優しくしたい/突き放したい
指でツカサの髪を梳きながらドライヤーの熱を当てていく。
(俺とツカサはいつまでここにいるんだろう)
ツカサの髪からは自分と同じシャンプーの匂いがした。
(ツカサがどこかに帰ったら俺は新しい同居人を待つんだろうか)
冷めた紅茶を飲んで、書斎をあさって、変化のない日々を続けながら。
あの人やツカサの面影をどこかに求めて。
そして俺はまた、ドライヤーを持つ手を止めてしまった。
「あっつ!!手ぇ止めるなよ!」
「ご、ごめんっ!多めに撫でるから許して!」
ツカサの頭と自分の指を熱したドライヤーを一旦止める。
「許さなかったらもっと色々してくれるのか?」
ツカサが俺を振り返って、物欲しげに目を細めた。
「だったら許されなくていいかな」
絡みつく視線から目をそらして、指の熱を払うように軽く振った。
再びドライヤーを稼働させて、俺より少し長いツカサの髪を念入りに乾かす。
片方だけ長いサイドヘアーなんかはしょっちゅう半乾きのままにしてしまうらしいので、より丁寧に。
ドライヤーを一旦止める。ツカサの髪に何度も指を通して、湿ったところがないか確認する。
ドライヤーをベッドに置くと、ツカサが振り返って意地の悪い笑みを向けてきた。
「覚悟は決まってるよな?」
観念したように微笑んで、ツカサのつややかな黒髪に手を伸ばす。
心地よい熱の残る頭を優しく撫でる。さらりとした手触りが心地良い。
「いい気持ち……」
ツカサはうっとりと目を細めて、俺にされるがままだった。
「ねぇ、一緒に寝ない?」
ツカサが俺のパジャマの裾を掴む。
頬を染めるツカサの隣にはダブルベッドがある。
「俺、二階のソファで寝るよ」
かまわずに背を向ける。一緒に寝るのは三年前にやめた。
それを今更変えるつもりはない。
「寝ようよ、二人でさ!」
背後で椅子の倒れる音がした。それでも振り返らない。
一度決めたことを揺るがされるのが怖かった。
「日記とおんなじで線引きだよ」
そうだ、部屋から自分の日記と筆記用具を取ってこなくちゃ。
「おやすみ」
何もなかったみたいに、一日の終わりの挨拶をして部屋のドアを閉じる。
隙間から見えたツカサの悲しげな表情を振り切るように急ぎ足で自室に向かった。
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