第二十話 【奴隷】穏やかな日々


 ここは?


 あっ

 私たちは、魔王様に捕らえられて・・・。


 部屋を与えられた。産まれて初めて、お風呂に入った。冷たい水ではなく、温かい水で身体を拭いた。汚れで、綺麗だったタオルがすぐに汚くなってしまった。でも、ルブラン様から言われた通りに、石鹸を付けて身体をこすった。いい匂いがして、身体が綺麗になった。ゴワゴワだったしっぽがふわふわになった。それから、温かい水に身体を沈めた。


 なぜか、涙が出てしまった。

 身体から、全部の悪いものが出ていくように感じてしまった。妹が心配そうに見上げてきたが、頭を撫でて大丈夫と伝える。私と同じように、泣いている子が居る。同じ気持ちなのだろう。


 お風呂から出て、新しい下着と新しい服を身につける。服を選ぶのが、こんなに楽しいとは知らなかった。


 ルブラン様には、感謝しかない。


 もう死ぬしかないと思っていたけど、こんな気持になれるなんて・・・。


「お姉ちゃん?」


「ん。おはよう。寝られた?」


「うん!おはよう。あっ・・・。あんまり、寝られなかった」


「どうして?」


「お腹が一杯で、寝床が柔らかすぎて、動いて、地面が沈んだみたいで、怖かった」


「そうね」


 私と妹は、二人部屋を使うことになった。族長だから、一人部屋を使ったらと言われたけど、一人部屋は、男の子に譲った。妹も私も、常に一緒に居たから、一緒の部屋がいいとわがままを言ってしまった。狐人の皆は笑いながら、私と妹のわがままを許してくれた。部屋はすんなりと決まった。皆が、4人部屋を選んで喧嘩になるかと思ったけど、年少組を4人部屋にして、年長組はなるべく一人部屋になるようにした。


 部屋には、調理場が付いていた。

 驚いたことに、魔法道具だ。村には、一個しか無かった物が、各部屋に付いている。器具も部屋に置いてあった。


 ドアがノックされる。


「はい」


「人族の族長です。昨日の話をしたいので、集まりませんか?」


「わかった。どこで話をする?」


「狼人の族長が、中央の開いている部屋でしようと言っている」


「うん。私も、それでいいと思う」


「わかった」


 人族の族長が、調整役をやってくれている。

 これも、皆で話をしたことだ。私が、取りまとめを行う。人族の族長が、皆の調整を行う。狼人の族長は、自らが狩りに出たいと言っている。狼人は、狩りで生活をしていたので、狩りが出来る。猫人も同じだ。


 狐人は、半々だ。狩り人と農家が居た。皆で話し合って、他の族が少ない方に割り振ろうと決めた。


 中央の部屋に移動すると、族長が揃っている。


「ごめんなさい」


「狐人の族長も揃った所で、話をしようと思うが・・・。結論が出ているように感じる」


 人族の族長が皆を見る。


 部族で決めなければならないのが、ここに残るか、それとも出ていくか、だれも出ていこうとは言わない。皆の意見は、”残りたい”だった。だが、残るためには、どうしたら良いのか?どうやったら、ルブラン様のお役に立てるのか、考えなければならない。


 役割を決めるのに、少しだけ問題が出た。

 狩りの人数が多かった。そこで、話し合って、人数を決めた。


「それじゃ、僕と狐人の族長で、ルブラン様に話をしてくる。いいのか?」


 皆が頷く、意見の統一が出来たので、あまり多くの人数でお会いするのは迷惑だろうと考えた。


「狐人の族長。魔王様。ルブラン様にご面会をしにいこう」


「わかった。皆、行ってきます。妹をお願いします」


「うん。私が見ている。安心して」


 羊人の族長と猫人の族長が、手を上げてくれる。


 昨日と同じ部屋に入って、扉を閉めると、同じように床が光った。


「今日は二人か?」


 ルブラン様が、私たち二人を見て、お声をかけてくれた。


「ルブラン様」「お時間を頂きありがとうございます」


 慌てて、私と人族の族長は、ルブラン様の前まで移動して跪く。それが正しい作法かわからないけど、父が、村に上位者が来たときにやっていたので、間違いでは無いだろう。


「跪かなくても良い。立って話をせよ」


「はっ」「はい」


 今度は、慌てて立ち上がる。


「慌てなくて良い。マナー程度で、貴殿らを手放そうとは思わぬ」


 慌てていて、少し前ののめりになってから立ち上がったからなのか、ルブラン様からお優しい言葉を頂いた。

 恥ずかしくなって顔を上げられない。でも、失礼だと考えて、頑張って、顔を上げる。


 ルブラン様が、優しそうに私を見てくれている。

 すごく、嬉しい。


「も、もうしわけございません」


「よい。狐人の子よ。それで、話はまとまったのか?」


「はい」


「話してみよ」


「はい!」


 私が、返事をすると、ルブラン様が微笑んでくれた。

 その後、皆で話し合った結果をお伝えする。


「わかった。畑を、任せたいが、今は、難しい。狩りも、今は外に出せないのでな」


「え?」


「忘れているかもしれないが、お前たちを”ここ”に連れてきた者たちが、私を殺すために攻めてきているのだぞ?」


 ルブラン様は、さも楽しいことを言っているように話をしてくれたが、忘れたわけではない。”夢だったのではないか”と、考えてしまっていた。。


「ルブラン様!私たちに、私たちも戦わせてください!ルブラン様のためなら」


「ハハハ。大丈夫だ。そうだな。この玉座まで攻められたら、助けてもらおうかな」


「はい!お任せください!」


 ルブラン様を殺しに来るのなら、私の敵だ。刺し違えてでも殺す。


「そうだな。(訓練場が必要だな。あとは、訓練を行うための教師が必要になるかな?)」


「え?」


「あぁ気にするな。それよりも、服は皆に行き渡ったか?」


「はい。本当に、ありがとうございます」


「よい。よい。狐人の肌も風呂で洗ったのだろう。綺麗になっている。のう、人族の子もそう思うだろう?」


「え?あっはい」


 なぜか、人族の族長は、私の方を見て、顔を赤くする。なんだろう?綺麗なのは、ルブラン様だ。


「ふふふ。しばらくは、ゆっくりしてくれ、外に居る連中が片付くまでは、もう少し時間が必要になりそうでな」


「わかりました。私たちは、何をしたらよろしいでしょうか?」


「そうだな。指示や命令は、連絡するが、文字を読めるのは、人族の子だけか?」


「はい。人族の族長と、私が少しだけ読めます」


「そうか、二人の負担になるが、文字を読める者を増やして欲しい。簡単な計算が出来るものは?」


「すみません。計算は聞いていません」


「二人は?」


 人族の族長が私の顔を見て、首を横にふる。


「私は簡単な計算ならできます」


「そうか、狐人の子よ。7たす9は?」


「え?あっ16です」


「うぬ。13たす88は?」


「え・・。ひゃ・・・。あっ101です」


「ほぉ・・・。74ひく36は?」


「・・・。えぇと。4から6は、10から6は4で、4たす4は8で、7から3だから、4で、1を借りているから、38かな?」


「よく出来たな。よし、人族の子が、文字を読める子を増やして、狐人の子が、計算が出来る子を増やせ」


「はっ」「はい!」


 役割を貰えた!

 難しいけど、頑張る。ルブラン様の為になるのなら、頑張れる!


 ルブラン様は、人族の族長から、孤児院での生活を聞いている。

 他にも、街での生活を気にされている。


「わかった。二人とも、今後も我のためにいろいろ動いてもらうが、頼むぞ」


「はい!」「はい」


 一日間を開けて、ルブラン様に、ご報告を行うことになった。

 私と人族の族長は、必ず一緒に来るように言われた。それから、私たち二人とは別に、族長以外の人を1-2名連れてくるように言われた。それから、外の状況が解ったら、ルブラン様が教えてくれることになった。

 私たちを奴隷にした者や、ひどいことをした人が居た場合には、お教えすることになった。


 ルブラン様のところに行くのは、緊張するが、それ以外は、村で生活をしていたときよりも、穏やかな時間が流れている。

 子供だけで、物事を判断して決めなければならないのは、大変だ。でも、私たちがやらなければ、妹たちが困ってしまう。

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