第35話 勇者と魔王と鑑定

「ど、どうじゃった!? 中には誰かいなかったか?」


 俺が教会の外に出ると、マオが一目散に駆け寄ってきた。


「いましたよ。シスターが」


「シスター!? ど、どうするのじゃ!? 儂が中に入れぬではないか!」


「……なんで入れないんです?」


「当たり前じゃろ! もし、ヤツが魔法の使い手だったら……!」


 マオは心底不安そうな顔をしている。


「あの……アナタ、魔王ですよね? こんな辺境の教会のシスターが、仮に魔法を使えたとして……勝てないんですか?」


 俺がそう言うとマオはハッとした顔をする。それから、取り繕うように得意げな笑顔で俺を見る。


「そ……そんなこと、あるわけないじゃろう! わ、儂は魔王じゃぞ! 勝てるに決まっておるわ!」


「じゃあ、早く教会に入りましょう」


 俺はそう言って教会の方に戻っていく。と、背後を見ると、その場から動こうとしないマオが俺のことを涙目で見ている。


 俺は思わず大きくため息をついてしまった。


「……俺のスキル『鑑定』で彼女のステータスを確認しましたけど、彼女は強い魔法は使えませんよ。俺たちが旅のものだと話したら、食事も提供してくれると言ってくれました」


「そ、そうか! なら安心……って、お、おい! お主、今なんと言った!?」


「……だから、彼女は強い魔法は使えないと――」


「その前じゃ! そ、そのスキルで……ステータスがわかるのか?」


「えぇ。わかりますよ」


「わ、儂のステータスも見たのか……?」


 不安そうな顔でマオは俺を見る。俺はジッとマオのことを見つめる。


「いえ。見てませんよ。興味ないですし」


「なっ……! わ、わかった……中に入る」


 マオは機嫌が悪そうにこちらにやってくる。


「あ。角、隠さないんですか?」


 俺がそう言うと、マオは無言のままに角を透明にしていた。


 ……マオのステータス、実は見ようとしたのだ。これほどまで情けない魔王のステータスはどんなに低いのだろう、と。


 だが……なぜか「鑑定」のスキルが発動しなかったのである。まるで、ステータスを開示するが拒まれているようだった。


「一応は魔王だから、ステータスが見られない、ってことか……」


 俺はそういう感じに納得しながら、教会の中に戻っていったのだった。

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