第二十四話 【新生ギルド】受付


 私は、魔王様に助けられた。元奴隷です。現在はカプレカ島にあるギルドで受付の仕事をしています。名前は、魔王様から頂きました。名前は、秘密です。乙女の秘密としています。それに、大切な名前なので、仲間にしか教えていません。カプレカ島のギルドでは許可を得て偽名を使っています。


 これは業務日誌のような日記です。

 モミジ様からの指示で、受付は些細な事でもメモとして残して、報告を上げることになっています。新生ギルドのギルド長であるボイド様には、モミジ様が精査した報告が上がる仕組みです。出勤した時には、必ず書いているので、日付は割愛しています。


 今日は、朝から騒がしかった。

 あっ食堂のおばちゃんが作ってくれたサンドウィッチはおいしかった。魔王ルブラン様が考案された食べ物だと教えられた。新生ギルドの交代員が教えてくれたけど、サンドウィッチは他の国でも似たような物はあるが、カプレカ島のサンドウィッチが一番おいしいらしい。そうそう、新生ギルドの交代員は、通常は城塞村に居て、私たちの教育とサポートの為に交代でやってきます。日記なので、時系列もめちゃくちゃなのは許してください。


 ギルド内は、いつも通りだったけど、通りが騒がしかった。

 同僚が見に行ったら、ギルド員・・・。多分、初めて見る人たちだから、新人か他の支部から噂を聞いてやってきた人たちだと思う。そのギルド員が、私たちの心のオアシスであり、私たちの希望でもある、メアちゃんに絡んだのです。理由までは解らないのですが、後でボイド様からモミジ様に連絡が入るでしょう。私たちが知らされなければ、私たちは知る必要がない情報なのです。


 武器を抜くまで、メアちゃんは手出しをしないと決めているから、あのギルド員もさっさと”ごめんなさい”をしてくれたらいいのに・・・。振り上げた拳をそっと降ろすだけで、貴方と仲間たちは助かるのに・・・。


 周りで見て居る者たちも私と同じ考えのようだ。

 だが、声に出して助言をしたりしない。余計なお世話だと言われてしまう。解っている。メアちゃんに絡んで再起不能になった人たちを何人も見て居る。


 隣で見て居た同僚が残念そうな声を上げる。


「あぁぁ」


 私も同じ気持ちだ。

 死なないで欲しい。私たちは、同僚や近くにいた、ギルド所属の者たちに目線で指示を出す。介入するのではない。もう、あと数秒で、メアちゃんに絡んでいた連中が倒れてしまうからだ。速やかに、メアちゃんを確保して、宥めて、負傷者を城塞村に送らなければならない。


「終わり」


 同僚が呟いた。

 私も同じ気持ちだ。メアちゃんは、メアちゃんの事を蔑まされても怒らない。内心は解らないけど、手を上げることは絶対にない。自分からも攻撃するような子ではない。しかし、魔王ルブラン様を、貶されると、一気にヒートアップする。それに、仲間の悪口が加わると終わりだ。


 特にダメなのが、”魔王”と呼び捨てにされる行為だ。

 魔王ルブランはOKだけど、魔王と呼び捨てにされると、首を跳ねる勢いで言った者を後悔させる。


 今回も、メアちゃんへの禁句三連発だ。魔王ルブラン様を甘ちゃんと罵り。メアちゃんの仲間を元奴隷のクズと罵り。最後は、”魔王を倒す”と宣言した。これで、終わりだ。


 死なないだけ良かったのかも・・・。死んだ方がましだと思えるトラウマを植え付けられた可能性は否定できないけど・・・。

 メアちゃんも戦闘力が上がっているのか、急所を外してくれるようになった。それでも、腕は諦める必要があるだろう。利き腕を残す優しさを身に着けてくれた。魔王ルブラン様から、メアちゃんたちに”喧嘩をしても殺すな”と指示が出たそうだ。最初は、瀕死の状態まで追い込んでいたが、最近では腕を切り落とす程度で終わっている。


「メア様。後始末は、私たちがしておくよ」


「え?いいのですか?殺して、埋めて置いたほうが・・・。ゴミはさっさと下水に流すべきだと、魔王様から教わりましたが?」


「いいの。いいの。そんなんでも、まだ使い道があるから・・・。ね。それよりも、モミジ様がお待ちですよ」


「え?あっはい!それから、”様”を止めて。ください」


「はい。わかりました。メア様」


 同僚がメアちゃんと話をしている。

 いつものやり取りだ。メアちゃんは、”様”と呼ばれるのを嫌う。でも、私たちは、表立って、”メアちゃん”とは呼ばない。親しみを込めて、”メア様”と呼んでいる。それもこれも・・・。


「何かあったのですか?」


「ヒア様」


「何度も言っていますが、ボクには”様”は必要ないです」


「はい。あっ。いつもの・・・」


「え?メアが来ているの?」


「はい。モミジ様の所に・・・」


「あぁ・・。モミジ様の所・・・。そうだよね。はぁ・・・」


 ニヤニヤが止まりません。

 ヒアくんが、メアちゃんを好きなのは、メアちゃん以外なら知っている事です。わざわざ毎日の報告書に書いてしまうほどに有名なのです。私たち、新生ギルドに働いている者だけではなく、カプレカ島に住んでいる元奴隷たち。メアちゃんやヒアくんの同期の元奴隷。そして・・・。


「どうやら、ヒアはまだメアを射止めていないようだな?」


「カンウ様?」


 四天王であるカンウ様をはじめ、魔王ルブラン様まで、ヒアくんの恋心を知っているのです。


 メアちゃんがどう思っているのか解らないけど、四天王の中でも特にカンウ様とナツメ様は二人で行う作業を増やしているように思える。

 どうやら、裏で男どもが賭けをしているようだ。そのために、カンウ様やナツメ様にお願いをしている愚か者も出ています。カプレカ島で、今一番の注目が”ヒアくんがメアちゃんを射止めるか?”ではなく、”メアちゃんが何時、ヒアくんの気持ちに気が付くか?”になっています。


 私たちの仕事は、ヒアくんの恋心の推測だけではありません。

 カプレカ島にある。魔王ルブラン様への挑戦権が得られるダンジョンの管理を行っています。


 アタックする人の管理と、ドロップ品の買い取りなどが主な業務です。


 魔王ルブラン様から、アタックは自由だけど、死んでも知らないと言われています。

 それでも、ダンジョンから持ち帰るアイテムや素材目当てに人が来ます。魔物を狩って食料にしている人たちも居ます。階層によっては、貴重な薬草が生えているので、薬草ハンターなどと呼ばれている人も居ます。


 私たちは、買い取りは行いません。

 カプレカ島に来ている。城塞村の新生ギルドの人が行っています。話し合いで決まりました。私たちが買い取っても意味がないのです。スクロールは必要になる可能性がありますが、必要になれば魔王ルブラン様から支給されます。


 ”美人受付お姉さん”の私たちにも、適正があるスキルが付与されています。それだけではなく、最低限の戦闘訓練を受けて居るので、城塞村からやってくる人たちと同等くらいには戦えます。上位の人たちは人外なので除外しますが、模擬戦などを見て居ると、半数の人には勝てそうです。実際に、隠しているスキルもあると思うので、実際には半数を下回る程度だと思っています。他の受付も、私と同じくらいに戦えます。


 あと、宿屋をやっているご夫婦や、カプレカ島の入口でポーションを売っている人は、私よりも戦闘よりのスキルを持っています。

 魔王ルブラン様から頂いたスキルです。あと、裏路地に丸くなって寝ている猫ちゃんは魔物で、魔王ルブラン様の眷属なのです。


 え?私が詳しすぎる?

 当然です。私は、魔王様に謁見したことがあるのです。カプレカ島にいる人たちに解りやすく言えば、初代元奴隷の一人です。だから、私がヒアくんと呼んだり、メアちゃんと読んだり、他の人とは違う呼び名を使っても、問題にはなりません。まぁ他の人が呼んでも問題にはならないのですが・・・。


 さて、今日の業務も交代の時間です。

 報告書を、ヒアくんに渡して、メアちゃん経由でモミジ様に届けてもらおう。


 いい加減にくっついてもらわないと・・・。

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