第135話 お誘い

エアリアさんとサラボナさんが僕が断った依頼の話をし始めた。


「姉さんには悪いけど、魔物の数も多いし、Bランクの魔物まで確認されているのでしょう?もしかしたらAランクの魔物までいるかもしれないし、トラップもあるかもしれない。トラップだけならなんとかなるけど、戦いながらだと解除も厳しいわ。治癒士がいても危険なのに、治癒士無しとか自殺行為よ。ポーションを持てる数にも限界はあるし、ポーションだと回復が追いつかないわ。治癒士がいないなら、せめて20人くらいはCランク以上の冒険者を集めて」


「ずっと依頼は出してあるんだけどね、自殺志願者は現れないのよ」

サラボナさんがとんでも発言をした。


「私達も死にたくはないわよ」


「もちろん犠牲が出そうなら行かせはしないけど、不明瞭の所もあるから、他の依頼に比べると危険なのよ。でも、エアリア達は王国でも数少ないAランクパーティじゃない。達成出来なくても逃げるくらいは出来るでしょう?」


「なら姉さんが参加すればいいんじゃない?姉さんが参加するなら私も安心して受けれるわ」


「私は今忙しいのよ。少しの間なら問題ないけど、遺跡まで行って帰ってくるとなると20日くらいは掛かるでしょう?流石に無理よ。それに私がやったら遺跡ごと無くなるわよ」


「そ、そうね……。でも何がそんなに忙しいの?」

あれ?遺跡ごとっていうのは比喩とかじゃないの?


「それは……水を大量に手に入れる事が出来てね。それを売る為の準備とかあるのよ。大分本部から借金しちゃったからね」

サラボナさんは水の魔石の支出の回収が忙しいようだ。


「借金って大丈夫なの?いくら借りたの?」


「……金貨1000枚よ」

サラボナさんが言いにくそうに言う。


「き、金貨1000枚!姉さん、騙されてるわよ」

ぼったくりはしたけど、騙してはいない。

僕にとっての価値とサラボナさんにとっての価値に差が大きくあっただけだ。


「騙されてないわよ。これを買ったのよ」

サラボナさんが机の上に水の魔石を置く。


「あっ、」

ニーナが声を出す。

そういえばニーナは見た事があったかもしれないな。

売ってもいいか確認の為に色々とニーナに聞いていたから。


「ニーナ、どうかしたの?」

エアリアさんが聞く。


「な、なんでもないよ」


「そう。それでその石ころが何なのよ。綺麗ではあるけど、宝石だとしても高すぎるわ。それを金貨1000枚で買ったなら、私が売った人を見つけて姉さんを騙したことを後悔させてやるわ」


「気持ちは嬉しいけど大丈夫よ。これは水の魔石といって、魔力を込めると飲める水が出てくる魔道具なの。これ1つじゃなくて17個を金貨1000枚で買ったのよ」

ニーナがこちらを見てくる。


「……美味しいわね。たくさんあるならこれ1つ私に譲ってくれない?便利だわ」

エアリアさんが水の魔石から水を出して飲んだ後に言った。


「……金貨250枚」


「え?」


「私が1つ目を買う時に払うと言った額よ。この街ならそれでも回収出来る価値があるけど、エアリアにはその価値はないでしょう?たくさんと言っても、この街からしたら足りないくらいなのよ」


「そ、そうね。悪かったわ。それなら売った人を教えてくれない?自分で交渉するわ」


「誰から買ったのか言わない約束で買ってるのよ」


「そう、それは残念ね」


「話が逸れちゃったけど、そういうわけだから、あまり私が長期間離れることは出来ないのよ。数日なら指示を出しておけばいいけど、長期間だと何かあった時にずっと準備が止まっちゃうから」


「仕方ないわね。私達は後数日は滞在してるから、治癒士が見つかったら教えて」


「ああ。……そういえば君も治癒魔法が使えたな。私に模擬戦の後に掛けただろう?」


「そうですね。受付の女性に遺跡に言って欲しいと頼まれて断ったのも僕です」

聞かれてしまったので正直に答える。


「なんで断ったんだ?君の力なら自衛くらい出来るだろう?」


「僕の治癒魔法は特殊なんです。知らない人には見せられません」


「エアリア達とは知り合いなんだろう?それでもダメなのか?」


「アリアドネの方以外も参加しますよね?依頼書には合同依頼だと書いてありましたよ」


「さっきも言ったけど、自殺志願者はいない。報酬とアリアドネの名前に釣られて依頼書を持ってくるやつはいるが、内容を詳しく説明すると皆逃げていく。情けない限りだな」


「……少し時間を下さい。確かにアリアドネの方達になら見られてもいいですけど、20日掛かると言うのは聞いていなかったので、仲間と相談します」

既にクリスさんの手を治しているので、確かに今更アリアドネの人に隠す必要はない。

エアリアさんとニーナには異世界人だということすらバレているのだから。


依頼の詳細を聞かされ、じっくり考えてと言われる。


「クオンくんだよね?あの石を売ったの」

飲み会を終えた後、ニーナに水の魔石のことを聞かれる。


「そうだよ。さっきは黙っててくれてありがとうね」


「あの石って川で遊んでた時に手に入れたやつだよね?」


「……ああ、あの時にも手に入れてたね」

休憩がてら川で涼んでいた時に魚型の魔物を倒して手に入れたことがあったなと思い出す。


「あれをあんな金額で売ったの?」


「元々は売るつもりじゃなかったんだけどね。色々あって売らないといけなくなったから、稼げる時に稼いでおこうとしただけだよ」


「そっか。クオンくんらしいね」


「それって褒めてるの?」


「褒めてはないよ」


「だよね。あの頃とは大分違うと思うけど、一緒に依頼を受けることになると思うからよろしくね」


「あ、私は行かないよ」


「そうなの?」


「少し前にCランクになったばかりだからね。みんなのおかげで大分レベルも上がったし、戦いにも慣れたけど、今回は足手纏いになっちゃうからお留守番だよ」


「そうなんだ。それは残念だね」


「ただでさえ危ない依頼だからね。私が足を引っ張ってみんなが危険な目に遭うのは嫌だし仕方ないかな」


「……あれ、それならDランクの僕は参加してもいいのかな?」

おかしいな。Cランクのニーナが留守番でDランクの僕が参加するのか?


「治癒魔法を期待されてるからでしょ?クオンくんの治癒魔法ってあれだよね?前にクリスさんの手を治したやつ。あんなのSランク冒険者にも出来ないよ」


「そうかもしれないけど、話を聞く限りだと過度の期待をし過ぎな気がするよ。僕に自殺願望はないからね」


「犠牲が出る前にエアリアさんが撤退の判断をすると思うから大丈夫なはずだよ」


「ニーナは大分エアリアさんのことを信頼しているみたいだね。大分パーティに馴染んでいるみたいだし安心したよ」


「まだ全然だけどね」


「ニーナの歳でCランクってほとんどいないみたいだし、エアリアさん達が凄すぎるだけだよ」


「そうだね。本当にすごいよ。クオンくん、多分依頼は受けることになるでしょ?なんだかんだで断らないからね」


「今回はリスクがなくなったから受けてもいいかなって思っただけだよ」


「……そういうことにしておくね。一緒に依頼を受けたら、多分クオンくんにもアリアドネのみんなのすごさがわかるよ。頑張ってきてね」


「うん、頑張るよ」

なんだか腑に落ちないまま答える。


宿屋で桜井君とイロハに確認して遺跡にいる魔物の掃討依頼を受けることにした。


3人には帰ってくるまで待っていてもらうことにする。


ちなみに桜井君は僕の言った意味を正しく理解してくれたようで、今日はサンドワーム1匹討伐したようだ。

餌を仕掛けてあると言っていたので、早ければ明日達成すると思う。


ヨツバも順調だし、2人ともDランクになれるだろう。

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