第50話 ジョブチェンジ

「クオンさん、久しぶりですね」


目の前に急に現れて話しかけてきたのはクロノスさんだ。


「お久しぶりです、クロノスさん。相変わらずの紙装甲ですね」


「当たらなければ、防具なんてなくてもいいとは思わないか?カッコいいだろ?」


「カッコいいというか、完全にネタ装備ですよね?元ネタがわかりませんけど……。それにクロノスさん、そのせいで何度もデスペナくらってますよね?」


「それを言われると何も言えないね。それでも変えるつもりはないよ。それで、クオンさんはずっとINしてませんでしたけど、どうしたんですか?」


「楽しみ方は人それぞれですからね。ずっとINしていなかったのはリアルが忙しくなったからです」


「遂に警備員の仕事を辞めたんですね。おめでとうございます。これから素材集めに行くんですけど、クオンさんも行きませんか?」


「お誘いはうれしいですけど、今日は他にやることがあるので。また誘ってください」

クロノスさんは手を振りながら火山エリアへと向かっていった。


僕は今、オンラインゲームの世界に来ていた。

目的はジョブチェンジする方法を見つける為だ。


ダンジョンでレベルを転職可能レベルの20まで上げたけど、ジョブチェンジすることが出来なかった。

教会で神父さんに転職したいと試しに言ってみたら、「悩み相談ですか?」と言われた。


なんとなくわかっていたことだ。


でもジョブチェンジを諦めたくはないので、何か向こうの世界でもゲームのようにジョブチェンジする方法がないか調べるために、久しぶりにゲームの世界にINしている。


とりあえず、教会に行ってみるか


僕は教会に向かい、神父に話しかける。


ジョブチェンジは教会の神父に話しかけると選択肢が表示され、選んだジョブに変更することが出来る。


僕はジョブを変更してみる。


体が光るエフェクトが発生した後、職業が変更された。


神父はずっと目の前で棒立ちになっていた。

ゲームのNPCだから仕方ないけど、参考になることはほとんどなかったな。


僕はジョブを戻した後、勝手に教会の中を調べる。

完全に不審者である。

まあ、ゲームの中なので誰に咎められるわけでもないけど……


教会を調べると怪しい本があった。

本のタイトルは『ジョブの全て』と書いてある。


中を開いて読もうとしたけど開かない。

ゲームだから仕方ない。雰囲気作りのために置かれているだけで、本の中身は制作が作っていないのだろう。


「クオンさん、何してるんですか?」

急に呼ばれたので振り向くと、あんころさんがいた。


「あんころさん、お久しぶりです」


「久しぶりにログインしてるから、クエストの誘いに来たんだけど……教会を漁ってるから声を掛けるか迷ったわ」


「ちょっと調べごとがあったんです」


「後ろ姿をみた限りだと、完全に不審者だったわよ?」


「神父さんに言ったところで、代わりに調べてはくれませんからね。それは仕方ないので、見なかったことにして下さい」


「何を調べてたの?」

あんころさんに聞かれるけど、異世界のことは話せないのでなんて答えようか迷う。


「神父さんに話さずにジョブチェンジする方法はないか調べてたんです」


「なんでそんな事調べてるの?」


「それは秘密です。あんころさんは何か神父さんを介さずにジョブチェンジする方法は知りませんか?」


「そんなこと考えたことなかったからね。あ、そういえば……」


「何か思い当たるところがあるんですか?」


「そうね。神父に話しかける以外でって話でしょ?」


「そうです」


「クオンさんはこの後、時間はある?」


「今日は空いてます」


「教える代わりにクエストを手伝ってくれない?元々クエストの誘いに来たって言ったでしょ?」


「今日中に終わるクエストなら大丈夫ですよ。何のクエストですか?」


「渓谷エリアのドラゴン討伐よ。討伐が目的じゃなくて、ドロップ品を納めるクエストだから何周するかわからないわ。今日中に終わらなくても、ちゃんと情報は教えるから安心して」


「あんころさんのレベルで渓谷っていうと、スカイドラゴンですか?」


「ええ、そうよ。ソロでも勝てるけど面倒なのよね」


「スカイドラゴンだと僕も得意ではないですよ。どうしても戦士のクラスだと通常の攻撃が届きませんので」


「地には私が落とすから、そこを攻撃してくれたらいいわよ。私の攻撃だと倒すのに時間が掛かるからね。それに空の敵に攻撃する手段がないわけではないでしょ?」


「それじゃあ飛んでいる時は任せますね。もちろん空へ攻撃する手段はありますので、必要な時は言ってください」


「それじゃあ行きましょうか」


「はい。ちなみに狙っているドロップ品は何ですか?」


「龍玉よ」


「スカイドラゴンの龍玉なら持ってますよ。譲りましょうか?」


「なんで持ってるの?今日1日周回してもドロップしないと思ってるくらいのレアなのに」


「色んな人の素材集めを手伝ってましたからね。もちろん僕の素材集めも手伝ってもらってましたので、持ちつ持たれつは当然なんですけど……。前に渓谷でバハムートを周回している時に、ついでにスカイドラゴンを倒していたらドロップしました」


「ついでに倒せるほど簡単な相手では無いはずだけど……?」


「その時はクロノスさんと一緒でしたからね。さっき会いましたけど、相変わらずの紙装甲でしたよ」


「クオンさんもあの人とフレンドでしたよね。それなら納得です。本当に譲ってもらっていいんですか?」


「大丈夫ですよ。スカイドラゴンの龍玉が必要なクエストは終わってますので」

僕はストレージからスカイドラゴンの龍玉を取り出してあんころさんに渡す。


「ありがとう。本当にもらっていいのかな?」


「余ってるものなので大丈夫です。そのかわりジョブの件を教えて下さい」


「もちろんよ。墓地エリアの近くに廃墟の街があるでしょ?そこには誰も住んではいないのだけれど、お店でアイテムは補充出来るし、教会にいけば神父がいなくてもジョブチェンジが出来るわ」


「確かにそうでしたね。ありがとうございます」

あの街は廃墟で無人のくせに、プレイヤーが必要とする機能は備わっていた。


「こんなことでいいの?貰った物と比べると全然足りない気がするけど……」


「いえ、助かりました。ありがとうございます」

僕はあんころさんと別れて、廃墟の街へとファストトラベルする。


教会に入っても、当然神父はいない。

他の街なら神父がいるところまで行くと、そこには水晶が置いてあった。

それに触ることでジョブチェンジが可能だった。


僕はゲームをログアウトして、異世界へと行く。


教会へと向かい、神父さんに声を掛ける。


「教会に水晶はありませんか?あったら少しだけ貸して欲しいのですが」


「水晶ですか?この教会にはありませんね。宝石店か錬金術のお店に置いてあるのではないでしょうか?」


「そうですか……。水晶を手に入れてきたら、ここで使わせてもらってもいいですか?」


「水晶を何に使うのかはわかりませんが、場所を少しの間であれば貸すのは構いませんよ」


「ありがとうございます。これお布施です」

僕は銅貨1枚を神父さんに包んで渡す


神父さんに言われた通り、宝石店と錬金術の店には水晶が置いてあった。高すぎて買えなかったけど。

当然、貸してももらえなかった。


買えそうにはないので、貸してもらえそうなところを考えた結果、僕は占い師の所に来た。路上でやっている流行ってなさそうな、占い師のところだ。


「何を占いましょうか?」


「突然で申し訳ないのですが、その水晶を貸してもらえませんか?もちろんお礼はします」


「え?」

占い師は突然の僕の申し出に驚く


「少しだけでいいので貸してください」


「商売道具なので貸すことは出来ません」


「一緒に教会まで行ってもらって、教会の中で貸してもらえるだけで構いません。お礼として銅貨2枚払いますのでお願いします」


「……銅貨5枚でならいいわ」

出費としては痛いが、仕方ない。それに買うことを考えれば安いものだ。


「わかりました。これ先払いです」

僕は占い師に銅貨5枚を渡して、一緒に教会へと向かう。


そして神父さんに断り、水晶を使わせてもらう。


ゲームと同じならこれでジョブを変えられるはずだ。

そう信じて水晶に触れると、ジョブチェンジの選択画面が目の前に出てきた。

やった!成功だ。


僕はジョブを無職から魔法使いに変更する。


「ありがとうございました」

僕は占い師に水晶を返す


「もういいんですか?」


「ええ、助かりました」


「こちらこそ。今度は占いを受けに来てくださいね」

占い師さんはそう言って帰っていった。


僕も神父さんにお礼をして、教会から出る。

管理画面を開くと、ちゃんと職業は魔法使いに変わっており、選べるスキルも魔法使い専用のものが増えていた。

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