第十九話 セバス動く


 私は、セバス。

 マイマスターに生み出された。


 先程、マイマスターのお力で、魔物を使役して、私の配下になるように設定していただいた。


 私が出向けば、目的の達成は容易い。しかし、マイマスターから頂いた”子供たちを頼む”という命題との同時進行では、マイマスターのお側で過ごす時間が減ってしまう。そのために、失礼な話だとは思ったが、マイマスターにお願いをしてしまった。


 それにしても、面白い。

 魔物ポットという装置は、本当に魔物が産まれてくる、産まれてきた魔物は、私が支配できる。意思の伝達が可能になっている。魔物同士でも争うことになってしまうが、私が支配していれば、魔物は襲わない。


 上位のラット種が産まれて、支配した状態にしている。バット種も上位種が産まれた。ラット種は、上位の者に従う習性があるのか、上位種が支配出来るようになった。数匹単位で行動させて、森の情報を知らせるようにした。


 バット系の魔物に、森の中で愚か者たちが来た方向を調べさせた。


 森の出口付近に陣を作っていた。

 しかし、はっきりしない動きだ。中に居る連中との連携が出来ていない。連絡のための使者が出たら捕らえるか殺すつもりだったのだが、中から外には情報が出ているが、外から中には、誰も入ろうとしない。


 1匹。面白いスキルを身に着けていたバットが居た。侵入させるか?


”スキル:インビジブル”


 バットの上位種が持っていたスキルだ。

 自分自身を不可視な状態にしてしまう。何か、当たってしまうとスキルが解除されるが、すぐにスキルを発動すればいいだけだ。


 指示を出してから、2時間は何も情報は得られなかった。

 森の中に入っている人族は居ない。原生生物は居るが、襲ってこない限りは無視するように命令を出している。原生の生物も、捕らえて、マイマスターの領域内で殺せば、ポイントで使役対象になるかもしれない。


 多分、ポイントの使役対象にするには、殺す必要があるのだろう。


「ふむ・・・。増援ですか?愚かですね。マイマスターの魔王城に数をぶつけるとは・・・。ひとまず、マスターにご報告ですね」


 マスターの部屋を尋ねると、マスターはお眠りになっていた。

 この幼い姿に、どれだけの叡智が収められているのだろう。素晴らしく、整った容姿。マスターから発せられる魔力の波動は、魔人の私にとっては、甘露のようなものだ。マイマスターのお許しがいただけるのなら、今すぐにでもマイマスターの横に入り込んで、マイマスターを抱きしめたい。マイマスターに壊されたい。

 ダメだ。マイマスターに邪な感情をぶつけてはならない。マイマスターは、綿入に夜伽をご希望されなかった。私は、マイマスターから求められたら、どのような扱いでも受け入れる。マイマスターのお望みのままに・・・。


「マイマスター。ご報告があります」


「ん?あぁセバス。報告?」


「お休みの所、もうしわけありません。緊急ではありませんが、お耳に入れておきたい事態が発生しました」


「どうした?ごめんね。”本”を見ていたら、眠くなってしまったよ」


「いえ・・・。マイマスター。外の連中に、増援が来るようです」


「増援?」


「はい。森の近くに輜重兵が固まっていましたので、使役したバットを潜入させた所、話が聞けました」


 マイマスターに、バットを通して、聞いた話をマスターにご報告しました。

 それから、ラットを走らせて、増援だと思われる者たちを確認させた報告をしました。


「そう?部隊が・・・。こっちの世界の単位は、わからないけど、2連隊規模なのかな?」


「増援部隊の人数は、全部で3,000名の増援です」


 人数を聞いても、驚かないのは、さすがです。マイマスターの魔王城は人数がいるから攻略が出来るとは限らない。話を聞いて、私も納得していますが、数は力です。合計で、5,000名近い人数になるは、恐怖を感じる数だ。


「ふぅーん。物資は?」


「はい。輜重兵の所に、増援の部隊が到着する前に、補給されたようです」


「そうか、量は?」


「バットの聞き込みではわかりませんでした」


「そうだね。前線に居る連中が持っている量と比べるとどのくらい?」


「調べさせます」


「あっ。でも、急がなくてもいいよ。どうせ、到着したら、奴らは自分で報告するだろうから、そのまま監視を続けて」


「かしこまりました」


「すぐには到着しないよね?」


「はい。行軍に時間が掛かっているようです。半日後だと思われます」


「わかった。俺は、お風呂に入ってから、一眠りするよ。セバスも今日は休んでいいよ。もし、なにかあったら起こしていいからね。起きなかったら、身体を揺すってくれれば起きると思うよ」


「はっ」


 私が、マイマスターのお風呂の介助を頼まれるかと待っていたが、マイマスターはベッドから飛び降りて、お風呂場に向ってしまった。

 一緒に入りたい・・・。存外の望みなのは解っていますが、マイマスターのお風呂の手助けはしたい。でも、欲望が押さえられるかわからない。呼ばれるまで、待機していよう。


「セバス」


 期待してしまう。


「はい!」


「休んでいいよ」


 違った。


「・・・。それでは、失礼いたします」


「おやすみ。セバス」


「おやすみなさいませ。マイマスター」


 マイマスターがお風呂の扉を開けて、中に入るまで見送ってから、マイマスターのお部屋から退出した。


 自室は、マイマスターの部屋から一番近い場所にした。いつ”すぐに来い”と、呼ばれてもいいように、準備もしている。

 もしかして、マイマスターは、私のような魔人はお好みでは無いのかもしれない。でも、私はマイマスターに望まれた存在だ。


 え?

 輜重兵が引き上げる?なぜ?予備兵力として使うのではないのか?

 距離が離れると、情報の伝達に支障が出てしまう。今回は、諦めるしか無いか?数匹のラットを紛れ込ませよう。それで情報が抜き取れればいいが、無理なら諦めよう。今後の為に、マイマスターに相談しなければならない。

 やはり、潜り込ませるスパイが必要だな。


 今、解っている所は、攻めて来ているのは、帝国だ。

 ギルドなる組織の者も居たようだが、現状では撤退しているようだ。

 魔王討伐部隊だと言っていたが、部隊をまとめるのが、帝国の第一王子だ。攻め方や言動から、無能なのだろう。

 15番隊と呼ばれている者たちが子どもたちを使った攻略を提案したらしい。マイマスターの言動から、15番隊の殲滅は決定事項だろう。7番隊と呼ばれる斥候や情報収集を任務とする部署が居たらしいが、実体は不明だ。殿下たちの話を聞く限りでは、臆病者だと言われているが、撤退の判断や情報の必要性を認識していた所から、7番隊は優秀なのだろう。


 増援部隊は、15番隊の隊長と5番隊と呼ばれる者たちだ。

 武器や物資を大量に持っているが、持たせているのは、15番隊の奴隷だと言っている。


 今までと同じ方法で攻め込んでくるようだ。

 何か、策があるのかと探っていたが、力で突破できると考えているようだ。魔王との戦闘経験がないのか?魔王城の破壊は、魔王が許可した場所しか出来ないのは、共通の認識だと思っていたが、違っているようだ。


 マイマスターを起こすような情報ではない。

 カウントダウンが終わるまでは、何も起きないだろう。


 潜り込ませているバットも誰にも気が付かれていない。


 本当に、帝国は何を考えている?

 5,000名程度で、マイマスターの魔王城が攻略できると本気で思っているのか?


 戦後処理を考えたほうがいいかもしれない。


 マイマスターは、攻めて来ている者たちを捕らえて、ポイントの取得に関する実験をおこなうようだ。

 私は、マイマスターのお考えに従って動くのみ。


 森に入って逃げようとする者を捕らえることにしよう。

 ウルフ種も群れになる程度まで増えたら、戦力として使えるかもしれない。森の中での戦闘訓練が可能になりますし、お役に立てる強者に育つかもしれません

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