第22話 炎の壁

 第七階層からは、ゴーレムが加わる。


 スケルトン同様、核を壊さなければ倒せず、それが土でできた体のどこにあるかわからないという厄介なモンスターだが、三人の敵ではなかった。


「土というか……要は粘土ですわよね……」


 ゴーレムを前にぶつぶつと呟いたシェスは、ゴーレムの足元に火柱を生成させた。


 ごぉっと燃え上がる炎に焼かれるゴーレム。


 ぎしっとゴーレムは動きを止めた。


 高温であぶられて焼き物になってしまったその体は、レナの剣で容易に砕けた。


 床に転がり落ちた核を、がきんと剣で叩き割る。


 ティアに至っては、核の位置がなんとなくわかるらしく、突きでずぼっと手を入れ、素手で核を引き抜いていた。もちろんそれは手の中で握り潰される。


 身体強化で感覚も鋭敏になっているとはいえ、獣人だからこその芸当だ。


 三人はモンスターの方に同情したくなるほどの無双状態だった。


 ゴブリンロードに苦戦して食ってしまった時間を取り戻すように、快進撃を続けていく。


 第六階層で一日消費すると思ったが、その日は第七階層の途中まで進む事ができた。ほぼ中央にある休憩部屋まではたどり着けなかったが、モンスターを減らすことはできた。十分な戦果だ。


 レナが自主的に早い段階で切り上げたのも評価できる。もう少し続けるようだったら、俺から言い出そうと思っていたところだ。


 第六階層の休憩部屋まで戻った後、三人は半分うとうとしながら食事をして、そのまま気を失うようにして眠りについた。


 


 次の日、休憩部屋でぐっすり眠って元気いっぱいの三人は、第七階層も順調に進んでいった。


 第六階層よりも出現するスケルトンの数が多いため時間はかかったが、所要時間は許容範囲内だ。


 その勢いが止まったのが、第八階層だった。


 ここにはスケルトンメイジが出る。初めての魔法を使う敵だ。


 周りをぐるりと炎の壁で守られてしまっては、レナもティアも手出しができなかった。


 スケルトンメイジは魔法耐性が強く、シェスの魔法でも倒せない。


 シェスがウォーター・ボールで炎の壁に穴を開けるも、すぐにふさがってしまう。


 ティアが得意な炎系の魔法で攻撃したが、炎と炎では、当然ながら全く効かない。


 その合間に魔法で攻撃されてしまえば、レナとシェスが剣と防御魔法で防ぐしかなくなる。


 なんとか最初の一体は倒せたものの、あまりにも時間をかけすぎて、タイムアップとなった。


 疲れるほど戦闘をしていないため、三人にはまだまだ余力があったが、ティアもシェスも戻ろうと言ったレナの言葉に反論しなかった。


 第七階層の休憩部屋まで戻り、そこを本日の宿泊場所とする。


「どうしたらいいのかしら」


 夕食を食べながら、レナが言った。


「一体を倒すのにこれだと、複数いたらどうしようもありませんね」

「……逃げる?」

「それは無し。あいつらをさけて先に進んだとしても、どうしても通らなゃいけない部屋や通路があるの」


 レナが第八層の地図を出した。


「ほらね、こことここは絶対に通らないといけないのよ」

「逆に言うと、そこ以外は複数の経路があるということですわよね。上手く誘い出せば、通ることはできないでしょうか」


 つつっとシェスが地図の上に指を走らせる。


「……挟み撃ち」

「そうなの。避けて通ることはできたとしても、後ろから追いかけてこられたら終わるわ」

「狭い通路で挟撃されたら丸焼きですわね。わたくしでは前後の両方を守ることはできませんから」


 うーん、と三人は首をひねる。


「それに、たとえ運良くこのフロアを抜けたとしても、下の階でまた出てくるわよね。いつまでも逃げられるわけじゃないもの。倒す方法を考えないといけないわ」

「……まだ出る?」


 ティアが離れた所にいる俺に聞いてきた。


「ああ、この下にも出るぞ」

「帰りもありますわね。抜けられなくて時間切れになるのは困ります」

「そうよねぇ……」


 ちらりとレナがこちらを見た。


 俺は三人でも倒せる方法を知っているが、まだ教える気はない。本当に時間ギリギリになるか、「教えて下さい。お願いします」と三人で頭を下げて頼んでくるなら教えてやろう。


 ふっ、と鼻で笑って見せると、くっとレナが悔しそうな顔をした。


「案内人のくせに……!」


 悪態をついたが、レナはそれ以上文句は言ってこなかった。


 初回の時に、俺は案内人としてモンスターのことは教えてやる、と言ったから、それを持ち出してくれば教えてやらんでもないんだがな。


 自力突破を目指しているから、というよりは、俺に聞くのが嫌なんだろうな。


「……相討あいうち?」


 腕を組んで首をかしげたティアが言う。


「炎の中に飛び込むということですか? そのような危ないこと、お二人にさせられませんわ」

「ポーションがあるわ。それしかないのなら、そうするしかないわね。火傷やけどくらい、治せばいいのよ。私はよろいもあるし」

「耐火のポーションがあればいいのですけれど……」

「……クロト」


 ティアが俺を指差した。


「耐火のポーションか? もちろんあるぞ」

「用意がいいわね。まさかこうなることを見越して持ってきたんじゃないでしょうね?」

「当たり前だろ」


 遭遇そうぐうするモンスターへの対抗策を用意しておくのは当然のことだ。


 俺の知っている攻略法とはこれの事だった。


 耐火のポーションで炎の壁を無効化できれば、物理攻撃に弱いスケルトンメイジなんて、レナとティアの敵ではない。


「潜る前に教えなさいよ!」

「調べておかない方が悪い」

「くっ……!」


 レナがまた悔しそうに顔をゆがめた。


 案内人の地図同様、冒険者ギルドで手数料を払えば、各階層にどんなモンスターが出るか教えてもらえるのだ。


 それをおこたるからこういうことになる。


 その辺のこと、学園では教わらないのか? 何のための学園なんだ? 戦闘訓練しかしていないのか?


「……仕方ない」

「そうね……こいつから買うしかないわね……嫌だけど」

「耐火のポーション……あら?」


 シェスがあごに手を当てて考え込んだあと、はっと何かに気づいたような顔をした。


「……持ってる?」

「いいえ、ですが……」

「何々? どうしたの?」


 シェスが口を押えて恥ずかしそうに笑った。


「わたくし、耐火魔法が使えましたわ。今回は攻撃魔法ばかり使っていたのと、普段あまり使わないものですから失念しておりました」

「やったー! ふふん、ざまーみろー!」


 レナが両手を挙げて喜んだ。そして俺を見る。


 その「ざまーみろー」はスケルトンメイジにじゃなくて、俺にかよ!?


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