第26話 処刑日
エアリアさんとも別れた僕は、ヨツバ達にギルマスとの話し合いの結果を伝えるべく宿屋に来ていた。
ここ最近、何回も来ていたはずなのにやっぱり少し女の子が泊まっている部屋を訪れるのは緊張する。
部屋をノックして部屋の中に入れてもらう。
僕はヨツバとニーナにギルマスの部屋で話した事を順番に説明していく
「やっぱり田中君は処刑されちゃうんだね」
ヨツバが悲しそうに言った
「ごめん。処刑される理由を聞いちゃうと、庇う事はできなかったよ」
「クオンが悪いわけじゃないよ。私にも何も出来ないし……」
「ヨツバ達のいた世界だとどうなのかは知らないけど、この世界だと盗賊に人権はないんだよ」
ニーナの言う通りである。
そもそも生かして捕らえているのは、他の賊の情報を聞き出す為だ。罪を調べて罰を与える為ではない。
「うん、わかってるよ。大丈夫だから…」
ヨツバにはショックが大きいようだけど、これはわかっていたことだ。なんとか整理をつけるしかない
「私はクリスさんの怪我のことを聞きたいんだけど、クオンの治癒魔法はどうなってるの?」
ニーナに聞かれるけど、自分でもよくはわかっていない。
推測するならば、HPが全快の時は身体の状態は完全な状態なのかも知れない。
そもそもゲームでは欠損なんてなかった。
どれだけ攻撃をくらっても、回復すれば万全の状態で戦うことが出来た。
この世界の人にHPなるものがあるのかは不明だけど、あると仮定するなら、怪我の度合いは関係なく一定量ずつ治っていくのだと思う。
仮にHPが30相当の人が手足をもがれて死ぬ間際だったとしても、ヒールを3回掛けたら手足は生えてきて元気に走り回れるのではないだろうか?
「僕にもよく分からないよ。とりあえず手を生やすことが出来るってことはわかったけど……」
「……深く聞くのはやめておくよ」
「そうしてくれるとありがたいな。説明してって言われてもなんとなくでしか説明出来ないし」
「それよりも、この街にはまだ居られるってことだよね?」
「そうだね。すぐに出ないといけない理由は無くなったよ」
「やった!急にお別れは嫌だったからね。いつ頃街を出るの?」
「ニーナの装備も手に入ったからね。旅の準備もあるし10日後くらいがいいかなって僕は思ってるよ」
「この武器は借りてるだけだよ。まだお金は貯まってない」
実際には鍛冶屋の親父さんには僕が既に代金を払ってあるけど、ニーナはそれを知らない。
「それじゃあ、また明日から依頼を受けようか。最近色々と重なって受けれてなかったからね」
僕の方も依頼を受けないとお金がほとんどないからね。
所持金がほとんどない状態で街を出る程、異世界での旅を舐めてはいない。
「うん」
「とりあえず、街を出るのは10日後くらいで考えておいて。確定ではないから前後するとは思うけど……」
「……わかった」
ニーナは寂しそうに返事をした。
もちろん僕も寂しくないわけではない。なので残りの日を充実させたいと思う。
「ヨツバもね」
「あ、うん。わかった」
ヨツバは上の空で返事した
明日もこの調子だったら、受ける依頼は考えた方がいいかもしれないな
そして翌日、ギルドで2人と合流する。
「大丈夫?」
ヨツバはパッと見た感じだと、思い悩んでいるようには見えないけど……
「うん、大丈夫よ。……あれからニーナが話を聞いてくれてね、大分落ち着いたよ」
ニーナのおかげで落ち着いたようだ。ありがたいけど、街を出た後に同じようなことがあった時が心配だ。
僕にヨツバを落ち着かせたり、励ましたりすることが出来るのだろうか?
「そっか。心配してたけど、大丈夫そうだね」
少しずつこの世界に慣れてもらうしかないよね
いつも通り、ウルフ討伐の依頼を受けて森に入る。
いつもに比べるとヨツバの動きが良くない。大丈夫に見えてもやっぱりいつも通りというわけにはいかないようだ。
それでも武器を買い換えた為か、前よりもすんなりと討伐することが出来た。
ギルドに依頼達成の報告をした際に、ギルマスから話があると呼ばれた。
呼ばれたのは僕だけである。
「そういうわけだから、ギルマスと話をしてくるよ。僕はその後に向こうでご飯を食べるから、夜ご飯は2人で食べて」
僕はドロップした肉をニーナに渡す
「わかったわ。明日も今日と同じでいいかな?」
「いいと思うけど、ギルマスの話次第かな。明日に予定が入るようだったら、後で宿に行くよ」
「うん、それじゃまたね」
ニーナとヨツバは帰っていった
さて、ギルマスの話ってなんだろうか?
僕はギルマスの部屋に行く。
「失礼します、クオンです。何か用でしょうか?」
ノックして返事を待ってから、中に入る
「とりあえず座ってくれ」
僕はギルマスに促されてソファに座る
「クオンに伝えたほうがいいことがあってな。聞かれたらマズい話だから、クオンがギルドに来たら俺の所に来るように伝言を頼んでいた」
「それで話というのは何でしょうか?」
「盗賊の処刑日が決まった。3日後の昼に街の中央広場で決行する。この話を伝言で頼むと、クオンと盗賊の関係を怪しまれるので呼んだだけだ」
伝えないといけない事はないはずなのに、僕に気を使って教えてくれたということか。
「教えて頂きありがとうございます」
「盗賊に大切な人を奪われて恨みを持つものも多いからな。そういった人が前に進む為にもこういった処刑は公開されている。クオンが見るか見ないかは自由だから好きにしてくれ」
「わかりました」
僕はこの話を聞いて迷う。
僕自身は見に行くつもりはない。あまり関わりがなかったとはいえ、知り合いが死ぬところを見たくはない。
というより、知り合いじゃなくても人が死ぬところは見たくない。それが悪人だったとしても。
それが親の仇とかなら違うかもしれないけど、今回は違う。
迷っているのはヨツバに伝えるかどうかだ。
クラスメイトの最後を見届けたいのか、それとも見たくないのか。
見たくないなら、無駄に悩ませるだけだから言わない方がいいと思うけど、言わないことには選択することが出来ない。
3日後なので、とりあえず僕は問題を棚上げした
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