第60話

「ちょっとやりすぎじゃねぇの?」



厚彦は椅子を放り投げてマミちゃんへ歩み寄っていく。



その後ろ姿は怒りに燃えていた。



それでも、マミちゃんにはそんな厚彦の姿なんて見えていないようで、次の椅子を掴んでいた。



マミちゃんの目は焦点すらあっていないように見える。



マミちゃんがその椅子を投げる寸前、厚彦が手を伸ばして遮っていた。



「うー! うーっ!」



マミちゃんは突然の邪魔ものに怒っているが、ギリギリと歯をくいしばってうめくばかりだ。



それはまるで野生動物のようだった。



「いい加減にしろよ!」



厚彦は怒鳴ると同時に手を上げていた。



「あっ!!」



梓は思わず声を漏らす。



次の瞬間、厚彦の拳はマミちゃんの頬にぶつかっていた。



マミちゃんの体が吹き飛ばされて床に倒れる。



そのときだった、マミちゃんの力が弱まったのか、太陽の光が教室に差し込んだのだ。



その眩しさに一瞬目を細める。



「今ならドアが開くかもしれない!」



厚彦の叫びに反応し、梓がドアへと走った。



両手で勢いよくドアを開く。



「開いた!!」



振り向いて玲子へ言うと、厚彦が玲子に肩を貸して立ちあがらせているところだった。



「ねぇ、これどういうこと? 厚彦くんがしてるの?」



玲子は1人で混乱しているが、説明している暇はない。



こうしている間にもマミちゃんは体を起そうとしているのだ。



「早く!」



梓は玲子と厚彦を急かして、B組の教室から脱出したのだった。

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