第68話 ベルドロール家

昨日さくじつ、ベルドロール家に雇われたと話す酒場の男たちに襲われたのですが、それは本当でしょうか?」


 襲われた次の日。


 私はエルバルク家に勤めてくれている護衛役二人を引き連れ、ベルドロールの豪邸に乗り込んでいた。


 正面から私が訪問すれば、表向きは断ることはできない。


 そこで拒否すれば、何かあるということを、他の貴族たちに広く周知してしまうことになるからだ。


 ならば、ここは攻めに出るべきだった。


 私は親交を深めるためと言って、お父様から公認訪問の許可をもらい、そうしてベルドロールの応接の間に通された。


 そこにやってきた当主、バルゴ・ベルドロールに開口一番問いかけたというわけだ。


「……荒唐無稽なお話ですな」


 バルゴは六十過ぎの男で鋭い目をしている。


 約束もせずにきたので、てっきり息子や側近の類が出てくるかと思ったが、現れたのはベルドロール家の当主。


 私がエルバルクの人間だからか、それとも誘拐に失敗したからか。


 どちらにせよ、警戒されていることは確かだった。


「本日はその真偽をお確かめにいらっしゃったということですかな?」


「いえ、これは冗談のようなものですよ。そもそも、誇り高きベルドロール家の人間が、そのような下劣な行為を行うとは思っていません」


 ベルドロール家が誘拐の指示を出したのはほぼ確実。


 だが、そうやって言うことで相手の苛立ちを誘ったが、バルゴの表情は変わらなかった。


 さすがにこの程度の挑発で顔に出ていては、当主としてやってこられなかったということか。


 私は話題を変える。


「ところで、ベルドロール家は近頃黒装束の人間たちと親密なようですが、彼らの正体はなんなのです?」


「なんのことやら。当家はそのような人物たちには覚えがありませんな」


「そう答えるしかないでしょうね。私の個人的な感想を述べるのであれば、あれは外部の人間ではなく、ベルドロール家の色々な仕事を行う方々だと思っています。身分を明かすと都合が悪いので、黒装束を纏っているのでしょう」


 冒険者の時は、私も赤フードを着ているわけだし。


「お話はそれだけですかな? ならば、そろそろお帰りいただきたい。妄言ばかりを吐かれては、こちらも時間の無駄なのでね」


「それじゃ、始めましょうか」


「……?」


 もちろん、口で言っても、相手がボロを出さないのはわかりきっている。


 だから、ベルドロール家はここまで大きくなったのだ。


 私は懐に手を伸ばす。


 今こそ、ベルドロール家の暗部を明らかにする時だ。

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