第九話 また街へ


 街に行ってから、2か月が経過した。

 家の中に居るのも飽きてきて、裏山の改造をしている。


 頂上付近にある小屋を物見やぐらに変更した。細かいことは、私かライが行う必要があるけど、分体が居るので、平行作業ができるのはありがたい。別に、人が登れるような櫓を作っているわけではない。カーディナルたちが、羽を休めながら遠くを見るための場所だ。人だったころは登るのは不可能だけど、優秀なスライムボディなら問題なく登れる。


 物作りや改造は、スキルを使いこなす意味もある。スキルの数が多すぎて把握が追いついていない。新しい家族が増えて、名前を付けて、スキルが増える。この繰り返しだ。

 先日、爆発的にスキルが増えた。一気に増えた感じがする。もう、100とかではない。某有名なスライムの魔王みたいに、賢者から大賢者になって、アルティメットスキルにならないかと本気で考えたが、無理だ。スキルの統廃合はできるだけで満足しておこう。

 私が必要なのは、アイテムボックスと結界関連とスキル付与のスキルと魔石関連のスキルだけだ。攻撃スキルも大量にあるが、使える気がしない。

 攻撃なら、家族がしてくれる。私が一人になることは少ない。家族が必ず近くに居る。私が一人になって何者かに襲われても、家族の誰かが来るまで耐え続ければいい。自分に結界を張って、耐えるだけなら、1か月でも2ヶ月でも可能だ。天使湖の状況から、自衛隊や警察の攻撃なら耐えられる。

 結界を無効化するスキルを使われたら解らないけど・・・。あるか解らないスキルで悩んでもしょうがない。


 今は、ライに権限を委譲して、スキルの統廃合を行ってもらっている。スキルが増えても、影響がない。ないと思う。だけど、気持ちが悪いので、統廃合をして、家族に付与できるスキルは、付与しておきたい。


 そのために、ライの分体の数が普段よりは少ない。

 なので、私も裏山以外には出かけていない。心配性な家族が許可してくれない。


 裏山の全体に、結界を張ろうというアイディアも有ったが、天使湖との結びつける者が居ると厄介なことと、現実的な問題で却下した。

 現実的な問題は、魔石を使った結界は、いろいろ試してみて解ったのだが、大きめの魔石でも2週間くらいしか結界が継続しない。もちろん、結界の強度や広さに依存するのだけど、2週間では意味がない。弱くして長時間の継続でも意味を為さない。小さな魔石では3日程度が限界だ。これでは、意味がない。

 裏山はそれほど高くはないが、裾野は広い。全部を覆うように結界を発動すれば、魔石の交換だけど、2-3日は必要になり、終わる頃には、最初の魔石を交換しなければならない。魔石の補充は、心配していない。裏庭においておくだけで、魔石が元に戻る。不思議な現象だけど、なんとなく原因は解っている。


 裏山は、私の領地だ。国に認められている領地だ。

 税金も持っていかれている。吃驚するくらいの税金を請求された。あと、国民健康保険にも加入した。意味があるか解らないけど、入っておいた方がいいような気がした。年金の請求も来た。収入がないと記載しているから最低限の金額なのだが、それでも結構な額を持っていかれた。

 支援金や補助金の時には、半年くらい平気で待たせるのに、持っていくときには即時に連絡が来る。


 貯金にはまだ余裕があるけど、金策を考えないと・・・。

 生活は、なんとかなる。最悪は、裏山に逃げ込んで、サバイバル生活をしても問題はない。本当に、税金で首が回らなくなる。高校中退の元女子高校生をいじめて楽しいのだろうか?

 ネットで調べたら、生活保護という制度があるけど、我が家に人が来るのは避けなければ・・・。


『マスター。ノッグが、お話があるそうです』


「ノッグが?」


『はい』


「わかった。池に居るよね?」


『はい。お待ちしております』


 ライが、新しく家族になった一人、ウツボのノッグからの伝言をしてきた。

 タコのオクトとの同居がうまく行かないのかな?池を新しく作る方がいいかもしれない。


 話を聞いてみないと解らないよね?


 池に行くと、ノッグが待っていた。


「ノッグ。あれ?オクトと一緒?」


 塩湖じゃなくて、池だから、塩池?に行くと、ウツボのノッグとタコのオクトが揃って居た。喧嘩をしているようには見えない。


『マスター。ノッグからお話があります』


「それは、解ったけど、オクトは?」


 オクトがノッグの隣に居るのも、違和感がある。魔物になっていなければ、捕食者同士で敵対関係にあるはずだ。


 私の言葉を受けて、オクトとノッグがお互いを確認している。

 多分、話をしているのだろう。問題はなさそうだ。


 オクトとノッグの話し合いが終わったようだ。ノッグが、一歩?後ろに下がって、オクトが前に出て来る。


『マスター。食事の事ですが、オクトたちを含めて、他の者と同じで必要がないようです』


「ん?水中に、魔石が溶け込んでいるってこと?」


『はい。その解釈で大丈夫です。嗜好品として、餌があると嬉しいのは、他の者と同じです』


「わかった。何が食べたいか、まとめておいて?そういえば、水質はどうなの?問題はない?」


 塩をただ入れただけではない。

 ライにお願いして海水を持ってきてもらっている。それを、倉庫にあった大型の浄水装置で綺麗にしている。元々は、いけす用の物らしくて、海水にも利用ができる物らしい。


『それですが、海水でなくても問題はないようです』


 どうやら、この話はノッグから説明があるようだ。

 オクトが後ろに下がって、ノッグが前に出て来る。本当に、器用だ。


「そうなの?」


『ノッグがまとめた所で、出来れば、小型の”いけす”が欲しいそうです。その中で、しばらく過ごして、”名”を馴染ませれば、カラントやキャロルたちと同じ場所でも大丈夫になるようです』


「準備するのは、魔石を馴染ませた”海水のいけす”でいいの?その後は、川から引いた水に魔石を馴染ませた場所?」


『はい』


 たしかに、池の大きさを海水で満たすのは、面倒だった。今後、海水が汚れたり、雨が振る度に入れ替えるのは手間だと考えていた。


「ライ。カラントとキャロルに連絡して、庭のいけすを海水にしても大丈夫か聞いて、問題がなければ、庭の池を海水にして、この池を皆が住みやすい環境に変更して」


 ノッグもオクトも賛成してくれる。

 庭には、2つの池があるから、海水と淡水で作ればいい。


 すぐに、カラントとキャロルから”大丈夫だ”と返事が来て、さっそく変更が実行された。オクトが、庭に常駐するようだ。池に流れ込む川の調整も行った。具体的には、魔石を詰め込んだ網を沈めてある。これで、池の水には魔石の成分が溶け込むことになる。


 計画を含めて、ライと私の分体が担当する。


 水棲の者たちも順調に増えている。

 また”名”を考えないと・・・。そろそろ、ネタ切れになりつつある。


 家に戻ると、パロットが駆け寄ってきた。

 スライムボディをテシテシしてくるので、何か用事があるのだろう。パロットが普段から使っている部屋に移動する。


 スライムの大量発生?


 現場は、私が通っていた学校の近くだ。場所は明言されていないが、通ったことがある者なら解る。

 スライムは全て駆除されたと報道されている。もし、ライの元となったスライムたちと同じなら、スキルは芽生えない。


 ライにも確認が必要だけど、急にスキルが増えたのは、スライムたちが駆除されたから?

 以前にライからの報告で、私をスライムにした人が、魔物を作成できるのは確実だ。その時に、作成された魔物は、私の眷属になるようだ。従って、討伐された時に、スキルの芽生えは私が対象になっている。らしい。ライにも、なんでそうなっているのか解っていないらしい。でも、私のスキルが増えているのなら、多分、ニュースになったスライムの大量発生は、私をスライムにした人が起こした事だろう。


 そうなると、私をスライムにした人は、魔物の作成のスキルを持っているけど、作成できるのは”スライム”だけ?

 そんなスキルがあるの?


 ギルドのデータベースには、もちろん登録がされていない。

 ”スライム作成”や”スライム生成”や”魔物作成”でもヒットしなかった。


 ニュースでやった場所を見に行けば何か解るかな?

 もしかしたら・・・。

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