第50話 勇者と魔王と告悔
「嘘……とは?」
俺がそう聞き返すと、シスターは鋭い目つきで俺のことを見る。
「アナタは……魔王様を騙しています。このまま王都に行けば、魔王様は確実に殺されてしまうのに……」
「……そうですね。それが俺の目的ですから」
俺がそう言うとシスターはさらに侮蔑の視線で俺のことを見る。
俺のそもそもの目的は魔王の抹殺である。俺の行動の結果として最終的にマオが殺されてしまったとしても、俺としては問題ないのである。
「アナタは……それでも勇者なのですか!?」
「別に俺自身が勇者だなんて名乗った覚えはないですよ。周りがそう言っているだけで。俺自身は……自分は勇者になんてなれない人間だと思っていますから」
「……どういうことですか?」
シスターの問いかけに対して、俺はステンドグラスを通して入ってくる月光を見ながら、礼拝場の椅子に腰掛け、先を続ける。
「俺は元々はこの世界の人間じゃないんです。前の世界の記憶を持っていて、気づいたらこの世界に存在していた……まぁ、転生ってやつですよね」
「転生……ですか」
てっきりもっと驚かれると思ったが、シスターは案内落ち着いていた。
「転生する前の俺……つまり、前の世界の俺は勇者になんてなれないタイプの人間でした。それどころか、俺は人を深く傷つけた……」
俺がそう言うとシスターは今度は憐れむような視線を俺に向ける。
「……もし、後悔していることがあるのなら言って下さい。ここは教会で私はシスターです」
そう言って優しげな表情を向けてくるシスターだったが……俺はそれを鼻で笑ってやる。
「そうですね……人間の本物のシスターだったら、もしかすると、俺の転生前の話をしたかもしれません」
そう言って俺は席を立つ。
「しかし、アナタはシスターじゃない。シスターのフリをしたサキュバスだ。魔物に告悔するほど、俺は勇者として落ちぶれていませんよ」
そう言って俺は礼拝場をあとにする。一瞬だけ振り返ると、シスターが悲しそうな視線で俺を見ていた。
……別にマオやシスターにどう思われようが、関係ない。アイツらは魔族で魔物なのだ。俺とは違う存在。
自分と違う存在とは、分かり合うことなんてできない。それはどの世界でも同じことなのだから。
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