第二十四話 【帝国】魔王城?


 我たちは、魔王城に作られた壁を突破した。

 簡単に突破できてしまった。反対側にしか門が無いために、距離はあるが。魔物も罠も無いために、ただ距離がある以外の意味は持たない。


 我の説を裏付ける事態が更に展開される。


「殿下」


「間違いは無いだろう」


 門から入った場所で、部隊を集結させる。中央に建つ異様な白い建物が魔王城だと思われるが、我は愚か者ではない。斥候を出して、門の位置や罠の確認を行わせる。その間に、部隊に休息の指示を出す。

 斥候が戻ってくる頃には、後ろからやってくる奴隷兵たちも到着するだろう。


 情報を整理して魔王城に挑めばいい。


 完璧な作戦だ。我に間違いなどない。我が戴冠する日は目前に迫っている。


 ワインで喉を潤していると、斥候が戻ってきたようだ。


「殿下!」


「罠も魔物も居なかったのだな?」


「はっ魔王城までに、罠及び魔物は存在しません。扉を発見いたしました」


 驚きの表情を浮かべた伝令が跪く。


 やはり・・・


「この魔王は、愚かだな。我らの相手ではない。その証拠に、魔王が居る居城にしては、装飾もなく貧素な見た目ではないか」


 我の指摘に、ヨストも15番隊の隊長も、伝令も白い壁に規則的に四角い枠がある魔王城を見つめる。


「まさに」


 ヨストが同意を示す。他の者も、我に頭を垂れて我の素晴らしさを認識している。


「時間稼ぎ程度しか出来ない魔王なぞ、恐れる必要はない」


「殿下の慧眼、恐れ入ります。まさに、そのとおりでしょう。時間稼ぎも、殿下の策で潰されて、最上階で震え上がっておりましょう」


 ワインのグラスに残った液体を、身体に流し込む。魔王の命も、このワインと同じだ。あとは、我に殺されるのみ。


 前方から、新たな伝令が駆け寄ってくる。5番隊の隊員のようだ。


 隊員が、我たちの前で跪いた。


「殿下。隊長」


「許す」


「はっ。魔王城の扉が開きました」


「殿下」


「そうだな」


「??」


「順次、魔王城の攻略を進めろ。中には、まともな敵も罠もない!我らの勝利は目前だ。進め」


 15番隊の隊長を見ると、無言で頷いている。

 武具や防具を持った奴隷たちも追いついてきた。騎士たちに武器を配布する。魔王城の中だ、狭いことも考えられる。そのための武器に切り替える。我は、宝剣があるので問題はない。魔物が居た時の為に準備していた、道具は必要なさそうだ。騎士や奴隷たちは身軽にしておく必要がある。


 15番隊の隊長に指示を出し、奴隷たちの装備を入れ替えさせる。

 奴隷たちも、成人になったばかりの者や女は荷物持ちにする。前方で罠の解除には力が必要だろう。奴隷の使い方の指示を出す。


 奴隷の入れ替えに時間が掛かってしまったが、役に立たなそうな成人したてのゴミや肉奴隷以上の価値がない奴は後方に下がらせた。魔王城の外で待機させればいい。我たちが凱旋するまで、物資を守らせよう。最低限の食料を残しておけばいいだろう。どうせ、ここで殺すつもりだったのだ、最後の食事を食べられると知れば、泣いて喜ぶだろう。


 魔王城は、高さだけは立派だ。

 装飾もなければ、威厳もない。


 罠も無ければ、ゴブリンの一匹も出てこない。この魔王は、本当に愚かだ。こんな低俗な時間稼ぎにしかならないような場所で、偉大な帝国で最高の知略と武力を持つ我に勝てると思っているのか?


 魔王城は無様だが、扉だけは立派だな。


「扉には、何か仕掛けがあったのか?」


「いえ、奴隷兵が扉に手を置いたら、自然と開きました」


 極悪非道な魔王が考えることだ、何か仕掛けをしてくると思ったが、やはり最初の門で力を使い果たしたのだろう。

 扉を立派にしたのは失敗だったな。質素な扉にして、罠を設置すれば、時間が稼げたのに、無駄なことをするものだ。


「中はどうなっている?」


「はっ入り口付近は、広く部隊が展開するのには十分な広さがあります」


「そうか?階段や梯子は?」


「見つかっておりません。目測ですが、魔王城の半分くらいの位置で区切られており、扉が全部で7つあります」


「扉?」


「はい。7つの扉が等間隔で並んでおります」


「開けられないのか?」


「試しましたが、力で開くような物ではなさそうです。各扉の横には、ふみが書かれておりました」


ふみ?」


「はい」


「内容は?」


「はい。読み上げます」


 隊員は、連れていた従者からメモを受け取って読み上げる。


”1つ。謙虚な者よ扉を開けよ”

”1つ。人徳ある者よ扉を開けよ”

”1つ。勤勉な者よ扉を開けよ”

”1つ。忍耐ある者よ扉を開けよ”

”1つ。寛容な者よ扉を開けよ”

”1つ。節度ある者よ扉を開けよ”

”1つ。純潔な者よ扉を開けよ”


「です。全ての扉に共通で書かれているのは・・・」


”7つの扉を同時に開けし時、汝らに福音が鳴り響くであろう”


「殿下?」


「小癪な。謙虚な者とは我以外には居まい。他にも、それぞれの人物が必要になるのだな」


「はっ」


「魔王城の中に、魔物や罠は?」


「ありません」


「よし、捨てる奴隷を除いて中に入る」


「はっ」


 我を先頭に、魔王城の扉から、中に入る。

 報告の通りに、中は広くなっている。確かに、真ん中あたりに壁があり、扉が設置されているのが解る。


 7つの扉の意味を考えなければならない。奴隷を大量に従える15番隊の隊長が人徳ある者だろう。ヨストは勤勉な者に該当する。他の人選も行わなければならない。扉の奥に進むための護衛を含めた人選も必要だな。

 魔王の事だ、”扉を開けるのに奴隷を使うと予測している”と考えられる。奴隷では、扉が開けられないのだろう。


---


「失礼します」


「あなたは?」


「帝都におられる、あなたの上司からの手紙をお持ちしました。遅くなってしまいもうしわけありません」


「隊長から?」


 男は、口元に手を添えた。


「わかった。感謝する。貴殿は、ギルドの人間か?」


「はい。ボイドを名乗っております」


 7番隊の目は、渡された手紙を開いて、驚愕の表情を浮かべる。


「ボイド殿。いくつか聞きたいが、問題はないか?」


「はい。答えられない事もありますが、問題はありません」


「ありがとう。手紙の送り主からは、できれば”魔王との交渉”を考えていると書かれているが、ギルドとして許される事なのか?」


「許す。許さないもありません。ギルドは独立した組織です。帝国の方が、魔王と対話を望むのを邪魔することはありません」


「そもそも、魔王との対話が可能なのか?」


「わかりません」


「ギルドは、この魔王をどう思っている」


「個人の意見でよろしいですか?」


「是非、お聞きしたい」


「この魔王とは、敵対は愚かな行為だと考えています」


「それは、対話を望むのか?」


「対話以外でも、関わらないという選択肢があります」


「わかった。ありがとう。私は、指示に従って、ここで待機する」


「わかりました。しかし・・・」


「解っている。開いた門が閉まった。魔王は殿下たちを逃がすつもりは無いのだろう。しかし・・・」


「わかりました。帝都に戻って、手紙を差出人にお伝えします。手紙があれば、持っていきます」


「そうか・・・。少しだけ待ってくれ、手紙を書きたい」


「かしこまりました」


 隊長。魔王の情報を入手するのは難しいですよ。ましてや・・・。


---


「殿下。魔王城への侵入に成功しました!」


「よし、ヨスト。扉を開けるための会議を行う」


”ぎぃぃぃぃ”


「どうした!」


 後ろを振り返る。聞かなくても解ってしまった。外に繋がる、扉が閉じたのだ。


「殿下!扉に文字が浮かんでおります」


「読め」


「はっ」


”魔王城を楽しんでもらうために扉を閉ざした”

”再びこの扉を開ける為には最上階で鍵を入手が必要になる”


「です」


「わかった。何の問題もない。魔王が愚かだと再認識した」


「殿下?」


「魔王城だと認めた上で、最上階に自分が居ると言っているのだぞ?我たちは、最上階まで上がって魔王を倒せば、目的を達成した上で、鍵も入手できる。これが愚かと言わずしてどうする?」


「はっ。まさに、殿下のおっしゃる通りです」


「ハハハ!愚かな魔王に、剣を突き立てる為にも、さっさと人選をするぞ!魔王が、震えて待っているだろう。急いでやらねばなるまい」


「はっ」


 食料は大量にある。輜重兵から提供させた物だけではなく、騎士や隊員で2ヶ月は耐えられる。奴隷兵には、最低限を与えればいいだろう。それで死んだら、また別の奴隷を補充すればいい。無駄飯ぐらいを、切り捨てたのは正解だったな。200名以上の無駄飯ぐらいが居たとは・・・。15番隊にも、戻ったら指導してやらねばならないな。

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