第92話 カリブとカタリナ、スラブ街へ行く

「カタリナ、荷物はこれで全部か?」


 俺(カリブ)は担いだ家具を荷車へ押し込む。


「はい! じゃあ出発しますか」


 俺とカタリナは大会での惨敗を実家に知られ、勘当された。

別荘も今日一杯までと言い渡された。

大会に出なかったら今頃どういう精神状態になっていたかわからない。

だが、今は何故だかわからんが心が落ち着いている。

思えば、常に期待される毎日にプレッシャーを感じていたのかもしれない。


◆◇◆◇◆


「カリブ様、家財は全て売却できましたよ」


 重い荷物が消えてスッキリしたのか、カタリナの顔は澄んでいた。

彼女は懐から金貨の入った袋を取り出し、数えだす。


「えーっと、1か月分はあります」


「少ないな。それでは生活費分が余らない。まぁ仕方ないか」


 俺が肩を落としてため息を吐くと、カタリナは不思議そうに様子を伺ってきた。


「カタリナ、俺たちはもうこの国では肩身が狭いんだ。隣国のギルドで働くしかない」


「そうですよね。顔が知れている以上、普通の仕事に就くとしても雇い主に迷惑がかかりそうですし」


「あぁ、だからこれを改めなきゃいけないんだ」


 俺は右手に刻印された紋章を見せる。

この世界で生まれた人は、生まれてすぐに名前を右手に刻印される。

国や家柄、戸籍などの様々な情報が入っている。

この刻印がある限り、俺たちは一生勇者一族の落ちぶれ者として世間に言われるわけだ。


「でも、刻印の改称はこの金貨全てを合わせても足りませんよ?」


 改称は暗殺者や犯罪者に使われないよう、通常は国の管理する施設で大金を支払わなければできない。


「いや、それで足りる。スラム街へ行くぞ」


 スラブ街には、紋章を改称してくれる闇の者がいると噂で聞いたことがある。

頼りになるかわからないが、探してみるか。


「え、はい! わかりました!」


◆◇◆◇◆


「着いたな」


「はい」


 蜘蛛がそこらじゅうに巣を張り巡らし、陽があるのに薄暗く淀んだ空気が蔓延している。

スラム街は初めてきたが、酷い有様だ。

こんなのを放置してしまうから王への不満は積もるというもの。

ま、俺らには関係ないが。


「カ、カリブ様、置いて行かないでくださいね?」


 カタリナは大きな身体でビクビクと震えながら、俺のすぐ後ろを着いてきた。


「お前、幽霊とか怖いのか?」


「え!? ぜんぜんそ、そんなことないですけどぉ?」


 すげぇ動揺するじゃん。


「そういえば、スラム街に行く! って言った時、なんで何も言わなかったんだ? そこまで怯えるくせに」


「そ、それは......カリブ様が決めたことなので、私はただ」


 怯えて言葉が詰まったのか?

ともあれ、俺は本当馬鹿だな。

カタリナ、俺は今までお前に酷い仕打ちをしてきた。

それでも付いてきてくれるというなら、これ以上悲しませる訳にはいかない。


「ここっぽいな」


 考えにふけっていると、奥の方でスラブ街というのに少し賑わいが響いていた。

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