第53話
洗いたての絨毯を、地下の空調装置で乾かした物の上にレトは窮屈そうに片足を持ち上げて座り込んでいた。
偶然にもその場所には金色の光が斜めに射していて、彼女はこの時も、なにが記されているかも知れない小さな紙の束に夢中になっていた。
「次は背もたれのある場所にしよう」
ヨナがそう言うと、彼の胸の中で安らかな眠りについていた幼子が急に目覚めて泣き出した。理不尽で、図々しく、欠片ほどの知性も感じさせない一方的な主張である。
しかし、時としてそのような原始的な手法こそが最も効果的な場合もあるのだ。少なくともこの時はそうだった。
レトが手にした紙束を差し出して、丁度、幼子と交換するような形となる。
彼はヨナの元を離れるとすぐにレトに張り付いて、小さな背中で自らの権利を主張した。
「ああ、ヨシヨシ」
レトが幼子を器用に操って安定させたので、ヨナは彼女の後ろに回ってせめて背もたれの代わりにでもなれば幸いと思っていた。
ふと、レトが夢中になっていた紙束に目が行った。
古く上質な紙にはびっしりと何かが書き込まれている。
信じがたい事に、それは文字だった。
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