第82話 カタリナVSクロノス 後編

 やりました、カリブ様!

後一つ、この方の風船を割れば勝てる。

落ち込んでいるあなたのためにも、この試合を勝って勇者パーティーを再評価してもらはなくては。

私(カタリナ)は盾を構え、グリフォンの無数の羽の矢を防いだ。


「クッ」


 反射する盾だけど、遠距離からの攻撃は跳ね返せない。

正確には、跳ね返しているけど接触していないと意味がない。

だから、遠距離攻撃を反射すると反作用するパワーを反動で受けてしまう。

盾を掴む手は、ダメージを蓄積されて握力が弱まっていった。


「盾使いカタリナ、空中からの攻撃を必死に防ぐが耐えられるかー!」


 カリブ様、私へ勇気をください。


__幼少期__


 私は貴族の学園へ入学してまもない頃、いじめにあっていました。

理由は、私が一回りも普通より背が大きかったからでしょう。

小さき歳では女性の方が成長が早いと言いますが、私の場合は10歳にして成人男性並でした。


「やーいデカ女、年齢詐称してんだろ!」


 男子からは暴力とかはなく、こうしてストレートな悪口を浴びせられていました。

でも、この程度の暴言は入学して1ヶ月ほどで耐えられるようになります。


「ちょっと男子ー、カタリナさんが可哀想でしょ!」


 しかし、同性の攻撃には、慣れることができません。

彼女たちは、表面上は庇ってくれますが……。


「おーい席につけ!」


 あ、先生が来てしまいました。

私が席に戻ろうとすると、先生が腕を掴んできます。


「なんですか? 先生」


 そう声をかけると、先生はすんすんと匂いを嗅いで自身の鼻をつまみました。


「カタリナ、昨日風呂入ったか?」


「はい」


 そう返事をすると、後ろから彼女たちの笑い声がしました。

振り返ると、香水の瓶を持ってニタニタと嬉しそうにしていました。

私は察して、自身の服を嗅ぐと汚れた雑巾のような臭いに気付きました。

恐らく、彼女たちが私を庇った時に……。


「そうか、女の子なんだからちゃんと洗ってこいよ。さ、授業始まるぞ」


 私が席へ戻る途中、クラスの隅々から臭いと暴言が聞こえてきます。

背が大きいだけでなんで、こんな扱いを受けなきゃいけないの?

そう悲しくなりますが、もうこの環境に慣れきってしまったので涙すら出てきません。

私はただ黙って、席に座りました。


「チっ、くせぇな」


 腰をかけると、隣にいたカリブさんがそう声を漏らしました。

あなたもやはり、そう思いますよね。

昼休み、私は校舎の真裏へ来ていました。

ここなら、誰にも邪魔されず心を落ち着けるからです。

と、いつもは思っていましたが先客がいました。

あれは、カリブさんと私によくいじめてくる男女6人組。


「何よあんた!」


 あの子は、香水を持っていた女の子。

6人組の中でリーダー的な存在。


「だからよ臭ぇからやめろっていってんだよ。やるなら貴族らしく、決闘しろや」


 カリブさん、もしかしていじめを辞めさせようとしているの?

でも6人相手に勝てるわけない。


「うるさいわね、あんたもわからせてあげる。やってちょうだい」


 カリブさんへリーダー格の女の子が指を向けると、3人の男の子たちが襲いかかった。


「ハハハ! そうだよそれしろってんだ」


 私は見ていられず、思わず目を塞いだ。

その間、3回ほど鈍い音がしてからは沈黙が続いた。

しかし、数秒すると彼女たちの震えた声が耳に入る。


「ご、ごめんなさい。も、もうしないから。女の子は殴らないわよね流石に、ねぇ!」


 視界を広げると、カリブさんが3人の男の子を打ちのめしていた。

嘘、あの人数相手に1人で?

カリブさんは詰め寄り、怯える3人の女の子を睨んでいた。

拳を振り上げ、彼女たちの背後にある壁へヒビを入れた。


「わかったか? 気に食わないなら貴族らしく堂々と戦えや! 汚い真似すんな」


 そう言い残し、尻餅をつく3人組から離れていった。

私はその後、授業が始まる前に隣の席にいたカリブさんにお礼を言った。


「カリブさん、先程はありがとうございます」


 荒々しいけど、私の味方をしてくれる人今まで出会ったことがない。

お礼を言っても、感謝しきれない。

彼は私が声をかけると、鋭く睨んできた。


「てめぇもあいつらほどじゃないけど、臭えなやっぱ。強くなれ、そしたら誰も手を出さなくなる」


「はい! カリブ様」


__現在__


 カリブ様、私がここまで強くなれたのはあなたのおかげです。

あなたが守ってくれたように、私は……。

私は小さな盾をもう一つ、大盾の内側から取り出した。


「おーっと! カタリナが飛んだー!」


「てめぇ! 盾の反射を自身に使うとか馬鹿か!」


 バロニカさん、あなたの言うこともっともです。

爆弾の衝撃を大楯に当て、小さな盾へ跳ね返ったのをさらに反射する。

こうすることで強い反動を受け、数メートルだけど飛ぶことができる。

同時に左手が反動ダメージで使えなくなる。

けれど、これであなたへもう1度棘が爆散する玉をぶつけることができる。


「当たって!」


 大声と共に投擲されたそれは、狙い通り彼へ当たる軌道上に向かっていた。

喜びかけたその時、バロニカさんは変身を解いて人間の状態へ戻った。


「俺にこれを使わせるとは、大したもんだ。テレポーション!」


 そう彼が言うと、魔法陣が展開した。

玉が陣の中に吸い込まれるように入っていき、ようやく気づく。

あれは、シュエリーさんと同じ魔法!?

私は背後から飛び出してきた玉を回避できなかった。

無数のトゲを身体中に浴び、風船は全て破裂した。

そして痛みが全身に走り、ワンクッションを作るための小火力の爆弾が懐から取り出せない。

この爆弾を地上にある大楯に当て、この盾の跳ね返りの反動で落下を防ぐつもりだった。

だけど、このままじゃ私……。


死を覚悟したその時、私の身体は何かに横抱きされていた。

身体が砕かれるのを想像していたけど、これは一体。

目を開くと、そこにはあの方がいた。


「チッ、負けてんじゃねーか。ブス」


 カリブ様……。

私は安堵したせいか、意識を失った。

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