第160話 方針会議

アルマロスさんへの報告は委員長に任せて、僕は桜井君達に説明しに行く。


「少しの間、出ていてもらえますか?内密な話があります」


「はっ!」

僕は護衛の騎士に部屋の外に出てもらう。


「さっき狩谷君を見つけたよ。捕まえたところで、尋問されて処刑されるだけだから、無駄に苦しませるのも可哀想だし、異世界のことを話されるリスクを負うだけだからね。僕の方で息を引き取ってもらった。委員長がアルマロスさんに報告に行っているから、戻ってきたら話をしようか。とりあえず危機は去ったよ」


「そうか……」

桜井君が一言答えた後、沈黙が流れる。


「お待たせ」

気まずい空気のまま待っていると委員長が入ってきた。


「とりあえず狩谷君が死んだことは話したけど、それ以外はまだ話してないよ」


「うん、わかったわ」


「狩谷君に確認したけど、やっぱりバトルロワイヤルだって。生き残りを決める為に呼ばれたって言ってたよ」


「クオンもそう思うのか?」

桜井君が聞く。


「否定し切れないとは思うけど、仮に狩谷君の言う通りだとして、最後の1人になったら何が起きると思う?」


「……願いが叶うとか、元の世界に帰れるとかか?」


「そんなところかな。なんでも願いが叶うとして、死んだ人を生き返らせて元の世界に送ることも可能なら、狩谷君の行動にも納得かな。まあ、狩谷君を見た限りだと自分のことしか考えてなさそうだったけどね。だから、あるとしたら最後の1人だけ帰れるって方かな。僕ならそこまでして帰りたいとは思わないけどね」


「俺もそうだな。みんなを殺してまで帰りたいとは思わない」


「普通はそうだよね。殺さないと殺されるって状態なら仕方なく殺すかも知れないけど、今回はそうではないからね」


「……実際のところは分からずか」


「それは分からないけど、他の情報は手に入れたよ。狩谷君はクラスメイトの位置がわかるんだって。それで、今他のクラスメイトがどこにいるのか聞いたら、僕達と魔法都市に2人しかいないって。なぜかあの2人は領主の所にいるみたいだけどね」


「……他の奴らはどこに行ったんだよ」


「狩谷君を止めるのが遅かったみたいだね。ただ、神下さんの場所までは感知出来てないみたいだから、神下さんが誰かを保護していたり、狩谷君の感知を掻い潜っていれば、他にもいるかも知れないけど……」


「……考えにくいな。それにいたとしても探すのは困難だろう。委員長のメッセージを無視してるか、届かないようなところにいるわけだからな」


「同じ意見だよ。だから、これ以上探す必要はないのかなって思うんだよ。委員長には引き続きメッセージは出しておいて欲しいけど、多分無駄かなって。そうなった時に、これからどうしようかって」


「帰還方法を探すしかないだろ?」


「そうなんだけど、ここにいる人で今すぐに帰りたい人は手を挙げたもらえる?」

手を挙げたのは予想通り桜井君と平松さんだけだ。


「桜井君はハロルドさんに挨拶を出来ればしたいってくらいだよね?」


「……そうだけど、それよりもお前らは帰りたくないのか?」


「クオン君、言わないってことは聞かない方がいいのかと思って黙ってたけど……帰還方法のこと」

委員長が言う。


「僕がこの世界から出る方法を知っているって話?」「知ってるのか!?」

桜井君が食い気味に聞いてくる。


「桜井君は知ってる話だよ。僕は元の世界と行き来出来るんだ。だから自分が帰る方法は知ってるけど、他の人が帰る方法は知らなかったよ」


「その話か……」


「……後で詳しく教えてもらっていいかな?それよりも、知らなかったということは、今は知ってるの?それから、前は言えないって言ってたよね?」


「前言わなかったのは、委員長には悪いけど信用出来なかったからだよ。神下さんが原因だと言ってはいたけど、僕に会わないようにしてたよね?あの状況で手放しに信じることは難しかったからね。それから、1人だけなら帰る方法を知ってるよ」


「……そんな方法を取る気はないわよ。おかしなこと言うのはやめて」

委員長が答える。


「え、何言ってるの?」

イロハが聞く。


「さっき狩谷君から、クラスメイトを殺すとスキルを交換出来るって聞いたんだよ。狩谷君はスキルを交換出来るのが、生き残りを決める為に呼ばれた証拠みたいなことを言ってたね。だから、僕を殺せば元の世界に帰れると思うよ。僕は1人しかいないから、帰れるのも1人だけね」


「それは冗談が過ぎるよ」


「別に冗談ではないよ。狩谷君みたいに誰かを殺してでも帰りたいなら、そういった方法もあるのは事実だよ。僕は殺されても恨みはしないよ。易々と殺されはしないけどね」


「ここにそんな奴はいないから、無意味なことは言うな。それよりも、なんでお前らは帰りたくないんだよ」


「帰りたくない訳じゃないわよ。団長にはお世話になり過ぎたわ。無責任に自分の仕事を放り出して帰るわけにはいかないだけよ。その時を逃したら帰れなくなるなら話は別だけど、帰還方法がわかってもタイミングを選べるならすぐには帰らないわ」


「委員長の仕事って騎士団の参謀だよね?終わりが来るの?」


「ロゼという人にやり方を教えているところなの。私が隣にいなくても連携を取れるようになって来ているし、いつか終わりはくるわ」


「立花さんと中貝さんは?」


「私は帰る時はえるちゃんも一緒がいいから……」

イロハの理由は前にも聞いた。


「私は……私も一緒よ。えるちゃんを探したいわ」

ヨツバは迷っているようだ。


「そういえば、神下さんは帰る方法を知ってるって言ってたわね。神下さんはクラスの誰かを探しているって言ってたけど……」

委員長は言いながら何かを考え込む。


「どうかした?」


「……なんでもないわ。どうにかして、神下さんに会って、その探している人に会わせれば私達も帰してくれるそうよ。私はあれだけど、中貝さんと立花さんは神下さんと一緒に帰りたいわけでしょ?」


「うん」

イロハが返事をする。


「とりあえず、神下さんに会う方法を探すのが先決かしら」


「それがいいんじゃないかな。僕は魔法都市に行ってこようと思ってるから、委員長はそっちをお願いしていい?」


「宮橋君と犬飼君に会いに行くの?」


「うん。衛兵に引き渡したのに、何故か領主の所にいるみたいだからね。面倒事になってる気がするから行ってくるよ」


「桜井君達も行くの?」


「1人で行こうかと思ってるよ。狩谷君から狙われることも無くなったからね」


「団長に聞いてからになるけど、私も行っていいかな?」


「別にいいけど……桜井君達も行きたい?」

正直、ファストトラベルが使えなくなるから1人の方がいいんだけどなぁ。


「私も行くわ」

「行こうかな。魔法学院の先生にも久々に会いたいし」

ヨツバとイロハは行くらしい。


「俺は平松さんと王都で待ってるよ。いつまでも騎士団に世話になってるわけにもいかないから、宿を借りることにする。狩谷がいないといっても、移動は危険が多いからな」

桜井君は行かないようだ。


「わかったよ。出発日は僕もレイハルトさんと話をしないといけないから、また後日決めるってことで」


「私も団長に予定を聞いておくわ」


1人の方が楽だけど、移動の最中に委員長と話さないといけなくなるだろうし、タイミングとしてはよかったかもしれないな。

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