第36話 勇者と魔王と良い人間
「改めまして。私はこの教会を守られているシスターです」
教会に戻ると、シスターが笑顔で迎えてくれた。しかし、相変わらずマオの機嫌は悪いようである。
「……お主、ここには一人でおるのか?」
マオがそう言うとシスターは少し困ったような様子で俺とマオのことを交互に見る。
「あぁ……俺はソーマです。こっちがマオ。まぁ、成り行きで一緒に旅をしているものです」
「なっ……成り行きとはなんじゃ。成り行きとは」
「だって、成り行きじゃないですか」
おれがそう言ってもマオは成り行きという言葉に納得しないようだった。
「フフッ……そうですか。では、ソーマ様もマオ様も、お疲れでしょう? この教会に立ち寄られたのも何か縁……貧相ですが、お食事を用意致します」
「お、おぉ! そうか! うむ! お主は良い人間じゃな!」
と、先程までの不機嫌さはどこへやら、満面の笑みでマオはそう言う。
……この魔王は食事を提供してくれるか、くれないかでしか、善悪を判断できないのだろうか。
「……いえ。私は良い人間などではありませんよ」
と、マオの何気ない一言にシスターはなぜかひどく落ち込んでしまった。マオが動揺した様子で俺を見る。
「あの……シスター?」
「え……? あ、あぁ! 申し訳ございません! すぐに準備しますね!」
そう言って、シスターは祭壇の奥の方にある扉を開ける。
「準備ができましたら、お呼びしますので、少々お待ち下さい」
振り返り際にそう言って、シスターは中に入っていった。
「うむ……悪いシスターではないようだな!」
マオは納得したようにそう言うが……俺は先程の一瞬の落ち込みようが、どうにも気になったのであった。
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