第60話 受付のお姉さんの報告

「赤フードさんが透明になったと気づいた時はさすがに焦りましたよ……」


 冒険者ギルド。受付のお姉さんから草原の魔物討伐の報酬をもらいつつ、グラズ家事件のその後の進展を聞いていた。


「こっちだってまさか、街道近くの草原ダンジョンの中に、危険な透明化鉱石があるなんて思わなかったよ……」


「確かにそうですよね。あのダンジョン、やはり誰がが意図的に隠していた形跡がありました。もしかしたら、近くを通っても感知できない魔法が張られていた可能性もあります」


「でも、だったらなんで自分だけ辿り着けたんだろう?」


「赤フードさんは透明化したモンスターの足跡を追ってダンジョンに着いたのでしょう? 追跡にどのようなスキルを使っていたのかはわかりませんが、そのスキルの方が、敵の隠蔽の魔法よりも強力だったのではないでしょうか?」


「あー、なるほど」


 物体から気を逸らす魔法と、物体を追跡するスキル。


 それがぶつかり合ったが故の、不幸な事故ということらしい。


 今回の場合、スキルレベルが低ければ事件に巻き込まれなかったのだと思うと、レベルが高ければ高いほどいい、というわけじゃないようだ……。


 とはいえ、リンの家ーーアルトバルト家の冒険者たちを結果的に救うことができたし、それについては良かった。


「現在、王国騎士団によって草原ダンジョンは封鎖。透明化鉱石の排除を行っています。グラズ家の貴族たちは拘束。魔法工場の暗部は機能を停止しました。一般の作業場は王国が派遣した魔法技術監督官の指示で稼働を続けています」


「一般の作業場で働いていた人たちは悪くないもんね。それに小型照明が買えなくなるのは大変」


「そういうことですね。ひとまずグラズ家についてはもう心配しなくていいでしょう」


「……それで、グラズ家と商談をしていた黒装束の人間の所属はわかった?」


「いえ、赤フードさんから報告を受けて、ギルド側で調べてみましたが、怪しい取引記録はありませんでした」


 受付のお姉さんはため息をつく。


「……ベルドロール家は?」


「え? 確かにグラズ家はベルドロール家の派閥ですから、一定の取引はあったようですが……赤フードさんまさか」


「うん、私は今回の黒幕、ベルドロール家だと疑ってる」


「やめた方がいいですよ! あそこは王国一の大貴族、エルバルク家と争う第二位の大貴族ですよ! 私たち一般国民なんて、一瞬で潰されちゃいますよ!」


 と、受付のお姉さんは言うが。


「エルバルク家より下なら大丈夫」


 そう言って、私はカウンターを離れる。


「え、もしかして赤フードさん……エルバルク家にお知り合いが!?」


 私は無言で手だけを上げて挨拶すると、ギルドを出た。


 私がそのエルバルク家の令嬢です、とはさすがに言えない。

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