第89話 勇者と魔王と条件

「……えっと、何か、御用でしょうか?」


 俺は近付いてくる男性に訊ねる。男性はもったいぶった態度で話を続ける。


「いえいえ。皆様の気持ちの良い食べっぷりに思わず感服してただけですよ」


「はぁ……そうですか」


 俺がそう言うと、男性はなぜかニコニコしたままで俺たちの方を見ている。明らかに何かを言いたそうな感じだった。


「……えっと、まだ何か?」


「いえ……一つ提案があるのですが……皆様の食事代、この私に払わせていただけませんでしょうか?」


「な、何!?」


 と、そう言って驚いたのは、マオだった。男性もマオがいきなり大きな声を出したので驚いている。


「お主……本当に良いのか!?」


 目を輝かせて男性にそう聞くマオ。あまりにもいやしすぎて悲しくなってくる。


「え、えぇ……是非、そうさせていただければ……」


「ちょっと待って下さい」


 と、このままでは話が進んで言ってしまいそうな乗っで、俺が静止する。


「なんじゃ、ソーマ。金を払ってくれるのなら、お主も助かるではないか」


「……あのですね。こういう時は大抵、何かしら条件があるものなんですよ。そうですよね?」


 俺がそう言うと男性は苦笑いしながら小さく頷いた。


「い、いえ……まぁ、大した条件ではないんですよ。ただ、お見受けしたところ、皆様は冒険者のパーティ御一行様、ですよね?」


 冒険者のパーティ……確かに、勇者と魔王とサキュバスとドラゴニュートというおかしな組み合わせではあるが、パーティであることには違いない。


「……まぁ、そうですね。一応は」


 と、いきなり男性は頭を深く下げる。


「どうか……どうかお願いです! 私の願いを聞いて下さい!」


「……ですから、お願いってなんです? 俺たちに何をさせたいんですか?」


 俺がそう言うと男性は苦笑いしながら、俺たちのことを見る。


「魔物退治の……お願いなんですが……」


 大方予想はついていたが……またしてもこんな展開に巻き込まれるようなのであった。

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