第79話 勇者と魔王と珍しくないこと

 俺はしばらくマオのことを見ていた。


 マオは完全に放心してしまっているらしく、空を見上げたり、遠くを見ながら時折ため息をついている。


 その姿だけ見ると、とても、この世界の魔族、魔物の頂点に君臨していた存在とは思えない。


 ……かといって、放っておくわけにもいかない。俺はマオを王都に連れていくという義務がある。


 このまま座り込んでいてもらっては困るのである。


「マオ」


 俺はマオの近くに寄っていって、声をかける。


「……あぁ。ソーマか」


 気のない返事をするマオ。いつものポンコツっぷりもあまり感じられない。


「どうしたんですか? あまり元気がないようですが」


「……元気なわけないじゃろう」


 そう言って俯くマオ。


「それは、村でのことが原因ですか?」


 俺がそう言うとマオは何も答えない。まぁ、それが原因であることはわかりきっているのだけれど。


「はぁ」


 思わず俺はため息をついてしまった。すると、マオは信じられないという顔で俺を見る。


「お主……なんじゃ。儂を慰めに来たのではないのか?」


「は? 慰めてほしいんですか?」


 俺がそう言うとマオはムッとした顔をする。


「こんなこと、珍しくないですよ」


 それから、俺ははっきりとマオにそう言ったのだった。

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