第十一話 大活躍


 私は、里見さとみあかね。ギルド日本本部の常識担当。


 常識担当なのは、上司がぶっ飛んでいるのが原因だ。私くらいの常識人が居ないとギルドは成り立たない。

 同僚?になった、元自衛官も脳筋と腹黒の二人で、円香さんと気が合う。円香さんとまともに話ができる時点で、私の中で二人は”偉人変人”としてのカテゴリーに分類される。


 もう一人は、私と違った意味で常識担当の千明だ。


 その千明は、朝から出かけている。

 なぜかギルドで飼う事になった3匹の猫を病院に連れて行った。定期健診の知らせが届いた。里親募集で譲ってもらった姉妹猫だ。去勢は終わっている。そのために、定期健診を受けた方がよいと言われた。


 そして、先ほど、街中で”スライムの大量発生”が報告された。

 現場となる公園まで、車で10分くらいだ。


 しかし、移動に使える車は、千明が使っている。

 他にも車はあるのだが、魔物を討伐するための武器を積んでいく必要がある。今回は、スライムの討伐が目的で、調査ではない。従って、武器を持っていく必要がある。

 スライムだからと舐めていると、痛い目に合う。怪我は嫌なので、しっかりと装備品を持っていく必要がある。


 実際に、ギルドのWebサイトでもスライムに襲われて、手足を溶かされた写真を公開している。実際には、もっと酷い写真もあるのだが、うるさい団体から提示を控えるように言われた。

 私としては、現実を知らないで、怪我をする方が怖いから、積極的に公開したい。しかし、そういう画像を見て気分が悪くなる人が居るからという理由で抗議が何度も、何度も、何度も、何度も、届いた。面倒になって、公開を辞めた。

 公開を辞めた理由も、団体名を付けて公開した。魔物は危険なので、無暗に襲わないようにと注意書きをしたのだが、無意味な状態だ。

 ギルドからの警告を無視するような人たちのことは、自己責任だと切り捨ててしまう。


 今日は、スライム退治に向かう。


 武器や解析に必要な道具は準備した。

 円香さんが、千明に連絡をして戻ってくるように指示を出している。千明は、戻ってきている途中だったので、そのままギルドの前まで車を持ってきて、荷物を積み込むことになった。


「千明。運転を変わろう」


 孔明さんが、運転を変わった。

 助手席には、蒼さんが座る。


 私と円香さんと千明は、後ろだ。キャンピングカーになっているので、向かい合って座っている。


「円香さん。スライムでも、スキルは得られますよね?」


「あぁ私のスキルは、スライムを倒した時に得たものだ。どれとは言わないけどな」


 円香さんは、複数のスキルを所持している。

 データベースでは、ダブルとだけ掲載されていて、スキルの内容は掲載されていない。


 私も、スキルを持っている。もちろん、千明も・・・。でも、私も、千明も、円香さんと同じで、ギルドのデータベースには登録してあるが、本人以外には参照不可にしている。統計データとして使われるだけだ。この辺りは、徹底されているので、ギルドを信じることにしている。

 疑って登録しないという手段も使えるのだが、後で解ると面倒な手続きが必要になる。

 そして、登録しておくと、手当が付く。簡単にいうと、お給料が月で約5,000円もアップする。スキルの使い方や新しい発見が有れば、登録・申請して新情報だと認められると、約30,000円。新情報で無くても、約2,000円の報酬が貰える。


 考え事をしていたら、目的地近くに到着したようです。

 蒼さんが警察官と連絡をしています。


 野次馬をどかしてくれているようです。


「蒼。キャンピングカーで近くまで行くように言ってくれ。武器があるから、できるだけ近くに行きたい」


「わかった」


 円香さんの指示を受けて、蒼さんが交渉を始めます。

 入口にべた付けでいいようです。どうやったら、そうなるのか不明です。


 孔明さんがキャンピングカーを指定されている位置に停めます。

 覆面パトカーのギリギリの所です。私ならぶつけていたかもしれません。


 窓から、見ると本当に、公園がスライムで埋め尽くされています。


「蒼。孔明。警察に協力してもらって、ブルーシートで目隠しをしてくれ」


 ブルーシートで周りからの視線を遮る。

 これは、自分たちのスキルを隠す意味もありますが、魔物の討伐は綺麗ごとではないのです。蒼さんや孔明さんや円香さんでも、魔物に攻撃されればダメージを受けます。最悪は、死ぬ可能性だってあります。その場合に、目隠しが必要になります。

 私と千明は、3人の討伐を記憶する係です。

 嫌な係ですが、誰かがやらなければならないのです。魔物の討伐映像は、残して置かないと、また同じ状況になった時に、参考にできません。だから、やられるとしても、記憶映像は必要なのです。


「茜。千明。準備はいいか?」


「はい」「大丈夫です」


「頼む!」


 最初に、私たちがセッティングを行います。

 私は、そのままパソコンに取り込む形式で、千明はビデオカメラです。私は、3種類の動画です。赤外線カメラの映像と熱源カメラの映像です。もう一つは、通常の動画撮影です。千明は、8Kで撮影を行います。これで、ギルドに戻って解析を行う事ができます。私はケーブルの長さがあるために、あまりキャンピングカーから離れられませんが、それでも撮影には困りません。

 千明を見ると、頷いてくれます。

 撮影を開始したようです。


「円香さん。孔明さん。蒼さん。準備が出来ました」


 いつの間にか、着替えていた孔明さんと蒼さんがスライムに向かって行きます。

 本当に、何体のスライムが居るのか解りません。


 でも、事前に教えられていたように、公園の敷地内から出てこないので、安心して撮影を行えます。


「え?」


「茜。どうした?」


 まだ突撃していない円香さんが私の隣に来ます。


「今、蒼さんがスライムを飛ばしましたよね?」


「ん?あぁ」


「ほら!」


 円香さんにも私が言おうとした事が解ったようです。


「透明な壁?」


「はい。でも、蒼さんも孔明さんも入れました。天使湖とは違う物だと思います」


「熱源には?」


 端末は車の中ですが、今の状況なら付属のモニタで表示できます。


 円香さんに見えるようにします。

 確認をしても、何も不思議な所はありません。赤外線にも不思議な物は映っていません。もちろん、4Kのカメラにも、千明が持つ8Kのカメラにも不思議な物は映っていません。

 でも、透明な壁が存在します。孔明さんが、こちらの話が聞こえたのか、スライムをわざと高く放り投げた時に、5メートル程度で何か当たって落下します。横方向も同じです。


「孔明!こっちに飛ばしてくれ!」


 孔明さんが、指で合図をしたので、聞こえているのでしょう。

 それから、スライムを円香さんの居る方向に飛ばします。やはり、透明な壁に阻まれるように、スライムが空中で止まりました。


「円香さん?」


「わからない。まずは、スライムを殲滅する」


「はい」


 円香さんが武器を肩にかけて、公園に入ろうとした時に、3つの影が私と円香さんの間を走り抜けました。


「え?」


「は?」


 今日、病院に連れて行った3匹の猫。キャンピングカーでおとなしくしているはずです。


「クロト!ラキシ!アトス!」


 思わず、名前を叫んだのですが、3匹の猫は、振り向きもしないで、スライムに駆け寄ります。


「え?」


 クロトが可愛い手を振りぬくと、クロトの前方に居たスライムたちが、引き裂かれたようになり、消滅しました。


 同じように、ラキシが、両手を交互に振りぬくと、二方向に何かが吹き飛んだ様になり、スライムたちが消えます。


 アトスは、可愛く鳴くと、飛びあがって、信じられない軌道でスライムに突っ込みます。アトスが通過した場所に居るはずのスライムが消滅しています。


 猫パンチで、スライムが消滅します。蒼さんや孔明さんが、武器で殴打しても、一発では消滅しないスライムを簡単に消滅させています。


 動きも、一般の知られている猫ではありません。


「茜」


「円香さん。私に聞かないでください。私も驚いているのです」


 現状を察して、孔明さんと蒼さんも、私たちの所に戻ってきました。


 公園に居た多分500体を越えていたスライムは、10体程度まで減らされている。


「円香さん。スライムの天敵は、猫だったのですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る