第72話 魔法学院

「なかなかに面白い体験をさせてもらった。まさか攻撃を当てられるとは思っていなかった」

アリオスさんは満足気だ。


「満足してもらえたようで、良かったです」


「冒険者を辞めて衛兵になるつもりはないか?」

アリオスさんから衛兵にならないかとスカウトされる。

ゲームであればクエスト発生なので、受けるところだけど、当然断る。


「すみません。1つの街に滞在するつもりはないので、衛兵になることは出来ません」


「そうか。それは残念だ。君は今何の魔法が使えるんだ?」


「火魔法と水魔法です。他にも使えますが、それは秘密にさせて下さい」

回復魔法と幻影の魔法スキルについては秘密だ。

領主の娘をスキルで治したとは言ったけど、回復魔法だとは言っていない。


「もっと魔法の技術を伸ばしたいとは思わないか?旧友の自称賢者は魔法の深淵を覗きたいとよく口にしていたが……」

アリオスさんの騎士時代の旧友という事であれば、その人もバケモノのような強さの人かもしれない。

ただ賢者を自称するということは厨二の気がある人でもあるかもしれない。


「伸ばせるなら伸ばしたいですね」


「それなら魔法学院に通うつもりはないか?推薦状を書くから特待生として編入することが出来るはずだ。魔法に関しての情報が集まっているから、新しい魔法が使えるようになる可能性もあるぞ」

条件を満たすことで、特殊なスキルを取得できるようになるかもしれない。悪くない申し出だとは思う。


「悪い話ではないと思います。でも、1つの所に長い間留まるつもりはないので、遠慮しておきます」

悪くない話ではあるけど、学院に入るという事は数年単位で通うことになるだろう。


「そうか、長い目で見れば学院に通うのが良いと思ったが、君の人生だからこれ以上口出しはしないことにしようか」


「色々と考えてくれていただいたことには感謝しています」


「推薦状は書いておくから、気が変わったら使ってくれ。それから、入学しなくても推薦状を見せれば学院の中に入らせてもらえるから、近くに行くことがあればどんな所か見せてもらうといいだろう」


「ありがとうございます。聞きたかったのはこれだけですか?」


「ああ、手合わせしたかったのと衛兵に勧誘したかっただけだ。それからあの件はまた後日に頼む。推薦状を書いてくるから少し待っててくれ」


あの件というのは、ここでは出来ないことをアリオスさんに頼まれているのでその事だろう。


少し待っていると、アリオスさんが戻ってきて推薦状をくれた。

入学することはないと思うけど、制限エリアに入るための鍵を手に入れたと思うとなんだか嬉しい。


僕達は詰所を出る。


「アリオスさん、スゴかったね」

イロハが言う。


「そんな人が後ろ盾になってくれたのは大きいね。スゴい人すぎて簡単には使えないけど……」


「そんな人に一撃当てるなんてクオンもスゴかったよ」

ヨツバに言われる。


「大分手加減してもらってたからね。それに一撃当てたって言っても騙し打ちみたいなものだからそこまでスゴくはないよ。アリオスさんも避ければいいところを、わざわざ受けてくれたわけだからね」


「そっか。魔法学院を勧められてたけど行かないの?」


「魔法学院に同級生がいるとは考えにくいからね。興味はあるから、近くに行くことがあれば寄ってみるくらいでいいんじゃないかな」


「異世界に来て学校に通ってるなんて考えにくいもんね」


「可能性が0ではないけど、今回みたいな推薦状がないと、入学するお金が無いんじゃないかな?」


「普通は持ってないよね」


「お金といえば、2日後に領主の所で何かお礼をくれるみたいだけど、欲しいものを聞かれるかもしれないからその時になんて答えるか考えておいてね」


「なんて答えればいいのかな?」


「特にほしいものがないなら、相手に任せればいいと思うよ。多分お金をくれると思うから」


「ならそうする」


「私も」


「2人とも欲がないね」


「そういうクオンは聞かれたら何を頼むの?」


「お金だよ。アリオスさんのことがなければ、何か困った時に助けてくれるようにパイプを作りたかったけど、話を聞く限りだと、領主よりもアリオスさんの方が実際の立場は上みたいだからね」


「結局クオンもお金なんじゃない」


「お金が解決してくれることも多々あると思うからね。まあ、領主が何か用意してくれてるかもしれないから、考えたところで欲しいものはくれないかもしれないけどね」


「それなら、その方が変に緊張しなくていいから助かるね」


「そうだね。冒険者ギルドにお礼だけ届けてくれればいいのにと思うよ」

わざわざ会う必要はないのに……とは思う。

会ってお礼をしたいというのと、領主としての立場があるのは分かるけど。


そして2日後、僕達は領主の屋敷へとやってきた。


執事らしき人に客間に通される。


「緊張するね」

ヨツバに言われる


「そうだね」

僕も緊張している。

お礼をすると言われてはいるけど、何か粗相をした時にどうなるかはわからない。

アリオスさんはここの領主は悪い人でないと言っていたので大丈夫だとは思うけど……


客間で待っていると、準備が出来たとの事で応接間に通された。


「よく来てくれた。座ってくれ」

領主は若そうな見た目をしていた。

娘がまだ小さいので、このくらいの年齢で違和感はない。


僕達は言われた通りに領主と対面して座る。


「話はアリオス殿から聞いている。娘を見つけてくれただけでなく、貴重な秘薬まで使って頂き感謝しかない。それから、内容は話せないが地下室の件もお礼をさせて欲しい」

アリオスさん達が慌ただしくしていた地下室のことは、なんだかヤバそうな書類とかがあったのだろうと思っている。

面倒事のようなので関わらないに越した事はない。


「無事でよかったです」


「お礼をしたいのだが、何か欲しいものはあるか?私の出来る限りでお礼をしたいと思っている」


「現在、所望しているものはありませんので、領主様にお任せします」


「そちらの女性方は何かありませんか?」


「「お任せします」」

ヨツバとイロハは決めていた答えをする。


「そうですか。それでは準備させるので、帰りに執事から受け取ってください」


「ありがとうございます」


その後、領主と雑談のような話をしてから応接間を出る。


屋敷を出る時に執事からお礼の入った袋をもらう。


お礼を言ってから屋敷を出て、少し離れてから袋の中身を確認する。


金貨が10枚も入っていた。

10万G分だから日本円で1000万くらいか。


「こんなにもらっていいのかな?」

ヨツバが心配そうに言うけど、僕にもわからない。


「返すわけにもいかないから、もらうしかないと思うよ。僕も貰いすぎな気はするけど、欠損も治る秘薬を買おうと思ったらその価値は計り知れないから、そう思えば多くはないのかもしれない」

僕はそう言いながらも、急に手に入った大金に動揺している。


「そんな大金を持ち歩きたくないから、クオンが持っててもらっていい?」

2人に分けようとしたら、断られた。


「持っているのはいいけど、僕が死んだりしたら取り出せなくなるかも知れないよ。それでも大丈夫?」

僕が死んだ時にストレージの中身とかお金がどうなるのかはわからない。


「大丈夫よ」


「それならとりあえず銀貨5枚ずつだけ渡しておくから、必要な時はその都度言って」


「わかったわ」

僕は2人に銀貨を5枚ずつ渡す


「当分の間は依頼を受けなくても問題ないくらいのお金が手に入っちゃったけど、これからどうする?」

お金を貯める為に冒険者をしていたので、お金があるのであれば依頼を受ける必要はない。


「どうしよっか?お金を稼いでないといつかは無くなっちゃうよね」


「それならとりあえず明日から5日は休みにしようか。お金もあるし、僕はこの街を観光しながら買い物でもしてるよ。その間にこれからどうしたいか考えることにしよう」


「うん」


急に時間に余裕が出来ると何をしたらいいのかわからないな。

どこか避暑地とか観光地に行くのもアリかもしれない

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