第136話 遺跡へ

アリアドネの人達と偶然再会した翌日、ヨツバの依頼は問題なく間に合いそうなので、ニーナと3人で遊ぶことにする。


「ニーナはエアリアさん達が遺跡に行ってる間何してるの?」


「1人で依頼を受けてもいいし、休んでてもいいし、好きにしててって言われてるよ。だから、適当に依頼を受けながら戻ってくるのを待ってようかなって」


「それじゃあ、私と一緒に依頼を受けない?もう1人パーティを組んでいる人がいるんだけど、ニーナも一緒に3人で。クオンみたいに特殊ではないけど、魔法主体で戦うから、あの頃と同じ立ち回りで依頼をこなせると思うんだけど、どうかな?」

スキルの覚え方とかは特殊だけど、戦い方はそんなに特殊じゃないと思うんだけどなぁ。


「私は助かるけどいいの?その魔法を使う人って昨日クオンくんと一緒にいた人だよね?聞かずに勝手に決めちゃって」


「大丈夫だよ。前にニーナに色々と助けてもらったって話をしたから、ニーナのことも知ってるし嫌とは言わないはずだよ」


「それならご一緒しようかな。1人で依頼を受けるのは大変だしつまらないからね」


「なら決まりだね」


「ヨツバ達のことよろしくね」


スカルタの街を観光した後、宿屋の前で解散して、桜井くんの泊まっている部屋に行く。


ヨツバが桜井君に、依頼をニーナと一緒に受けることにしたことを説明する。

やっぱり桜井君は了承した。


「これ、必要だったら遠慮なく使って。それからこれも」

僕は桜井君にMPポーションを20個と杖を渡す。


「悪いな。魔力が無くならないように管理はしているけど、どうしても必要な時は使わせてもらう。それで、この杖はなんだ?」


「回復魔法が使えるようになる杖だよ。リカバリーワンドね。多分桜井君でも使えると思うんだけど、使ってみてもらっていい?治したい相手が範囲内にいる時に魔力を込めれば発動するはずだけど……痛っ」

僕は説明してから、自分の手を剣で軽く切る。


「おい、何やってるんだよ」


「気にせずに試してもらっていい?ダメなら自分で治すから」


「あ、ああ」

桜井君がリカバリーワンドに魔力を込めると杖が軽く青白く光り、僕の怪我が治った。


「問題なさそうだね。次はヨツバね……痛っ」

次はヨツバに試してもらう。


「あれ……治らない。魔力を込めれてないのかな。どうしよう……」

切り傷は治らず、杖は光りもしていない。


「ヒール。これに魔力を込めてもらっていい?」

僕は自分で怪我を治して、ヨツバに光の魔石を渡す。


「う、うん」

ヨツバが光の魔石に魔力を込めると魔石は眩しく光出した。


「やっぱりヨツバに杖は使えないんだね。ゲームだと戦士は杖を装備出来なかったからね」

魔力を込めれてないというわけではないということは、杖のスキルをヨツバが使えないということだ。


宿屋で魔導具を使ってるのを見たことはあるし、魔力は込められるとは思ってはいた。


装備制限までちゃんとあるらしい。


ソウルイーターというブラッドワンドと似た性能の剣も作れるけど、あれは見た目がちょっとアレだからね。

ゲームだからいいけど、現実で女の子が持ってたらドン引きだ。


「その杖だけど、回復効果はあんまり高くないから、必要な時は何回も掛けて。僕のヒールの1/10くらいしか効果はないからね。一度使ったら30秒くらいは発動しないから気を付けて。回復量に対して消費する魔力は多いから、使いすぎると自身の魔力が無くなっちゃうから、それも気をつけてね」


「こんなものもらっていいのか?」


「自分の杖を作る前に練習で作ったやつだから気にしないでもらっていいよ。僕は自分で回復魔法を掛けれるからね。何があるかわからないからカバンにでも挿しておいて」


「ありがとな」


「それから、多分その杖の回復効果も僕のヒールと同じで欠損とかも治りそうだから、人前で使う時は気を付けてね」

桜井君が使っても同じシステムであれば、同じように手が生えてきそうだ。


「……ああ、わかった」


「それじゃあ、僕は当分戻ってこないから、何かあったらギルドに伝言を残すってことでよろしくね」


「ああ、死ぬなよ」


「え、ああ、うん」

桜井君から心配する言葉が来るとは思ってなかったので、驚いた。


その後、両親に一月くらい戻ってこれないかもしれないと伝え、ファストトラベルで目的の物を集めに行った後就寝し、翌日遺跡に向かって出発する。


「付き合わせてごめんね。遺跡までは馬車で5日くらい掛かるけど、ゆっくりしていてくれていいから」


「気持ちだけ受け取っておきます。邪魔であれば遠慮なく言って欲しいですけど、そうでないなら特別扱いは必要ないです」


「それなら遠慮なく手伝ってもらうことにしようか」


「出来ることならなんでもやりますので、言ってください。馬車の操舵は出来ないので、先に言っておきます」


「わかった。ただ、冒険者を続けるなら馬車くらいは扱えるようにならないと困ることになるから、早めに扱えるようにした方がいいわよ。危険な魔物がいるところに馬車なんて出してくれないからね。今回は馬じゃないけど、扱いは大体同じだから」

エアリアさんの言う通りだ。


「そうですね。それからこれどうぞ」


「……姉さんが買った相手は君だったか。本当にもらっていいのか?姉さんには借金までさせたのに……」


「欲しいと言っていたので。それにサラボナさんがアリアドネの人達の知り合いとは知りませんでしたからね。金貨1000枚というのはリスクを負うことへの対価みたいなものです。僕にとってはそれはそれほどの価値はありません」


「もしかして、簡単に手に入るものなのか?」


「僕には簡単です。他の人には難しいですね。だからサラボナさんを騙したわけではないですよ。長い目で見れば金貨1000枚以上の価値はあるはずです」


「……姉さんも勝算があって金額を決めているはずだからそれはいいが、それだとしてももらっていいのか?」


「構いませんよ。エアリアさん達が僕の情報を流すとは思えないので。さっきも言いましたけど、サラボナさんにはリスクを負うから、リスクを負ってもいいかと思える額を貰えるように交渉しただけです。あの街のギルドマスターがどんな人物なのかも知りませんでしたし。それにエアリアさんに水の魔石を渡すことには別のメリットがありますので」


「……メリット?」


「スカルタに戻るまでの間、冷たい水を隠れて飲まなくてもよくなりますからね。みんなが生ぬるくなった水を節約しながら飲んでいる時に、自分だけ冷たい水をゴクゴク飲めるほど、僕の神経は太くないです」


「はっはっは。エアリアが前に言っていた理由がわかったよ。確かに冒険者らしくない」

メルさんが大笑いしながら言った。

僕のいないところでエアリアさんは僕のことをなんて言ったのだろうか。


「いやー、ごめんね。悪気はないんだ。どうしても冒険者はがっついている奴が多いからね。私は君みたいなのは嫌いじゃないよ。他の奴なら稼いでいけるのか心配になるけど、君は貰うところはちゃっかりしているみたいだしね」


「僕は楽しくがモットーなので、その為の妥協をしないだけですよ。お金が無ければ出来ないことがある。気を使いたくない。妥協は必要だと思ってますけど、1番いいバランスを探しているんです」


「なるほどな。幸せな考えをしている。普通なら生活が出来なくなったりして破綻しそうだけど、そうならないのが不思議だね。君は夢を見ているけど、ちゃんと現実も見えているようだ」

褒められたのか、それともバカにされたのか。

よくわからないことを言われた。


「夢を追うにしても、ちゃんと計画を立てないといけませんからね。夢が叶う、叶わないは別としても、無計画に動いていたら叶うものも叶いませんよ」


「エアリア、あなたのことよ」

フレアさんが唐突に言った。

僕は別にエアリアさんのことは何も言ってませんよ。


「何のこと?」


「結婚したいっていつも言ってるけど何も行動に移してないでしょ?夢ばっかり見てないで、ちゃんと相手を探せって言ってるのよ」

フレアさんが爆弾を投下する。


「僕はそんなこと言ってませんよ」


「……フレア達だって相手はいないじゃない」

エアリアさんが反撃する。


「いつも言ってるでしょ?私は今が楽しいから相手を探してないの。3人がどう考えてるかは知らないけど、エアリアは私と同じでしょ?サラボナさんが結婚してパーティを抜けることになってから、口では結婚したいって言っても、相手を探さなくなった。あんたはモテるんだから、本気で探せばすぐ相手は見つかるわよ。何か理由をつけて断ってるだけ。貴族からも話が来てることくらい知ってるのよ」

エアリアさんの新事実を聞いてしまった。

でも、この場でそんな話をしないで欲しい。


「なんで知ってるのよ」


「私にもたまに話が来るからよ。私に話が来るのに、エアリアには話が全くないなんて考えられないわ。私は自分の意思で冒険者を引退するまでは結婚しない。だからそれまで待てる相手以外とは婚約しないって決めてるの。エアリアは?私はエアリアに幸せになってもらいたいのよ。冒険者を辞めてでも結婚したいなら、私達に気を使う必要はないわよ」


「今冒険者を辞めるつもりはないわよ。今が楽しいもの。でも結婚もしたいわ。姉さんを見てると羨ましいって思うのよ」


「さっき彼が計画が大事って言ったでしょ?エアリアも決めるべきよ。別にどちらかを諦める必要は無いと思うのよ。結婚したら子供も欲しいでしょ?そしたら後何年冒険者を続ける事が出来るのか?それが決まればそれまでの時間を有意義に使えるわ。一日一日を大事に使いましょう」


「……そうね。フレアの言う通りだわ」


あまり踏み込んではいけない話を聞きつつ馬車は進んでいく。

助けを出してくれそうなクリスさんが御者をやってて、この場にいないのが悔やまれる。

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