2-4. 判定試験

 男はギルドマスターだった。

 応接室に通された二人は、ソファーを勧められる。


「今日は……、どういった目的で来たのかね?」

 ソファーに座ると早速マスターが切り出した。

「冒険者登録と魔石の買取りです。あ、それから暗黒の森の遺跡でこれを拾ったので届けようかと……」

 そう言いながら生贄にされていた冒険者の認識票を手渡した。

 マスターはいぶかしげに認識票の文字を読み、ハッとする。

「ヘ、ヘンリーじゃないか……」

 そして、ガックリとうなだれ、しばらく肩を揺らしていた。

 ヴィクトルは発見した時の状況を丁寧に説明する。もちろん妲己については黙っておいた。

「ありがとう……。かたきを討ってくれたんだな……」

 そう言いながらマスターは手で涙をぬぐった。

「話を総合すると……、君たちはSランク冒険者ということになるが……」

 マスターは二人を交互に見る。

「あ、僕はFランクがいいんです。目立ちたくないので……」

 ヴィクトルは両手を振りながら言った。

「何を言ってるんだ! ランクは強さに合わせて適切に設定されるものだ。試験をやるから受けなさい」

 マスターは厳しい口調で言う。ヴィクトルはルコアと顔を見合わせた。

「まぁ……試験くらいなら……」

 ヴィクトルは渋々答える。


        ◇


 ギルドの裏の空き地に行くとカカシが何本か立っていた。

「あー、君、名前は?」

 マスターが聞いてくる。本名は避けたかったので、

「僕はヴィッキー、彼女はルコアだよ」

 と、適当に返した。


「よし、まずはヴィッキー、あれに攻撃してみてもらえるかな?」

 マスターはカカシを指さして言った。

「攻撃を当てたらいいんですね?」

「なんでもいい、好きな攻撃をしてくれ。手抜きをしたらバレるぞ!」

「……。分かりました」

 そう言うとヴィクトルはカカシをジッと見て、指先を少し動かした。


 ピシッ!

 と、カカシが鳴る。

 ニコッと笑うヴィクトル。


「どうした、早くやってくれ」

 マスターが急かす。

「もう終わりましたよ」

 ニヤッと笑ってマスターを見るヴィクトル。

「へ? 何を言ってるんだ、カカシに当てるん……、へ!?」

 なんと、カカシが斜めに斬れてズルズルとずれだし、そして、ドサッと転がったのだった。

 唖然あぜんとするマスター……。

「主さま! すごーい!」

 ルコアはヴィクトルに駆け寄ってハグをした。

 ふんわりと甘い香りがヴィクトルを包む……。

「ちょ、ちょっと、離れて!」

 ヴィクトルは照れてルコアを押しやる。

「ハグぐらいいじゃない……」

 ルコアはちょっと不満そうだった。

「ヴィッキー、お前、一体どうやったんだ?」

「風魔法を使ったんです」

「……。俺は昔、大賢者アマンドゥスの魔法を見たことがあるが……、彼でも魔法の発動にはアクションをしてたぞ? 君はアマンドゥス以上ってこと?」

 マスターは困惑してしまう。

 ヴィクトルは目をつぶり、ため息をつくと、

「あの頃は……、修行が足りませんでしたな」

 と、アマンドゥス時代を思い出して言った。

「あの頃?」

 怪訝けげんそうなマスター。

「あ、何でもないです! 僕、この魔法ばかりたくさん練習しただけです! はははは……」

 ヴィクトルは冷や汗をかきながらごまかす。

 そこに若い男がやってきた。

「マスター! なになに? 試験やってるの? 俺が試験官やってやるよ」

 男は陽気に剣をビュンビュンと振り回して言った。

「止めとけ! お前が敵うような相手じゃない!」

 マスターは険しい声で言う。

「はぁ? このガキに俺様が負けるとでも思ってんの?」

 男は不機嫌に返す。

「いいから、やめとけ!」

 マスターは制止したが、男は言う事を聞かずに、

「俺様の攻撃をよけられたら合格だぜ!」

 と、叫びながらヴィクトルに斬りかかった。

 ヴィクトルは指先をちょっと動かす。

 直後、キン! と甲高い音がして刀身が粉々に割れた。

 柄だけとなった剣をブンと振り……、男は凍り付く。

「へっ!?」

 そして、剣の柄をまじまじと見つめ、

「お、俺の剣が……、俺、これしか持ってないのに……」

 そう言ってガクッとひざから崩れ落ちた。


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