあえず桜井君と平松さんのことだよね?」
ヨツバと2人になったので、話を始める。
「うん。クオンも私達と一緒に魔法都市に行ってたよね?クオンから2人を殺すことは聞いてたけど、こっちに戻って来てからの話だと思ってたよ」
「隠してたけど、僕は行ったことのある街に一瞬で移動することが出来るんだよ。魔法都市で僕は別行動してたでしょ?あの時に王都に戻って桜井君と平松さんを殺したんだ」
「……そんなことも出来るの?」
「出来るよ。ファストトラベルっていうゲームのシステムだね」
「クオン以外の人が関係しているのかなって思って聞いたけど、やっぱりクオンが殺したんだね。それで、他の話って何?」
「次は神下さんを殺すことになるかもしれないって話。神下さんは僕が会おうと思っても会えないからいつになるかは分からないけど、もしかしたら近いうちに殺すことになるかもしれない。その時にヨツバに話をする時間は無いだろうから、先に話をしたんだ」
「……やっぱりえるちゃんも殺すんだね」
「実は魔法都市を出る前の日に神下さんに会ったんだよ。それで少し話をして、神下さんは殺す対象だってことがわかった。だから、次に会った時に殺すことになると思う」
実際に次に会った時に殺すかどうかは、神下さんの出方次第だ。
「そうだったんだね。……クオンにお願いがあるんだけど」
「何?」
「えるちゃんを殺すなら私も殺して欲しい」
「何言ってるの?」
突然のこと過ぎて意味がわからない。
「クオンが自分勝手な理由でみんなを殺したわけではないのは疑ってないけど、親友が殺されるのを了承してのうのうと自分だけ生きたくもないの。みんなが死ぬことを了承しておいて、親友だからえるちゃんは殺さないでとは言わない。クオンを信じることにしたから。でも、それなら私もえるちゃんと一緒に死ぬわ。それがえるちゃんに対する私の出来るせめてもの償いだから」
償いとヨツバは言うけど、神下さんに関しては殺して欲しいと頼まれているのだ。
償う必要はない。
それを知らないのだから、ヨツバの気持ちも分からなくはないけど、僕からすると困ったことでしかない。
前の神下さんと同じで、殺して欲しいと言われても僕には殺せないのだ。
「僕の中でヨツバは殺す対象になってないから、その頼みは断らせてもらうよ」
なので、断ることにする。
『神下さんを殺したことは教えるから、死にたいなら自殺でもすればいい』と言おうかと思ったけど、自殺ってあの神的にどうなんだろうかと思い言うのを止める。
自殺したところで罪には問われない。
問われないというよりも、罪を問う本人が既に死んでいるから問うことが出来ない。
ただ、少なくとも善行ではないだろう。
悪行としてカウントされて、ヨツバが元の世界に帰った時に後悔することになるのは避けたい。
それに、自殺に追い込んだというのは、殺したのと変わらないのではとも思う。
そうなると、僕としてもアウトかもしれない。
「みんなを殺したのに、私は殺さないって言うの?」
「そうだね。ヨツバが殺すべき対象になれば殺すけど、今は殺す対象になってない。だから殺さないよ。それでもどうしてもっていうなら僕を殺せばいい。殺すつもりがなくても、僕はまだ死ねないからね。もしかしたら、加減が出来ずに殺してしまうかもしれない」
「……わかったわ」
ヨツバは思い詰めた顔で返事をする。
「……言っておくけど、自殺はダメだよ」
「それをクオンが言うの?」
その通りではあるけど、ヨツバの為に言ってるので聞いて欲しい。
「その通りなんだけど、僕は命が軽いものだとは思ってないから、自ら命を捨てようとしている人がいたらやめるように言うくらいはするよ。見ず知らずの人ならその時になってみないと止めるかわからないけど、ずっと一緒に旅してた仲間が自殺しそうな顔をしてたら迷わず止めるよ。ヨツバの気持ちがわからないとは言わないけど、とりあえず今日は帰ってゆっくり頭を冷やして考えた方がいいよ」
「……そうするわ」
「宿屋まで送っていくよ」
ヨツバを宿屋に送ってから、自室に戻り反省する。
ヨツバは僕を信じて殺すのを止めないと言った。
でも、ずっと葛藤し苦しんでいたのだろう。
神下さんを待っている時間は無いかもしれない。
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